34 / 53

War33:Under One Roof⑩

 「いらっしゃいませー!おっ千遥くん。」 路地裏にあるお世辞にもお洒落とは言えないが家庭的なレトロな雰囲気のお店。千遥は慣れた足取りでお店に入った。  『店長。2人だけど大丈夫ですか?』  「2人?もちろん!」 席に案内された千遥の後ろから中を伺う様に付いていく奏。席に着いて乱雑(らんざつ)に書いたメニュー表に目を通す。  「あれ?初めて来る子だねー」  『こちら、店長の飯島さん』   「あっ、、栗栖奏です」  「あれ!?もしかしてこれが噂のアイドルの子?ほ〜やっぱりかっこいい顔してるわー」  上から下まで舐め回す様に見られて奏も困惑気味だ。千遥とかなり親しい様子だからいいけれど、そうでなければとっくに店から出てる。  『ちょっと店長!高校生相手にやめて下さいよ』  「あ〜ごめん。で、今日は何にする?」  『じゃ大晦日だし店長スペシャルでっ!』  「よし!任せとけ!」  "千遥のよく行く店で食べたい"と奏の希望で来た常連のお店。夫婦で営む昔ながらのお店に千遥は親近感を抱き時々足を運んでいる。  「意外ですね、千遥さんがこうゆうお店に来るなんて」  『そう?ここは気持ちが疲れたり落ち込んだりした時にいつも来るんだ。店長の最高の料理食べながら愚痴を聞いてもらったり励ましてもらったり。まぁカウセリングみたいなもん?』  「へぇ。千遥さんもそうゆう時あるんだ」  店長がテーブルにドンッと置いたお鍋には具が溢れ出さんとばかりのボリュームで思わず2人も目をぱちくりさせた。  「大晦日スペシャル鍋だ!」  それからアイドル活動の話や更には店長と奥さんとの馴れ初め話まで時間を忘れて家族の団欒(だんらん)の一幕のように過ごした。第二の実家の父親のような店長に今年もお世話になった事を感謝しながら。    『店長ごちそうさまでした!美味しかったです』  「だけど珍しいよね。千遥くんがこの店に誰かを連れて来たのは初めてだから」  「えっ!そうなんですか?」 店長の言葉に食いついて千遥をチラッと見た。  『あー…まぁたまにはいっかなって』   「この店に来始めて7年くらいだけどいつも一人だからね。色んな意味で心配してたんだよ!」  『もー、何の心配ですか?』  「けどいいお相手が出来てよかった♡」  『訳わかんない事言わないで下さいよ!あーもう帰ります!』  「ありがとな!よいお年を!」 店長の威勢のいい声が響いてお店を後にする。    最寄り駅に着き階段を降りて家までの帰り。まもなく新しい年を迎えようとする家庭の灯りが、いつもより道を明るく照らしている。  「千遥さん、別にお酒飲んでもよかったのに」  『いや僕の酒癖は知ってるでしょ?」  「大丈夫です。俺がちゃんと介抱(かいほう)してあげますから」  『それが怖いんだってば』    家のすぐ近くのいつもの河川敷(かせんじき)の誰一人いない道をポケットに手をいれ身を縮めて二人並んで歩いた。  「あっ、花火!」  奏は10段程の階段をピョンと2回で飛び跳ねるように降りていく。芝生に未使用の花火がいくつも散乱していた。手に取って使えるかどうか一つ一つ確認している。  『ちょっと辞めときなよ。誰のか分からないし』  「だってほら、まだ全然新しいですよ。たぶんやらないで捨てて行ったんですよ」 真っ白な息を出しながらおもちゃを見つけた子供の様な視線を千遥に向ける。  『もしかしてやりたいの?』  「はい!一緒にやりましょう。ライターも置いてあるし」  こんな氷点下の寒い河川敷で花火だなんてきっと花火の持ち主だって馬鹿げてると気づいて置いていったに違いない。  『えー、、だって寒いし…』 千遥に手招きして話も聞かずに花火に火を付けると勢いよく噴き出した火と音に驚く奏。  「わっ!すごい!千遥さん!花火はあったかいですよー」  『そんなわけないだろ…』 仕方なく降りて近くにある花火に火を付けてみる。思ったより火の勢いが凄く顔を(そむ)けた。  「え!千遥さん花火怖いの?」  『違うよ。そんな事いうなら……ほらっ!』 2本同時に花火をつけて勢いよく飛び出す火花を奏に向けて千遥も一緒にふざけ始めた。  「あっ、危ない!もうやめて下さいよー」  散乱していた花火はどんどん無くなって辺りは白い煙りに包まれ寒さも忘れてひたすら花火を付けていた。ふと気になってスマホを確認する千遥。気がつけば時間は0時を過ぎていた。  『HAPPY NEW YEAR』  花火に夢中で何も気付いていない奏の後ろ姿に小さな声で呟き、そっとスマホのレンズを向けた。"カシャ"と音を鳴らして瞬間を刻んだ。  出会って1ヶ月の家出少年との今年が終わった。

ともだちにシェアしよう!