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War39:Under One Roof⑲
「おはようございます」
「あっ奏くん!よかった!来ないから遅刻かと思ったわよ。大庭さんも一緒だったのね」
『すいません!ギリギリになっちゃいました』
撮影スタジオのメイクルームに那奈、メンバーみんな集まって個々にヘアメイクの真っ最中。
「ちょっと奏、見てよ!」
「わっ!髪色ピンクにしたの?」
メイクをされながら鏡越しに言った旬に近寄って興味津々に髪を見ている。
「こんな綺麗にピンク入るんだ〜いいな〜」
「奏もすりゃいいじゃん」
「たぶん、学校で言われるから無理」
「学校ってそんな校則厳しいの?」
「まぁ、、そこそこね」
学校には芸能活動の許可は取っている。活動は自由にさせてもらっているか、だからと言って優遇されるわけではなく他の生徒同様テストの成績や出席日数などが足らなければ卒業は出来ない。
2年生の3学期、そろそろ周りも進路に動き出す時期でもあるけれど、、、
ラックに掛けられた衣装を眺めながら話している千遥と那奈。
『今日の衣装なんかシンプルですね』
いつもアイドルらしいキラキラした衣装を着ている彼らには違って、無地白シャツにベージュのパンツのみ。メンバーみんな同じで統一されている。
「今日はいつものアイドル誌や音楽誌じゃくて女性誌だし、大人の女性も読むからガラリとイメージ変えてるんですよ」
今日は人気の女性誌"WAG"の撮影。
最新のトレンドにスポットを当て女性なら誰しも読んだ事ある影響力のある雑誌。
"今年の流行り先取り特集"としていきなり表紙に抜擢 された。
着替えが終わって6人揃って並ぶ。衣装もメイクもいつもよりナチュラルな仕上がりで、6人の素がよく分かるスタイルだ。
〈それでは集合から撮ります!〉
撮影が始まった。照明ライトの光が6人に浴びせられ少し大きめな白シャツは肌が透けそうで少し情欲的にも見えた。
若い男子のいわゆるセクシー路線が売り、ちょっと背伸びした少年が大人の女性にウケがいい。
『メイクとスタイリングも変えてるとはいえ、かなり大人の雰囲気が出てますね」
「私、WAGの愛読者なんですよ!だからあの子達が表紙なんて嬉しくて」
目を輝かせながら撮影を見ている那奈はきっと読者側の女性の気持ちで見ているんだろう。
〈続いてソロ撮影いきます!〉
次は一人ずつ順番での撮影が始まった。
みんなそれぞれの6者6様のポーズや表情をカメラに向けシャッターが押されていく。
長い間サッカーをしていたスポーツマンの光は男らしい鍛えられた腹筋をチラッと覗かせたり、現役大学生の卓士は眼鏡をかけてインテリな雰囲気を出している。
明るく元気な凌太は笑顔で可愛いく、スタイルのいい朋希は全身ショットでクールでカッコ良く、ダンスが上手い旬は躍動 感のあるヤンチャな雰囲気で見事な個性を出していた。
最後は奏の番だ。他のメンバーと違って自分の見せ方がまだ分からなくてポーズもぎこちない。
表情も堅いしカメラマンの表情も心なしか険しく見える。
するとスタイリストとカメラマンが何やら話し初めてシャツのボタンに手を掛けた。上のボタン3つが開けられソファーに寝転び上目遣いで挑発する眼差しを向けた。
「わ〜奏くん、いい!すっごい色っぽい!」
那奈が興奮の声を上げて僕に
「奏くんって歳の割には大人っぽいし小悪魔的な雰囲気があるからセクシーが似合うと思いません?」
『……まぁそうですね』
彼を見ていられなかった。だって時折、彼の視線がこちらを見て目と目が合うから。パープルのライトがより艶 っぽさを演出して彼の鎖骨のくぼみをくっきりと照らす。
数日前の告白がフラッシュバックしてしまいそうになる。けどあれば映画を真似ただけで別に何もなかったわけだし。
頭の中がぐるぐるしていると着信が鳴った。
『あっ電話、戸川さんだ。ちょっと廊下で電話してきますね』
那奈にそう伝えて外へ出た。あの場から出られてちょっとホッとした。
『もしもし?』
しばらく戸川と電話してスタジオに戻ろうとすると前から走ってくる奏が見えた。
「千遥さん!撮影終わりましたよ。」
『あっ、呼びに来てくれたの?ごめん。今、戸川さんから電話で撮影終わったらみんな事務所に来てだって』
「はい、分かりました。ところでどうでした?さっきの撮影」
『あぁうん。良かったんじゃない?』
「……それだけ?」
素気ない千遥の返事に少し不満げな顔して、突然近づき耳打ちで小さく囁く奏。
「俺、エロかったですか?」
『はっ!?何言ってんの!?』
過度に反応してバッと奏から離れた。
「だって朋希がエロい事考えながらポーズするとセクシーさが出るって教えてくれてから。あれー失敗だったかな?』
『ちょ、17歳が何言ってんの。あとそれよりいつまでその格好のままなの?早く着替えな』
「はいはい。着替えますよ。」
撮影が終わり全員で社用バスに乗り込みに乗り動きだす。
『お疲れ様。じゃこれから事務所に行くから、それまで休んで』
『そうだ!朋希くん』
「はい」
隣の席に座って携帯をいじっている朋希に千遥が声をかけた。
『奏くんに変な助言したでしょ?ダメだよ、撮影中にエロい事考えろなんて』
「えっ?なんですか、それ?」
『だって朋希くんがそう教えてくれたって奏くんが。そしたらセクシーさが出せるからって』
「言ってないですよーそんなの!」
『えっ、違うの?』
「俺が言ったのは好きな人の事を考えながら撮影するといい表情になるって言ったんですよ」
『えっ、、そうなの?』
ふと振り返って1番後ろの座席を見た。
緊張が解けて疲れが出たのか、はたまた寝不足か。窓に寄りかかり眠そうにコクリコクリとしている奏。
"好きな人の事を考えて"か。
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