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War65:10 years ago

 『いや〜観覧車なんて何年振りに乗っただろう。アラサーにはこれくらいゆっくりなのががちょうどいいね!』    ゆっくり進むゴンドラの中で園内を一望しながら少し元気を取り戻した口調の千遥は向かい合わせに座った奏に視線を移す。  「そんなおじいちゃんみたいな事言わないで下さいよ」   『だってニ時間の間に7つも乗ったんだよ。高校生の体力と一緒にしないでくれる?、、それにしても歌って踊って200人にサインした後でよくこんなに動き回れるよね?』  「でもほら園内キレイでしょ。調べたらちょうど今イルミネーションやってるって、だから千遥さんとデートしたかったんです!」  千遥の横に座って肩にもたれかかった奏を慌てて離した。  『ちょっ、だから公共の場では…』  「そんな過敏(かびん)にならなくてもこの中じゃ誰も見てないし真っ暗だから気づかれませんって。だから少しだけこうさせて下さい」 ぽすっと千遥の胸に顔を乗せて手を握った。  「……だけどこの遊園地も変わりましたよね。俺子供の頃に親と一緒に来た事あって。確か丁度10年前のクリスマスの日でした」  『10年前って、、小学生の時?』  「はい。あの日は大雨のクリスマスでした。すごく寒かったのを覚えています」  『……ねぇさっき言ってた話したい事って?』  その言葉に彼はゆっくり思い出話をするような語り口調で話し始めた。僕も記憶を手繰るようにあの頃がフラッシュバックした。   ――10年前 12月25日 クリスマス  その日は朝から曇り空だった。会場へ移動中のバスの中で僕は雨が降らない事を祈りつつ窓から曇天の空を見上げてずっと眺めていたのを覚えている。  会場に着くと" SIRIUS(シリウス)"と書かれたポスターや看板が目に入ったけれど、そこに立ち止まる人達はほとんどいなかった。 正直このイベントは乗り気ではなかった。自分達の人気の無さは自覚していたし、そこそこ大きなこの会場で見す見すそれを証明しに行くようなものだ。   開始時間が迫るにつれ、空は一段と暗さを増していく。人もまばらな会場に数える程度のファンと言うべきか、たまたま居合わせただけかもしれないお客さんがいた。  ステージに上がり一曲歌い終わる頃には雨は激しく降り始め完全に雨曝(あまざら)しになった客席から人が少しずつ居なくなり会場は閑散(かんさん)としていく。  ステージに付いている屋根もこの横殴りの雨では威力を発揮せず、それでも僕らは濡れながら歌い踊り続けた。こんなにも4分と言う曲を長く感じた事はなかった。  歌い終わると短いMCタイムに入った。音楽がない分、雨音がはっきり聞こえて消されない様に声を大きくして話す。  その時、青い傘をさしてじっと(たたず)む少年が目に入った。迷子になったのだろうか泣き顔で目を真っ赤にして肩を震わせていた。周りに親だと思わしき人はいない。それを見て咄嗟にMCを遮って僕は遠くに向けて言った。  『それでは次の曲に聴いて下さい!』  「おい、まだだって」  慌てたメンバーに耳元で注意されても僕はスタッフの方を見て目配せし次の曲を流してもらう。  音楽が流れ始めると青い傘の少年が顔がこちらに顔向いて見ている。トコトコと遠慮がちにステージに近づいて来た。 強い雨に耐えるように傘のハンドルを両手で強く握っている。しばらくして泣き顔はすっかり消え笑顔になった少年を見て僕も嬉しくなった。  大勢に愛されなくても誰かの心を雨から晴れにする事が出来るならステージに立つ意味はあるって気付いたから。 それから最後までずっと立ったままステージを見ていた少年は僕達が見えなくなるまでずっとその場から動かなかった。  その後、彼は会場スタッフに連れて行かれた事までは知っている。だけどそれからどうなったまでは知らない。  「……誰かを救える歌が歌えるなら、、ずっとステージに立ち続けます!』  『えっ、、?」  「そう言ったでしょ。千遥さんが」  顔を上げた奏の目が潤んでいたのを見て千遥はハッとした。あの時の少年の潤んだ目と重なって走馬灯(そうまとう)のように記憶が駆け抜けていった。    『もしかして、、奏くんがあの……少年?』  「……はい。あの日家族と遊園地に行って遊んでいたら雨が降ってきて。そのあと隣のショッピングモールに移動したんです。気付いたら親と(はぐ)れて、、あそこに」  偶然なのか必然、いや神様のイタズラか。 こんな嘘の様な話を今はあの小さかった少年の手を握りながら聞いている。  あの日から6年後、中学生になった奏は漠然と父親と同じ道を歩み医者になる未来だけを見ていた。だけどあの時の記憶が忘れられず、少しずつ親の敷かれたレールから外れていった。  奏ももう一度あのグループを見たいと思ってはいたものの既に解散をしていて名前も覚えていない様な微かな記憶で結局は調べようもなく時が過ぎていった。  「探してました。ずっと会いたかったんです……SIRIUSの Chiharu(ちはる)さんに」  ずっと伝えたかった言葉。やっと言えた解放感が奏の体のスッと楽にした。ゴンドラはゆっくり出発地点に戻って2人は手を繋いだまま降りていった。 結局、閉園時間ギリギリまでデートを楽しんだ二人は初めて出会った場所で新しい思い出を作った。  あの時のアイドルと少年が10年経ち少年がステージに立ちアイドルが見守る側になって、そしてお互い大切な存在になっているなんて思いもせずに。  『でも、あんなカッコいい事言っておきながら結局は一年後に解散したなんて今となっては恥ずかし話だよね。ん?……寝てるか、、』  帰り道さすがに疲れ切ったのか顔を覗き込むとタクシーの中で眠ってしまった奏。 カクンと落ちそうになる体を支えるとキャップから覗く奏の顔を撫でた。  "遊園地って楽しい場所だったんだな。気付かせてくれてありがとう。僕を見つけてくれてありがとう" 奏の寝顔を見ながらそう呟いた。  『あっ、運転手さん次の信号右で!』  信号待ちでウィンカーの点滅がチカチカ光って、タクシーは千遥の自宅へ走って行った。

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