33 / 53
War33:Under One Roof⑨
「あの、写真はごめんなさい」
真正面からストレートに言った奏にタジタジしながスマホを隠した女子達は申し訳なさそうに俯き気味だ。
「……すいません」
「でも良ければ一緒に写真撮りますよ」
一変しここぞとばかりのアイドルスマイルで俯いた女子達の顔を覗きこむ。
「えっ!!いいんですか?」
声も甲高くなりちょっと照れながら奏の意外な言葉に女子達は素直に喜んだ。
「ほら、隠し撮りだとカッコよく映らないじゃないですか。だからちゃんと撮りますよ!ここだと周りの迷惑になるので良ければあっちで」
「はい!」
ジュースが来るのを待ちながら奏を心配そうに見ている千遥。何となく見える雰囲気、さっきまで強張 った顔の女子達が笑顔に変わったのどうしてか?何があったのか気になってならないがここから離れられない状況。
そうこうしているうちに女子達は並ぶ列から外れ奏に付いて行ってしまった。
「はい。お待たせしました〜!」
トレーにポップコーンとコーラそしてコーヒーが置かれた。やっと会計まで来て慌てて財布を取り出しお金を置いて振りかえる。"ん?どこ行った?"とキョロキョロと周りを見渡すが何処にもいない。
「300円のお釣りです!」
お釣りと受け取りトレーを持ってレジから離れた。奏と女子達の姿が見えないがとりあえず見つけるしかない。
トレーの中に置いた小銭をガチャガチャいわせながら小走りでフロアを探す。そして奏を取り囲んで数人の人集 りが出来ているのが目に入った。
"ヤバい!"一目でそう分かる状況だ。一人一人丁寧にしっかり笑顔を作ってピースサインなんかしながらツーショットを撮っている。これは何とか止めないと!
「あっ、ごめんなさい映画が始まるのですいません」
千遥に気付いた奏がペコっと頭を下げて輪から抜け出し駆け寄ってきた。女性達は名残惜しそうだか満足そうに手を振っていた。
『ちょっと何してるの?急にいなくなって。しかも写真は困るよ!』
「分かってますよ。でもどうしたら良かったんですか?沢山の人がいるしこれ以上騒がれたくなくて」
『だけどそうゆうのはダメって知ってるでしょ!』
明らかに怒っている千遥に流石の奏も恐縮した。
「それに……俺はよくても千遥さんは撮られたくなかったんです」
『いや逆だよ、別に僕は撮られたって…』
「ごめんなさい。もうしませんから」
大胆な行動をしたわりには素直に謝ってくる彼をこれ以上責められなかった。
『いや……まぁほんとは僕が先に行かなきゃ行けなかったんだよ。ごめん、奏くんにこんな事させて』
「何で千遥さんが謝るんですか?」
一波乱も二波乱もあり過ぎてここに何しに来たか分からなくなってきた。
〈Moon Light Loveは間もなく上映開始です〉
上映開始のアナウンスが流れ始る。
「あっ、とりあえず入らないと始まります!」
『うん、、そうだね行こう』
薄暗い幕間 のシアターに入って席に着いた。ほぼ満席に近い状態で人気の度合いが伺える。
「楽しみですね!」
すぐに照明が落ちて奏の顔が分からなくなった。
上映が始まった。研修医の隼斗が病気と闘うヒロインに恋をするラブストーリー。難しい専門用語などにもブレがなく号泣するシーンには不覚にもつられて泣いてしまった。ハッピーエンドでラストを迎え観終わった後何とも言えない気持ちになった。
明るくなったシアターは退席する人達が動きだしたり感想をいい合ってザワザワしている。
「あーよかった!……ん?あれ?もしかして千遥さん泣きました?」
千遥に顔を近づけて目をマジマジと見てくる奏に顔を背けて
『は?何で、泣いてないよ!』
「だって目がすごく赤いですよ。」
『いや泣くわけないじゃん。もう見るなー』
泣いた事を知られたくなくて隠したつもりがバレバレだ。
だけど今まで隼斗の作品を見て来なかった理由が何となく分かった気がする。きっとあの時、一緒に夢を追った同志とも言える隼斗を遠くに感じたくなかったんだと。俳優の隼斗は本当に輝いていて麗 しかった。
きっと彼に誘われ無かったら観る事もなくこんな事にも気付かないでいただろう。そうゆう意味では彼に感謝すべきか。
『ねぇ、お腹空かない?』
「空きました!」
『じゃ何か食べに行こうっか。奏くんの好きなものでいいよ。』
「えっ、、なんか急に優しくて怖い……」
『待ってよ!いつも優しいでしょ』
「、、それ自分で言います?」
そして怒ったり泣いたり心が大忙しの劇場を笑顔で後にした。
ともだちにシェアしよう!

