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War54:Las Vegas⑫
タクシーのメーターはぐんぐん上がる。
そんな事はお構いなしに奏が行きたがっていた場所をスマホで検索しながら、時折車内からも行き交う人々を目で追う。
"お願いだから居てくれ"と心の中で何度も唱えながら奏を探していた。
昨日の言葉を思い返してラスベガスの街を一望出来るスポットを巡ってみるがそれらしい姿は無い。
華やかな街には危険も潜んでいて、少しずつ薄暗くなっていく街に段々と焦燥感 が湧いてくる。
『そう言えば、、有名な噴水って……』
噴水のショーが有名な場所を思い出してタクシーに目的地を伝え急いだ。着いた場所は巨大なホテル。映画の舞台にも使われた有名なホテルには大きな噴水がありショーも行われ、観光客ギャラリーも多くいる。
タクシーを降りると目を凝らして探した。
噴水のショーは始まると、大音量の水が噴き出し音楽に合わせてライトが色鮮やかに照らした。
チカチカした光の中、微かに奏の姿を捉えた。
『奏くん!!』
遠くから奏の姿を見つけると周りの目もくれずせずひたすら大声で名前を叫んだ。
ダイナミックな噴水の音で声もかき消されてしまって千遥に気付く事はない。人混みを掻き分けながら見失わないように奏に視線を向けたまま。
わすがに自分の名前が呼ばれた様な気がしてキョロキョロと辺りを見渡す奏。
「えっ?……千遥さん?」
こちらにずんずんと近づく千遥と目が合い、思わず駆け出し長い間離れていたかのように求めた。
これまでの想いをぶつけるかのように、ぎゅっと力強く抱きしめる。人目もはばからずただ本能のままに。千遥の腕にすっぽり埋もれた奏は驚きながら体を預けた。
「えっ……何でここに?」
『ばか。一人で出歩いちゃダメだろ』
叱らなきゃいけないのに強い口調なれず柔らかく注意した。遠くから一人の奏を見つけた瞬間、愛おしさが溢れてそんな事は吹き飛んだ。
『ねぇ、まだ間に合う?』
「……えっ?」
『改めて僕とデートして下さい。』
千遥の想定外の"デート"と言う台詞に腕の中でもぞもぞと動いて千遥の顔を見上げた。
「えっ、、千遥さん、それって…?」
『僕は栗栖奏が事が好きです。』
その瞬間細かい水飛沫 が舞って2人を微かに濡らした。それでもお互い瞳と瞳を離す事なく瞬 きさえ忘れ、音も景色も消えた世界に変わる。
「千遥さんが…俺を好き?」
聞き間違い?そんな訳ないよな。頭の中が混乱して状況が飲み込めないでいるが奏。それでもわずかな可能性も期待していた。
『……分かった。これでいい?』
奏の輪郭を両手でそっと包んで口唇を合わせた千遥。僅かに付いた飛沫の水も混ざりながら優しくキスを落とす。
奏もそれに答えるように両手を背中に回して口を開いて受け入れた。微かに息を漏らしながら熱くなった口唇を離すとお互いの目を合わせた。
「俺も……大庭千遥さんが好きです」
大人になって自分の立ち位置や思考が確立されると新しい事をシャットダウンしてしまい、経験のない未知な事に怯んでしまう。
そのせいで彼に嘘付いて傷つけて惑わせて、すべて上手く交わし優位になった気になっていた。
それでも17歳の男の子は全力でぶつかってきてくれた事に今になって気付くなんて無様 な僕をそれでも受け入れてくれている。
男の同士だからとか歳の差とか好きに理屈はなくて離れられないから一緒にいる。
もうそれだけでいいと思った。
"グゥ〜"雰囲気を一変させる様に下の方から聞こえた腹の虫。
『ん?、、お腹空いてる?』
お互いの顔が緩んで笑顔に変わった。
「えっと…なんか昨日から色々考えこんでたら、食欲なくて朝から何も食べてないんです」
"あなたのせいですよ"と言わんばかりのおねだり顔で上目遣いをする奏。
それを察した千遥は奏の頭をポンポンと叩いた。
『あーはい、はい。分かりましたよ、じゃ今日は何でも好きな物を奢りましょう。奏おぼっちゃま!』
ラスベガスの街を2人で歩く。
ちょっと背伸びして豪華なレストランを入って食事をしたり、事務所スタッフへのお土産を買ったり。ずっと喋ってずっと笑って、堪 えていたものが消えていく様な時間は流れるように過ぎていった。
帰りのタクシーの中で手を繋いだまま奏は千遥の肩に頭を乗せると柔らかい髪をすっと指が通った。ギラギラした街が今はとても優しい穏やかな街に見えた。
ホテルについてエレベーターで同じ階に降りる。
『じゃまた明日。……フライト早いから寝坊しちゃダメだよ、パスポートも確認してね』
「もう仕事モードですか?切り替え早いですね。まぁいいや帰国したらいっぱいイチャイチャ出来るし」
『しーっ、ちょっと!声大きいから。誰かに聞かれたらどうすんの?いいからもう部屋戻って!』
「はーい。それじゃ千遥さん、おやすみなさい」
奏はラスベガスへ来て一番の笑顔を見せて部屋に入って行った。千陽も最後まで見送ると自室へ入った。
「あれ?旬、まだ帰ってない?」
奏は真っ暗な部屋にパチンと電気をつけた。
「わっ!びっくりした!いるじゃん、、何もう寝てんの?」
布団にくるまっている旬に近づくとグスンと鼻を啜 る音が聞こえた。
「旬、大丈夫?どうしたの?…どこか悪い?」
何となく泣いてる事に気付いたが核心をついて聞けなくて遠回しに言ってみた。しばらく沈黙が続いた後、旬の背中からやっと声が聞こえた。
「難しいな。恋愛って……」
涙声でそんな言葉を聞いてしまったら放っておける訳もなく。
「何があったか話してよ。聞くからさ」
聞けばアメリカ留学中に同じ場所でダンサーを目指してレッスンを受けていた5歳年上の日本人の女性に恋をしていて、時々今でも連絡する仲だった。
今はラスベガスのショーに小さな役ながらダンサーとして舞台に立っている彼女に会いに行ったと。ステージで輝いている彼女を見て色んな思いが溢れてきて、ショー終わりに少しの間だけ話す事が出来た。
「旬くんは今、何をしてるの?」
彼女にそう言われてアイドルやってるって素直を言えなくて、ダンスは続けてるって答えただけ。まだ彼女はDeeparZの存在を知らなくて、いつか名前がこっちまで知れ渡って気付いてくれるまで言わないでおこうと。
「私もうすぐ結婚するの。直接報告出来て良かった」
「そっか…おめでとう!」
不意打ちの言葉に動揺を隠せなかったけど、精一杯の笑顔を彼女に送って別れた、、とハキのない声で奏に語った。
「だっさ、、俺。告白してもないのにフラれてやんの。笑ってもいいぞ。」
「笑えないよ。だってカッコいいじゃん!」
被っていた布団を捲って奏の方を見た。
「俺だったら、会いに行く勇気もないしデビューしたって答えちゃうし。だから、旬の行動は尊敬する!俺には出来ない」
バフっと奏な顔に枕が飛んできた。
「……痛てっ!」
「何だよ、それ。気持ち悪いなーいつもの奏らしくないっ」
「投げんなよ!泣いてたくせに!せっかく人がいい話してあげてんのにー」
「頼んでねーよ!ってか奏は今日どこ行ってたんだよ。こっちは教えたんだから言え!」
「ヤダね!」
相変わらずな2人に戻ってバタバタと騒がしいラスベガスの夜は終わった。
泣く恋もあれば笑う恋もある。
若い2人がそれを知るにはいい経験だったと。
そして色んな意味での冒険のラスベガスを終え翌日、日本へと帰国した。
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