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War78:Curse of age⑨

 レッスンスタジオに響くカウントの声。 "それじゃあ15分休憩っ!"ダンス講師もさすがに息を切らして音楽を止めた。  「先生、間奏の部分がなんとなくバラバラな気がしてそこだけ通してやりたいんですけど!」  「おいバカッ!何曲ぶっ通しでやってると思ってんだよ!」  「そうだよーなんか今日の奏、気合入りすぎじゃない?いつもは率先して休憩してるくせに」  「は!?そんなことないし!」  旬と凌太が膝に手をついてハァハァと息を切らせながら言った。もう何時間も休憩なしで踊りっぱなし。奏だって疲労は溜まってるが何故かじっとしていられないのは理由もわかっている。  すると隙間のガラスから覗き込む顔が見えてそろーっとドアが開いた。"千遥さんだ!"  部屋に入ると同時にメンバーみんなが千遥の名前を呼ぶ。邪魔しないようにドアの前で入るタイミングをうかがっていたようだ。  『、、、お邪魔します』  「お疲れ様です!千遥さん久しぶりですね。どうしたんですか?急に」  『えっとー…妹の美織。今日のレッスン見学したいって連れてきたんだけど大丈夫かな、、?』  「え!?千遥さんの妹さん?」  「どうも、、こんにちは」  今までの覇気はどこやら、千春の後からひょっこり顔出しておどおどしながら小さく挨拶をした。メンバーは滝のような汗を拭きながら突然現れた美織の姿を見て驚いている。  「あのーこれ差し入れです。みんなでどうぞ」  「ありがとうございます。チョコレート美味しそう〜」  「プロテイン入りのチョコレートで…疲れた体に良いそうです」  「わー!さすが女子の差し入れは違う!気が利いてますねっ」  テレビで見ていた生アイドルに、へへっと照れ笑いをしながら差し入れに喜ぶメンバーひとりひとりの顔をじっくり見ている美織。  「ちょうど疲れてたんですよ。何せ奏が今日やけに気合入ってやめようとしないから〜」  『、、奏くんそうなの?』  「旬!適当なこと言うなよ。いいから、疲れてんならさっさと食えば!?」  「あの美織さん隣の部屋で一緒に食べませんか?」   背の高い朋希が少し目線を下げて言った。6人の中で特に推している朋希の誘いに乙女の心を揺らしながら"はい♡"と答える美織。    お菓子の箱を持ってぞろぞろと出て行った美織とメンバー。後について出て行こうとする千遥の横からスタジオの重い防音ドアを片手で軽々しくバタンと閉めた奏。  『あっ、ちょっと!』  「何で行こうとしてるんですか?」  『何でって、、隣の部屋でみんなと』  「あいつらは美織さんに任せておけばいいです。、、ってゆうか千遥さん痩せました?いや痩せたというか、、ゲッソリしてる。頬とか」  『そう?、、まぁご存知の通りいろいろあったからね。でももう大丈夫!とりあえずあともう一押しって所だから』  「そっか残念です。元気付けてあげようと思ってたのになー…こうやって」  正面から抱きしめて千遥の頭をポンポンと撫でる。奏か欲しかったのは毎日送るメールでも激励の言葉でもなく、安心するこの匂いと温もりだ。   『ここじゃまずいよ』  「……大丈夫ですよ、みんな食い意地張ってるからいないことも気づいてないです」  置いた肩から顔の正面に顔を持っていき、視線を合わせた奏は目をトロンをご飯させて千遥の白いシャツを背中でクシャっと強く掴んだ。  『ねぇ、まさか変な事考えて、ん!ッ、、』  奏にキスで突然口を塞がれ一瞬息が止まって苦しく息を漏らす。防音設備なのをいいことに多少の声や音は外には聞こえない。隣の部屋にいるメンバーたちの声もここまでは届かない。    「ち、、はるさん、、甘い…」  その言葉に口唇を離して息を整える。密着した ままの身体はレッスン中のエネルギーと恋人との熱い抱擁(ほうよう)とキスが(あい)まってかなり火照っている。  『あー…さっきまで美織に差し入れ探しにお店連れ回されて試食し過ぎてもうお腹いっぱいで』  「なるほど。ふふっ、相変わらず千遥さんは千遥さんですね〜」  『ん?それどういう意味?』  「ほんとに断れない人!一生懸命な人には全力で援護する!あとはー…」  『あーもういいよ!なんか聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた…』  頭をポリポリと頭を搔いて顔を背ける千遥に"そろそろみんなに怪しまれるかも"と不敵な笑みを向け部屋を出て行った奏。少し時間をおいて出ていく千遥の口の中の甘さは2人のだけの秘密ごとで増していた。  それから美織と千遥はレッスンを最後まで見学し、終わり間際にスタジオに来た那奈とメンバーみんなで食事に行く。美織は完全にDeeperZファンモードでメンバーと写真を撮ってサインをして、もちろん朋希の隣の席は死守して楽しそうだ。  一方で奏は千遥との二人きりの時間の予定が大勢の宴会に変わり少し不服そうに食べていたが"明日帰るんですよ"の美織の言葉を聞いてニヤッと少し機嫌を戻した。    「それじゃお疲れ様でした!」  「美織さん、次は僕たちのライブ是非観にきてくださいね」  「うん。絶対行く♡それじゃまたね〜みんな頑張ってね!奏くんもまた会えて嬉しかったよー」  「またって?、、奏と一度会ってたんですか?」  「うん、少し前お兄ちゃんの家ー…」  『あー!!美織!そろそろ帰らないとみんなも遅くなるし疲れてるから!そ、それじゃみんなまた!』  車のエンジンをかけて、颯爽と車を走らせて その場を後にする。最後の最後に爆弾を落とされてさすがに二人も少し慌てたが何とかうまく誤魔化した。    そして美織は翌日実家に帰って行った。毎日荒れ狂う台風のような毎日だったが、今回に限っては美織の助けのおかげで乗り越えられそうだ。  "たまには母親と父親にも会いに帰るかな" "一人もいいけど誰かと一緒なのはもっといいかも" 最近一人暮らし独身アラサー男子の家での独り言の種類が自然と変わったのは、取り巻く環境がそうさせている。  業界裏の世界に入って8年目こんなにもこの仕事にやりがいを感じてる日々は初めてかもしれない。

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