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War40:Under One Roof⑳
《 えー!ラスベガス!? 》
戸川の呼び出しで事務所に戻るとすぐさまいつもの洗礼を受ける。声を揃えて突然の事に全員驚いた。
「そうラスベガス!来月6日間!春にリリースの新曲のミュージックビデオ撮影だよ」
『楽曲は出来てるんですか?』
「いま仕上げにかかってるところだ」
グループ結成から初めての海外。少し驚きはしたけど今のDeeperZの勢いを止めずに突き進むにはいい提案かも。
「ラスベガス行って見たかったんだよね〜!」
「超かっこいいミュージックビデオになりそう!」
海外での撮影なんてもっと先の事と思っていたがまさか二曲目で。そう思うと戸川の気合いの入り具合と期待感がひしひしと伝わる。
『ん?旬くん、どうした?』
楽しそうな5人の横で浮かない表情の旬がどうしても目立って気になり隣に座った千遥。
「いや、、別になんでも」
『そう言えば、旬くんはダンス留学してたんだよね?アメリカだっけ?』
「はい。ロスに留学してました」
『そっか!じゃぁ、行ったら通訳頼むね!僕、英語とかからっきしダメだからさっ」
「はい。通訳くらいなら出来ますよ」
旬のダンススキルは誰からも折り紙付きだ。彼に自信のオーラが見えるのは経験と努力の賜物 だろう。
「そうだ!今回の曲は旬に振り付けしてもらおうと思ってる。」
「えっ!?僕が、、ですか!?」
戸川の言葉にさすがの旬も怯 んだ様子を見せた。ダンスの技術と振り付けはまた別の話。それをよく知ってるからこそ、きっと旬を更にステップアップさせる為の戸川からの試練だという事も。
「……分かりました!やってみます」
「あっそれから千遥くん、ちょっと」
戸川が千遥を呼んで二人で部屋を出る。
「この間言ってたCMのオファーが正式に決まってね、まぁなんて言うか千遥くんなら分かると思うけど……」
口を濁 しながら隣の部屋の窓越しから6人を見ると何か言いたげな戸川。
『……いわゆるスキャンダル…ですか?』
「うんまぁ、そうゆうこと!CMはイメージが一番大事だから、SNSとかの発言だったりも良く見てて欲しいんだよね」
『あっはい、、』
「後は、恋愛沙汰 とかね。これはCMに関係なくアイドルには致命的だからさ。まっそんな事してる暇も彼らには無いと思うけど一応ね、ほらまだ若いから!」
『えぇ。分かりました…』
「よかった!ほら、千遥くんはそのへんの感が|鋭 いからさ!頼んだよ」
ははっ。と苦笑いを返すのが精一杯だった。
10代の多感な時期、僕も彼らと同じ年齢を同じように過ごした。普通ならきらきらした10代の色恋も彼らには障害でしかない。いい結果になんてならない事も知っている。
◆◇◆◇◆
帰宅してご飯を食べてシャワーしていつもと変わらないルーティン。二人暮らしも当たり前の様になってきた。
「千遥さん、数学教えて下さいよ!」
積み重なった教科書の隙間から聞こえた声。体を丸めて必死にシャープペンシルを動かしている奏が見えた。
『何?宿題してるの?』
シャワーから出て後ろから覗きこんだ千遥。
「はい、明後日から学校始まるんで!あっ、ここの問題が全然分かんないんですよね」
"どれどれ"と教科書に近づいた千遥の少し湿った髪から香るシャンプーに誘われるように接近した。
「あれ?いつもと匂いが違う」
軽く頭に手を添えて髪の匂いを確認する奏。すっと手を振り払うようにその場から逃げる様に離れた。
『じ、自分で考えないと勉強にならないよ』
千遥は早くなった鼓動を抑えるように冷蔵庫から水を出し奏を背にして飲んだ。少し様子のおかしい千遥をちらちらと気にして、横目で見ながら教科書を持ち上げる奏。
『そう言えばご両親は今日くらいに帰ってくるんだっけ?』
「えっ?……まぁそうです、、ね」
急に話が変わって奏の声もトーンダウンする奏。
『学校も始まるし、そろそろ家に戻った方がいいんじゃない?』
「うーんー…でも正直ここから学校近いし、仕事だって千遥さんと一緒に行って帰ってこれるし。ずっと居座っちゃおうかなーなんて!」
冗談混じりで言ったつもりが千遥はどこかうわの空でいつもの勢いのある否定の言葉も飛んでこない。
「……それとも俺がここにいたら迷惑ですか?」
彼の力ない質問に言葉に詰まる。日に日に距離が縮まっていくのが否 が応 でも感じてしまって、一緒にいる事が当然で麻痺してしまいそうになる。
"彼はアイドル"
出会う前の距離に戻さないと。でなきゃ依存していまいそうになる。
『……うん、、迷惑だよ』
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