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War30:Under One Roof⑥
散らかった部屋とは違い、綺麗に片づけられたバスルームにはシャンプーとボディーソープそしてスポンジしかない。忙しい毎日でゆっくりお風呂に入る事もないと見てわかる。
千遥が普段使っているシャンプーを見るだけで心が踊 る奏。2回プッシュし手に出して匂いを嗅いだ。
そういえばバスでキスした時もふっとこの香りがした気がした。そのまま髪につけて泡立てる。千遥の香りに包まれるような気がして心地よい。
シャワーの湯気で体も熱くなって、いつもより早くバスルームを出た。
タオルで髪をガシガシ拭きながら出てきた奏が見たのは綺麗に片付けられたキッチン。さっきまで真っ黒だったフライパンもピカピカでゴミまで捨てられている。
「千遥さん?あっ……寝てる?」
ベッドルームに入るとベッドの上で倒れ込んだようにうつ伏せになった千遥が目に入った。
近づいて顔を覗き込むとすっかり寝入った様子。
「千遥さん、千遥さん!」
『……ん?』
小さく耳元で声をかけると目を開けた。
『あっ、寝てた。……キッチン片付けてたらなんか疲れちゃって』
上半身だけ起き上がって少し寝ぼけた顔で奏を見た。奏は何か吹っ切れた感覚になって気がつけば無意識に千遥を抱きしめていた。
『えっ、、奏くん?』
突然の事で戸惑 う千遥は力なく奏に体を預けた。まだ濡れている奏の髪が冷たく頬に当たる。
「もう、千遥さん、可愛すぎます」
『ちょっとどうしたの急に?』
奏の腕から逃れようとするがギュッと強く抱く力から逃れられない。
「俺、千遥さんにいっぱい迷惑かけてるのにどうしてそんなに優しいんですか?」
『どうしてって…それが仕事だから……』
「本当は昨日、凌太にも嫉妬してました。千遥さんを取られた気がして。最低ですよね、倒れた凌太にそんな事思うなんて」
彼の言葉の意味がよく分からなくてずっと抱きしめられままただ聞いていた。
「……千遥さんを独り占めしたい。」
抱く力が強くなり、濡れた髪からポタリと水滴が落ちた。心の声が言葉になった瞬間だった。
『……とりあえず髪乾かそ。風邪ひいちゃうよ』
「風邪引いたら千遥さんに看病してもらうからいいです」
子どもみたいな口調で甘えるように言う奏。
『ダメだよ』
「それじゃ……今日一緒に寝てくれますか?」
『なんでそうなるの?』
「じゃ風邪引く!」
『、、分かったよ』
何だか押されて一緒に寝る羽目になったけど今日のベッドはいつもと全く違うもののように感じる。
彼が僕に何を求めているのか、それにどう答えればいいのか分からないけど今はこのに身を任せたいと思った。
それからさっさとシャワーを済ませてベッドに行くと布団に入ってスマホをいじっている奏が目線をこっちに向ける。
「あっ、千遥さんのパジャマ姿可愛い!」
『あのさ、さっきから可愛いとか年上の男に言う事じゃないから』
「すいません、つい」
なかなか布団に入ろうとせずドアの前で躊躇している千遥を見て、布団を捲りあげてポンポンと布団を叩く奏。
「何してるんですか?入って下さい。大丈夫ですよ。何もしません!」
「ちょ、、そんなの当たり前!」
二人で寝たところで別に何も問題はない。しかも10歳年下の男子ならなおさら。深く考え過ぎないでただ普通に寝ればいいだけ。
千遥はベッドに上がって布団に入った、ダブルベッドの端っこにちょこんと。
「えっ何でそんな端っこにいるんですか?」
『いや、ここでいい』
「だめ。もっとこっちに」
千遥の体を自分の方にグイッと引き寄せピッタリ体がくっつくと流石に恥ずかしくなり顔が赤くなり鼓動が早くなるのを隠すように背中を向けた。
『もう寝るよ』
リモコンで照明を落として暗くなった部屋は静けさを増した。千遥の背中を見ながらこんな日が来るなんてと奏は内心は張り裂けそうな思いを抑えるのを必死だった。
「はい、、千遥さんおやすみなさい」
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