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War57:Secret Lovers③

 新曲プロモーション活動が始まった。 休みなく雑誌やテレビやバラエティ番組の撮影が毎日のように入り、朝早くから夜遅くまでぎっしりのスケジュール。さすがに疲労が隠せないメンバーだが奏だけは違った。  "今終わりました"  "ごめん。少し遅れそうだから先にお店に入ってて。店長には言ってあるから"  ポチポチと文字を軽快に打っていく奏。文章のやり取りだけでも顔が(ゆる)んでしまう。数日間会わないだけでこんなにも会いたくなるなんて。  "分かりました。早く会いたいです"  「か〜な〜で〜!」  「わっ!何だよいきなり!」 後ろからスマホを覗きこんだ旬に驚いて瞬時にスマホを隠した。  「何ニタニタしてんだよ!誰とメールしてんの?」  「別に。ちょ、近いって!」  「ん〜?最近隠し事多いぞ。結局この間のラスベガスの日も何してたか教えてくれないしー」  メッセージ一つ送るにも気付かれないようにメンバーから離れた場所でしたり、普段しないスマホにロックをかけたり警戒してはいるけどつい表情に出てバレそうになる。  「あっ!そう言えばさっき日高さんから聞いたんだけどさ、今回サイン会とか野外ステージでリリースイベントやるんだって」  「リリースイベント?」    前回はデビューライブがあったせいか、そういったイベントは行わなかった。確かにデビュー時は多少の話題性で注目され枚数売れる事もあるが、2枚目からは固定のファンや楽曲の良さやグループの実力が試される。 前回以上にプロモーション活動に力も入れ、リリースイベントで購買意欲を駆りたたせるのもアイドル界では必要不可欠。  「んーと、何だっけかな?遊園地の隣にあるショッピングモールみたいな場所って言ってたな」  それを聞いた奏は胸騒ぎがした。遊園地の隣って、、もしかしてあのショッピングモールだとしたら。色んな記憶が走馬灯のように頭を巡った。  「奏?、、どうした?」  「あっ、いや。俺もう帰らないと」  荷物をリュックに入れながら"まさか"と思いながら帰る準備を進めた。 ◆◇◆◇◆    「えーっとここの通りを入って…あれ?右だっけ?左だっけ?」 駅からの道順をスマホを縦にしたり横にしたり動かしながら地図と睨めっこしてゆっくり進む。  「んー…あっ、ここだ!」  大晦日に千遥に連れて来てもらった場所。一度来てはいても誰かに付いて行った場所は意外と覚えてないもの。やっとお店の看板を発見してほっとして店のドアを開けた。  〈 進級おめでとうーーー!!!〉  「わっ!!」 クラッカーから飛び出したテープと大きな音に驚いた奏の目前にいたのは千遥。  「びっくりしたー…あれ?千遥さん!」  『遅いよ!待ちくたびれたよ』 お店の店長と奥さんも一緒に笑顔を迎えいれた。  「千遥くんが君の進級のお祝いしたいからって昨日連絡きて、急遽準備したんだよ。だから今日は貸し切りだ!」  『店長、貸し切りって。普通にお客さん来ないだけじゃー…?』  「あのなぁ〜定休日に開けてやったんだから感謝しろよ!」 コントのような千遥と店長のやりとりを見ながら奏は嬉しそうに笑っていた。  「ささっ、座って!特製の料理を用意してるからみんなで食べましょ!」  奥さんが奏の手を引いて席に誘導した。4人だけの店内で進級祝いパーティーが始まり温かい料理が並んだテーブルにはケーキまで用意されていた。気付いたら終電近い時間になってバタバタと店長にお礼を言ってお店を出た。  店からの帰り道、駅までの数分間。寒さは(わら)らいだとは言え夜はまだ冷える。  「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです!でも何で進級決まった事知ってたんですか?今日、自分から報告しようとしてたのに」  『昨日、日高さんに聞いたんだよ。あっ、プレゼントくらい用意したかったんだけど時間なくて、、』  「プレゼントなんていいですよ!ケーキまで用意してもらったし。んー…でもご褒美は欲しいです」  リュックから手を離すとギュッと千遥の手を握った。突然の奏の行動に周りの目を気にして動揺を見せる千遥。  『ちょ、、ここ外だって!!』  「だってお店じゃイチャイチャ出来なかったし駅に着く間だけ……お願いします」  『……うんいいよ』  暗く人通りが少ない通りとは言え、男同士が手を繋いで歩くのは目立つだろうし仮にも芸能人。誰かに見られたら、、なんて。 そんな思いとは裏腹に数日ぶりに触れた手は温かくとても心地良くて振り払うなんてしたくなかった。  『そう言えば明日は久しぶりに丸一日休みだっけ?僕も仕事早く終わりそうだから時間あるけど、春休みだから学校もないよね?』  「あっ、ごめんなさい……明日はちょっと用事があって」  『そうなんだ?それなら大丈夫。また連絡するね』  駅に着いて方向が違う電車に乗った奏をドア越しに見送る。手を振って電車が見えなくなるまでホームに立ち尽くす。 さっきまで繋いで温かった手をポケットにいれて、普通の恋人同士のような束の間の時間に浸った夜は流れるように過ぎ去った。

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