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War42:Under One Roof㉒
『あ、、うん。どうしたの?』
「……いま大丈夫ですか?」
『うん』
お互いを探るような一言が続き店内に入る人を避けるように駐車場の端っこに移動した。
「すいません……家何も言わず出て行って、、あと迷惑かけてしまった事も」
『何で?謝る事ないよ。僕こそあんな……』
「謝りたかったんですけど、しばらく会えなかったから電話でって思って」
その声で謝られると胸が苦しくなる。そして悲しくて痛々しい。
『あー…両親とは上手くやってる?』
「まだちゃんと話せてないけど理解してもらえる様に行動で示すしかないです」
『そっか』
「何か日高さんから千遥さん、忙しくて全然休んでないって聞いたけど大丈夫ですか?」
『えっうん、、僕は全然平気』
スマホを持つ手が冷たくなって左手に持ち替えた。話題を変えて罪悪感から逃げたい卑怯 な大人に彼は何故そんなに優しくなれるのか。
『あっ、新曲の振り付け完成したんだって?見るの楽しみにしてる』
「はい。なんか千遥さんの声聞いたら安心しました。頑張ります!」
自分が蒔いた種が一回 りも二回 りも膨らんで自らの首を絞めていた。だけどもう嘘はつきたくない。
『うん、僕もだよ』
出会って毎日の出来事が継ぎ足され今この気持ちも抱いていることを大切にしたい。
『それじゃー…また』
ゆっくり電話を切ってポケットにしまう。
"今日は久しぶりにちゃんとご飯でも作るか"
そのままコンビニを後にして自宅へ向かった。
◆◇◆◇◆
2月上旬。曇天 の空を車内のフロントガラスから覗き込むように見上げていた。長い赤信号が少しイラつかせる。晴れが続いた1月も終わって久しぶりに傘を出した。
『間に合うかな?雨……着く頃には降りそうだな、、』
"大庭さん、今どこですか?"と那奈からのメッセージを見て返信しようとすると、パッと赤から青に変わった信号。タイミング悪くスマホを戻してアクセルを踏んだ。
今日は公開ラジオ番組の生放送に出演。公開だけあってスタジオ外にはファンの子達が既に集まっていてDeeperZの到着を待っていた。
悪天候でも関係ない。ガラス越しであっても距離の近いラジオ収録にファンも今か今かと期待している。
〈写真、録画は禁止です!〉
〈歩道は空けて下さい!〉
警備員の注意が拡声器 から飛んでくる。
DeeperZが登場した。割れるようなファンの声の中、ガラス越しで手を振り席に座るとMCのタイトルコールから収録が始まった。名前入りのカラフルなボードを翳 して嬉しそうに見ているファンの女の子達。
「あっ、千遥さん!」
『日高さん、始まっちゃました?』
「あ、今さっき始まったばかりです」
到着した千遥が那奈に話しかけ収録を見守る。
新曲の準備で疲労と寝不足が続くメンバー達。
それでも大勢のファンを目の前に疲れを見せずに楽しませてるプロのみんなに関心する千遥と那奈。ファンに直接質問受けたり盛り上がりながら収録は進行していた。
「ん?奏くん何かソワソワしてる?」
那奈が奏の行動を気にしていた。
『んーもしかして、ファンの子達と近距離で緊張してるんじゃないですかね?前列ですぐ目の前にいるし』
確かに落ち着きがなく発言も控えめに見えてこっちの方を気にしてる。それ以上は何も無かったけど一応聞いておこう……かな。
一時間半の番組が終了しファンのみんなをバックに記念撮影をして収録は終わりスタジオを後にした。
「あっ、千遥さん!お疲れ様です。」
『お疲れさん。あれ?光くん髪切ったね〜』
ゾロゾロと順番に出てきた6人が千遥に気づいて挨拶をして談笑していた。そして最後に出てきた奏がパッと千遥の顔を見る。
あの日からお互い顔を合わせないまま過ごしていた。何故かもう何ヶ月も会ってないような感覚だ
「千遥さん、、お疲れ様です…」
『……うんお疲れ。そうだ!奏くん、ダメじゃん』
「えっ?」
『収録中はちゃんとファンの子達とMCの方を見てなきゃ。何で集中してなかったの?』
特に反論する訳でもなくただ千遥の言葉をじっと聞いている。
『……ねぇ、聞いてる?』
「やっぱり俺、ずっと千遥さんにそうやって叱られてたいです!」
そう言いフッと笑ってメンバーに続いて控え室に入って行った。千遥は久しぶりの理解不能少年のパンチを食らった顔してただ立ち尽くした。
そしてラジオ局スタッフと打ち合わせの為、千遥は一人残り6人と那奈は別の現場へ向かった。
打ち合わせを済ませ千遥一人の帰りの車内。外は土砂降りでガラスを打ち付ける雨音が煩 く車内の音楽をかき消す。
まだ世に出ていない、DeeparZの新曲が小さく聴こえてボリュームを上げた。6人の歌の成長も垣間見えそして奏の歌うパートに耳を澄ませた。
『なーにが叱られてたいですだよ。高校生のくせに生意気なんだから』
きっと会わなかった時間にいっぱい練習したのだろう。"頑張ったね"って言ってあげないと。何だか彼の顔を見てから心の擽 ったい感覚が消えずに残った。
そして来週はいよいよラスベガスへ発つ。
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