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War63:2nd Single OUT②
遊園地の思い出と言えばジェットコースターやメリーゴーランド、お化け屋敷にアイスクリーム。楽しい思い出を語る人が多いだろう。
だけど僕は違う。冷たい雨に静かな観客席、楽しい思い出とは皆無の場所。
昨日の事のように思い出す。10年前の自分を。
「うわっ!遊園地なんて久しぶり!」
バスの中から窓に手をついて子どものような声を上げた凌太。発売日から少し経ち晴天の遊園地日和、、ではなくCDリリースイベント日和になった土曜日の午後。
窓から賑やかな風景が広がるとどうしても目がいってしまうメンバー達。
「日高さん!イベント終わったら遊ぶ時間ある?」
『あるわけないでしょ。こんなにファンの子達がいる中行ったら大変な事になるわ」
「え〜〜残念!」
遊園地に流れる楽しげな音楽を通り越してバスはお店の裏側の関係者入り口へ入っていく。
遊園地の真隣に並ぶショッピングモールのイベント会場。侮 るなかれ、そこそこが大人数が集客でき新人グループの登竜門と言われるイベント会場だ。
行うのは新曲と数曲含めたフリーライブとCD購入抽選で当たった200人とのサイン会だ。
施設側の責任者の方達と挨拶して控え室へ。大きなライブ会場とは違い小じんまりした部屋に衣装やメイク道具が並んで、所狭しと荷物が溢れている。
千遥は部屋をぐるりと見渡して何か記憶の中を探ってみたけど、忘れてしまったのか嫌な記憶は知らないうちに消し去ってしまったようだ。
「……どうしたんですか?千遥さんはここ来た事あるんですか?このショッピングモール」
『えっ?うーんー…さぁどうだったかな?』
下手な誤魔化し方でその場を凌 いだが目は泳いでいるのを奏は気付いていた。
「今日はお互いいい思い出になりそうですね!」
『うん。そうだね、、頑張ろう』
奏の言葉の真相はあやふやだけどとりあえず無事にイベントが終わる事を祈りながら準備な取り掛かった。
イベントが始まった。さほど広くないステージを囲むようにファンの視線が中央に注がれる。新曲が流れ、メンバーが登場すると黄色い声援はボルテージを上げた。
発売したばかりの新曲をファンも歌詞まですべて暗記し口ずさみ体を揺らしている。
デビューライブ以来のファンを目の前にしたステージにメンバーも力が入って踊る。
通りすがりの人達も"何だ何だ?"と騒ぎを聞きつけた野次馬のように近寄って見ている。気が付つけば人集りで警備員も慌ただしく規制がかかるほどになっていた。
ステージパフォーマンスを終えるとテーブルが運び込まれ6人が横一列に並びサイン会がスタートした。一人一人の目を見てサイン会を書きながら笑顔をプレゼントする。
軽い会話中も目をときめかせ"ありがとうございます♡"とアイドルスマイルでファンの子達を骨抜きにしてスムーズに流れて行った。
《今日はありがとうございました!これからもDeeperZを愛して下さい! 》
イベントが全ての行程が無事に終了。サイン会で手渡されたファンからのプレゼントが控え室に溢れ足の踏み場を無くしていた。
「とりあえずこれらを車に乗せないと」
那奈がそう言いながらスタッフ達と片付けしているその横でプレゼントの中身を気にして開けて騒いでいるメンバー達。
「これ美味しそう〜!」
「あっ、食べちゃダメよ。プレゼントの中身はスタッフが一度全部確認してから渡すから!」
那奈に注意されながらそれでもこっそり隠れて袋を開けている。
「うっ、お腹…痛い……」
突然お腹を抱えて突然屈み込んだ奏に全員が一斉に近寄る。
「ちょっと奏くん大丈夫!?」
奏の肩を抱いて辺りを見るとを目の前に箱が開いた状態のシュークリームを見つけた那奈。
「あっ、シュークリーム食べた?」
「はい。食べたら…ッ……お腹が、、」
「どうしよう!何か変なもの入っていたとか?」
何やら騒いでいる控え室に荷物を運び終えた千遥やスタッフが戻ってきた。
『どうしたんですか?』
状況が分からず苦しそうな顔の奏だけが目に入って駆け寄った。
「プレゼントのシュークリームが腐ってたか何か入ってたかで急に苦しみ出して……」
「まさかそんな!あっ確かここの正面が病院だったはずなんで。千遥さん一緒に……来て下さい」
奏から苦しむ声で指名されると全員が千遥に視線を向ける。
『えっ、僕!?あっうん、じゃ!一緒に病院行ってきます!ここに長居は出来ませんし先に帰っていて大丈夫ですから』
「わかりました、大庭さんお願いします!また連絡下さい」
那奈から奏の体を預かると2人分の荷物を持って部屋を出て行った。
裏口から出て確かに正面には病院があり、そこを目指してゆっくり歩いていく2人。千遥の肩に腕を回して体を前にすくめていた奏が、横断歩道の信号に待ちですくっと体を起こした。
「よし!うまく撒 けたかな」
してやったりの顔をして後ろを振り返る奏を見て良からぬ事が頭をよぎる千遥。
『ん?ねぇ奏くん、、もしかして腹痛って……』
「もちろん仮病ですよ2人になる為の!」
あれが演技だなんて思いもせず、まんまと騙されてしまった事に千遥は呆れ顔で溜め息しか出ない。
『はぁ、、心配して損した。タチの悪い嘘ついて一体何がしたいの?』
「このまま遊園地行きましょう!」
『は?もしかしてその為に?いや!このさすがにこの状況で遊園地はマズイよ!まだファンの子達だっているかもしれないし』
「そう言うと思って準備して来ました」
千遥の肩から奏は自分の鞄をスルッと外す。ガサガサと手を入れて出されたのはキャップとマスク、そしてサングラスが何故か2セット分。
「ちゃんと千遥さんの分もあります!これならバレないでしょ」
用意周到な奏に呆れながら手渡された変装セットを見つめる。
『いや、逆に目立つって。わざわざこんな手の込んだ事しなくて遊園地ならいつでも来れるのに』
「千遥さんのいつでもは当てにならないんで!それに、、今日この遊園地に一緒に行きたかったんです」
『まったく、、仕方ないな』
そして少しずつ日が暮れ始め遊園地が夕日でオレンジに染まり始めた頃、チケットが2枚発券された。
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