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War38:Under One Roof⑱
「えっ?」
「知ってるんでしょ?俺と千遥の過去のグループの事」
突飛拍子もない隼斗からの質問に顔が一瞬にして強張 る奏に笑みを含んで、全てお見通しといった表情で更に直球に投げかけてくる。
「……なっ、何の事ですか?」
顔を下に向けなおも知らない振りをする奏に畳みかけるように続けた。
「困らせたらごめん。だけど気になってね。君が俺と千遥が一緒にいる事を不思議がらないのは何でかって。いくらなんでも俳優の俺と千遥が一緒にお酒を飲む仲なんておかしいでしょ」
チャイムが鳴って扉を開けた時、隼斗の存在には驚いたが一緒にいる事への違和感は無かった。なぜなら同じグループのメンバーだと知っていたから。
もう隠しきれないと悟った。だけど隼斗になら伝えても構わないと顔をあげて目をしっかりと合わせた奏。
「はい、、、知ってました」
「千遥はそれを?」
奏は首を振ってそして話を続ける。
「実は千遥さんに初めて出会ったのはずっと前なんです」
隼斗に出会い日の事から今ここにいる理由すべてを語った。まだ誰にも話していない、千遥との過去の出会い。話終わると奏は胸の痞 えが下りた感覚を抱いて体すっとが軽くなっていた。
「そう。話してくれてありがとう」
表情ひとつ変えずに聞いていた隼斗。話し出すとすらすらと言葉に出てきたが、さすがに同じグループだった隼斗の反応は気にしていた奏。
「何か言い出せずに今日まできちゃって……」
「まぁ、千遥が知られたくなくて隠してるなら無理に言う必要ないよ。だけど君が思ってるより千遥は君を信頼してるからいつか話してあげるといいかも」
「えっ?」
「なんかね、先月会った時より千遥は格段に生き生きしていて楽しそうだった。けど何でか今日で分かった気がするよ」
それはどうゆう意味なのか何を伝えたかったのか奏には分からなかった。
隼斗はテーブルに置かれた残りの水を飲み干してすくっと立ち上がった。
「じゃもう帰るよ。明日も撮影だし。」
「あっ!はい。ありがとうございました」
鞄とコートを持って玄関で靴を履きながら振り返って奏の顔を見て微笑んで言った。
「そうだ。千遥が起きても怒らないでいてあげるかな?早く家に帰らないとってずっと酔っ払いながら譫言 のように言ってたからさ。」
"そんな可愛い事言われたら怒れるわけない"
奏はそう心の中で照れ笑いをしながら声を張って返す。
「はい。わかりました!」
「それじゃお仕事頑張ってね。応援してるよ」
颯爽 に部屋を出て帰って行った隼斗。何か吹っ切れたような奏は静かになった部屋で空いたお水を片付けた。
何も知らずスヤスヤと寝息を立てる千遥はとても幸せそうな顔で朝まで目覚める事はなかった。
"うーん…"カーテンから漏れる光で目が覚めた千遥はぼーっと上を見て上手く状況が飲み込めていない。間違いなく自宅の天井に布団。
『ん?昨日、隼斗と飲んで、、それからどうしたっけ……』
途中からの記憶はさっぱりないがいつも以上にお酒が進んで隼斗に饒舌 になっていた記憶は残っている。とりあえず何も失態を犯してなきゃいいが。
隣に目をやるとすぐ横にある奏の顔。ゆっくり起き上がって時計を見た。
『あっ、ヤバい!奏くん、起きて!』
その声で奏もゴソゴソと動き出した。
『今日の撮影は僕も付き添いだから一緒に!』
「、、んっ、わそうなんですか?」
布団を払って起き上がった千遥は寝癖の髪を鏡で確認し手で押さると、ふと湧き上がった疑問に手の動きを止めた。
『そういえば、あのさ昨日、、僕…』
「昨日?あー酷く酔ってましたね』
鏡に映る顔が少し引き攣 っていく。自分の酒癖を知っているからの事だ。どうしよう、、隼斗がもしかしてここまで。
「でも帰って来ましたよ。一人で!」
"……そう"ポツリと呟き安堵 の表情が鏡に映った。とりあえず最悪の事態は免 れたようだ。
『あっ、早く準備しないと撮影遅れるよ!』
「千遥さん、、」
奏の何か言いたげな素振りに気付き部屋を出るのを少し待った。
「俺、頑張りますから。大きなグループになってみせます!」
『えっ何?急にどうしたの?』
何か変な夢でも見たのか?はたまた彼お得意の理解不能が出てきたのか。どうであれその言葉に迷いはなく思えた。
隼斗に語った話、いつかその時が来たら千遥に話そう。それまではやるべき事がたくさんある。
そう心に誓って、奏も布団を払って部屋を出た。
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