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War32:Under One Roof⑧

 大晦日の映画館はカップルや家族で賑わっていた。雪でも降ろうかというほど気温もかなり下がった12月末に数年ぶりの来た映画館。 しかも友達でも家族でもなく担当しているアイドルグループの男の子と映画を観に来るだなんて去年の今頃は想像もしていなかった。  「思ったより人がいますねー!チケットはあっちみたいですよ」 チケット発券機に並んでる列の最後尾についた。ずらりと並んだ館内のポスターがワクワク感を煽る。  "Moon Light Love""純愛ラブストーリー" タイトルやポスターの文句にも目がいく。ただでさえ恋愛映画を観るなんてさっぱりなのに、隼斗の主演だなんて小っ恥ずかしくて観ていられるだろうか。今までだって隼斗の主演作はあったけど観ることは無かった。特に理由はないけれど。    「えーっと、真ん中埋まってるから席後ろの方の席でいいですかね?」  『うん。どこでもいいよ。はい、お金!』 手際良く機械を操作してチケットを発券する奏に何となく軽く聞いてみる。  『慣れてるね。映画館よく来るの?』  「はい、普通くらいに来ますよ。学校帰りに友達とかと」  『あとはデートとか?』  一瞬操作する手が止まって真剣な表情で手つきがスローに変わる。  『あっ、、いや冗談だよ!……まぁ僕は別にそうゆうのいちいち口出しする気はないし』 ピーっと鳴った機械からチケット2枚とお釣りが落ちてきたが、、取ろうとしない奏の顔を不思議に思い覗きこむ。  「じゃー…俺に彼女がいても大丈夫って事ですか?」  『えっ?まぁ、その……』 少し冷たい言い方に聞こえて何と返せばいいか頭の中で的確な答えを探してあたふたしてしまう。  「あっ、そうだ!ポップコーンとジュース!」 突然声を出して不穏な空気を取り払うように話題を変えた奏。  『、、食べたい?じゃ買う!?』  お釣りを手を持ったまま売り場へ向かう背中は少し機嫌を損ねたように見える。千遥は顔を歪めながら列ができている売り場に並んで、会話はないまま列は前に進んでいく。 聞いた事を後悔しながら話すタイミングを図っていた。  「ねぇ、あれっての奏じゃない?」  「えっ!どれどれ?DeeparZの?」  「そうそう、絶対そうだよ!もう1人は?」  「多分メンバーでは無さそうだからマネージャーとか?」  隣の列の少し後ろから聞こえる女子達の声。さっきから何となく視線に気付いていたが噂されるくらいは問題ないしすぐ立ち去ればいいだけ。  「ちょっと写真、写真!」 女子達がカバンからスマホを取り出して、こちらに向けられてるのが分かるがどうするべきか。流石に言わないと僕は問題ないけど彼が、、、  「お待たせしましたー次の方どうぞ!」 注文の順番を呼ばれ列を進ん二人同時にメニュー表を見て選ぶ。  『えっとポップコーンと……』  「千遥さん、ちょっと注文してて下さい。俺はコーラで!」  『えっ!!待ってどこに!?』  メニュー表から目線を外して女子達に向かってスタスタ歩いて行く。女子達もいきなり自分達に向かって歩いてくるから何事かといった表情で構えていた。  『奏くんちょっと!』 注文品を受け取るまでその場から動けない状態でヒヤヒヤしながら彼の行動を見ながら何も起きない事を祈った。

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