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War48:Las Vegas⑥

アメリカ3日目。今日と明日は少しラスベガスから離れた場所での撮影。日没時間を考えるとどうしても早い時間の開始になるのは野外撮影のお決まり。準備を済まし部屋を出てロビーに降りようとエレベーターを待つ千遥。  「大庭さんおはようございます!」  声のする方に目をやると旬と奏が部屋から出て近づき、二人とエレベーターのタイミングがバッティングした。  『おはよう。眠れたかな?』  「うーん、昨日は疲れてたけどなかなか眠れなかったです。時差ボケかな?」 旬は大きくあくびをしながら答えた。   『海外慣れしてる旬くんでも時差ボケあるんだ?、、奏くんは?』  「俺はよく眠れましたよ。昨日いい事あったので!」  意味深な顔でこちらをマジマジと見つめてくるから昨夜のあれこれが頭の中でぐるぐるし始めて変な間が出来る。  「ん?いい事って!?」 変な空気を察知した旬が間に入って言った。  『へ、へぇ!そうなんだ、良かったね!あっ、エレベーターきたよ、行こっ!』 そそくさと中に入ると一番ボタンに近い旬が一階ロビーのRボタンを押して(くだ)っていく。  「千遥さん、また寝癖ついてますよ。」 奏が襟足付近をふっと触れると昨日の背中の感触が思い出され変な汗が出てきそう。   『あぁ、、うん』  「なんか〜二人って仲良いですよね?」  『えっ!そう?普通だと思うけどっ、、』  「だって奏だけ、いつの間にか千遥さんって下の名前呼びだし」  『あー…まぁ全然、旬くんも呼んでくれていいよ!知り合ってそこそこ経つしこれを機にさ』  「あー!一階着いた!旬行こう〜」 会話を遮って声を上げると、旬の肩を組んで元気よく降りて行った奏。  『、、何なんだ…?』  『おはようございます』  ロビーには間宮が待ち構えていた。今日も昨日と同じくスタッフとメンバーが数台に分かれて移動する。車に乗り込みシートベルトを着用しながら、間宮が振り返って言った。  「大庭さん今日もよろしくお願いします。あれ?何だかまだ眠そうですね!」  『あー…昨日はあまり眠れなくて。疲れていたのにいざ寝ようと思ったら目が冴えちゃって』  「今日は移動時間も長いですけど、絶景なのできっと感動してもらえると思いますよ。天気も最高で撮影にはもってこいです!」  今日の撮影は間宮も太鼓判を押す場所。今回の6日間の内のメイン撮影になる。  車はどんどんラスベガス市街を離れ進んでいく。視界を遮るものは何もない。ただ永遠に続く気さえするコンクリートの道をひたすらに走る。抜ける様な青空に赤茶けた広漠がただただ胸を躍らせた。  車で4時間程走らせて到着したのは壮大なアメリカの大地が作り上げたグランドキャニオン。東西460kmに渡る長大な渓谷には誰もが言葉を失うような自然が生み出した大きな力があった。  「うわっー!すっごい!! 」  「まさかこんな場所で踊るなんて感動!」 想像以上の大自然の猛威を体に感じて鳥肌が立つくらいの興奮を見せる6人。  「だろっ!10代のうちにこんな経験出来るなんて贅沢だろ?」 ドヤ顔で戸川が言う6人も首を大きく縦に揺らして頷く。  「みんないい映像撮らしてくれよ〜!よし!撮影始めよう!」 役者も舞台も揃って、現地スタッフ含め全員が準備万端!そして撮影はスタートした。  壮大な大地に音楽が響き6人の動きが重なる。パワフルな中にも繊細な細かな動きがしなやかに見せる。旬の振り付けしたダンスを初めてみる千遥は彼の才能と努力を目の当たりした。 メンバーみんなが今日まで血の滲むような練習を重ねた結果が発揮されていて、隣で黙っていた戸川も旬に任せて正解だったと言わんばかりの顔だ。  それから撮影は予定通りの進みほとんどNGもないまま日が落ちるまでに今日の予定を終わらせた。  「みなさんお疲れ様でした!今日はこれで終わりになります!」 現地スタッフ含めみんなで最高の出来栄えに拍手し合いみんな一帯となって喜んだ。  一日の締めの言葉を戸川が前に出て話し始める。  『ホントに6人は頑張って努力してくれて、想像以上のものが撮れたよ!まだ明日一日あるが最後までいい作品になるように頑張ってくれ!』  戸川は夜の便で帰国の為、スタッフ数人とそのまま空港へ向かった。  スタッフ達が片付けを始めると日没の時間になり夕日の真っ赤に燃えるような岸壁が顔を出した。 スタッフも手を止め見入っている。思わず千遥もスマホを取り出しカメラを向けた。  「千遥さん!」 小声で後ろから近づく奏に気付いて振り返ると、腕を引かれてどんどん歩いていく。  『ちょっ、ちょっとどこ行くの?』  「景色と一緒に写真撮りましょう!」  スタッフから少し離れた場所で止まるとセルフカメラモードにして千遥にピッタリとくっついた。  「ほら!ここ後ろ絶景じゃないですか!」  『あ、うん。そうだね』  「じゃぁ撮りまーす』 シャッターを押す逆の手は千遥の腰を添えられ距離は更に近くなった。  「うん、いい感じに撮れました。ほら!」 写真を千遥に見せると写りに納得して嬉しそうに広角を上げて微笑む。そんな奏との距離に変に意識してしまう千遥は写真から目を逸らした。  カメラを下ろした奏は、後ろの景色を遠い目で見て囁くように言った。  「そうだ、、もう一枚……キスしながら撮ったらもっといい写真が撮れるかも…」

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