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War53:Las Vegas⑪
翌日もう少しで午後になろうという時刻。ドアをノックする音が廊下に響いてゆっくり開いた。
「大庭さん!おはようございます。」
『光くん、おはよう。卓士くんいる?』
部屋に入ると洗面所から声が聞こえ支度中の卓士がひょっこり顔を出した。
「大庭さん!もう少し待って下さい」
『うん、大丈夫だよ』
撮影も終わりラスベガスを堪能出来る一日。メンバーもスタッフもそれぞれで自由に満喫する完全オフ日。
『光くんはみんなと買い物行くんだっけ?』
「はい。まぁみんなって言っても、朋希と凌太と3人ですけどね」
『あれ?旬くんは?』
「なんか行きたい場所あるからって。もしかして奏と一緒じゃないですかね?」
『あー…そうなんだ、、』
昨日はあれからずっとスマホを開くなり彼の事が気掛かりだった。"仕方ない"の文字が悲嘆 に感じて胸に突っかかる。嬉しそうに話していた今日のスケジュールもドタキャンした形になってしまったし。でも旬くんと楽しめてるならそれで良かったんだ。
「お待たせしました。」
洗面所から出てきた卓士は相変わらず足を引きずって昨日より腫れが酷く見えた。
『あーやっぱり腫れてるね。早く見てもらわないと!』
「はい。昨日言われた通り一晩中冷してたんですけど、、」
『そっか。あっ、間宮さんももうすぐ着くはずだから外で待っておこう』
卓士を支えながらエレベーターへ向かう途中、ちょうど奏と旬の部屋の前を通る。勝手に意識がそっちに向いてしまって歩幅が狭くなる。
"もし彼が今出てきたらどうしよう"なんて無駄な考えが脳裏に浮かんでくるけど、そんな素振りはなく部屋からは物音一つに聞こえない。
"どうしよう"じゃなく"出てきてほしい"
そう素直に言えたらどれだけ楽だろうか。
ホテルから車を40分走らせて着いた病院。少し落ち着いた閑静な街並みの周りにはポツポツと一軒家立って普通の生活がうかがえる。
とは言ってもこの立地でこのサイズの家じゃお金持ちが住めるエリアといった場所。
「実はラスベガスに来てすぐの時ここに住んでたんですよ。ラスベガスに夢持って集まる留学生なんかが、このあたりのシェアハウスに住むんです」
『へぇ〜ラスベガスにもこんな場所あるんですね』
「その時お世話になってた病院があって、連絡してみたら見てくれるっていうからお願いして」
『なるほど。ホント助かります。』
3人は病院に入り間宮が受け付けを済ます。しばらくして医者が出てくると診察室に呼ばれた。
軽い挨拶を交わすと、間宮が英語で状況説明をして医者が足を触り始めた。
千遥は見てる事しか出来ずただ不安そうにしている卓士の肩に手を添えていた。
「 It's a sprain .」
「: Is that (そうですか》.」
「 How long will it take to recover ?」
「 About 2 weeks . I'll give you first aid to today .」
間宮が2人に日本語で伝えると看護師も入り応急処置が始まった。とりあえずしばらくは安静だけどちゃんと処置はしてもらえる事にホッとした。
『あっ、ちょっとすいません!』
カバンの中のスマホが鳴って廊下に出た千遥。
『もしもし?日高さん?』
「あっ!大庭さん、いま病院ですよね?卓士くんどうでした?ちょっと気になって…」
『あっ、見てもらったんですが捻挫で全治3週間ってところですね。応急処置してもらってて、帰国したら改めて病院連れていきます。』
「分かりました。すいません…全部任せてしまって」
『いえ気にしないで下さい。そっちはミュージカルこれからですか?』
「はい。今会場にいて…あっ、もうすぐ始まるのでまた連絡しますね。」
電話を切ると溜め息が溢れた。一先ず無事に処置も受けて今日はもう……。
手に握られたスマホが誘惑するように無意識に彼の番号を探していた。唾を飲みこんで、ゆっくり通話ボタンは押された。
呼び出し音がやたら長く煩く感じ耳に纏わりつくようだ。
「……もしもし?」
ザワザワした音に混じって聴こえてきた彼の声。
『あっ、奏くん?突然電話ごめん。』
「別にいいですけど…どうしたんですか?」
"どうした"と言われても自分でも分からない。ただ手が勝手に動いて、、なんて不気味な事言える訳もなく。
『えっとー、いま病院来てて診察中で……何となくどうしてるかなって!そっちは?なんか後ろ騒がしいね。旬くんと楽しんでる?』
「どうして旬!?俺一人ですよ。昨日話した場所にいます」
"一人"ってどうして?頭の中を整理しながら返す言葉に詰まってしばらく黙ってしまう。
「あの、千遥さんちょっと今、充電が無くてそろそろ切れ…」
ツーツーツー。バッサリと会話が終わってそれ以降全く繋がらなくなった。
『えっ、ちょっと!奏くん!もしもし!?』
結局彼は一人で外へ?高校生で英語も話せなくて理解不能なくせに。あんなに一緒に行きたがっていたくせに。僕と行こうとしていた場所に一人で……?
「千遥くん。今の電話、、」
後ろから歩きながら近寄ってきた間宮。
『あっ!間宮さん、、えっとですね……日高さんが卓士くんの足が心配で確認の電話でした。とりあえず大丈夫と伝えたので。あっ、もう卓士くん終わったかな?』
動揺を隠せなくてつい早口で捲し立てるように言って診察室へ戻ろうとした。
「千遥くん!待って』
肩を掴まれて横から真剣な眼差しを向けられた。
「いいの?ここにいて?」
『えっ?、、どうゆう事ですか?』
「大事な人を待たせてるんじゃないの?」
その目は10年間に夢を追っていた工藤先輩の目をしていた。今気付いたような目ではない。きっと再会した時から全て見透かされていたのだろう。
『いや、でも……』
「ここは大丈夫だから心配しないで行ってきて。それに後から後悔して泣いてる後輩の姿とか見たくないしね」
『…先輩……すいません。ありがとうございます。』
間宮は病院の廊下を走る千遥の後ろをフッと笑いながら見ていた。10年経った後輩の背中はあの頃より強く逞 しくカッコ良く見えた。
「あとは全部自分次第だよ。頑張れ!」
最後のエールを心の中で送ると診察室へ戻った。
病院前でタクシーを拾い彼の元へ急ぐ。昨日彼が話していた事を思い起こしながらスマホを動かした。
『えっとー…噴水、、街を一望出来る場所…』
知らない国の知らない街で探し出すのは至難 の業 だろう。だけど僕が行って彼見つけてあげなきゃ。
大切な人ならどこにいてもどんな場所でも見つけられると信じていた。
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