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#36
#36
「あぁ…まもちゃん、見て?まるで、ゴッホの絵みたいだね…?」
「本当だ…」
海外の建物はどれも美しく見える…それは、海外へ行き慣れた俺でもそう思うんだ。
特に、チェコの建造物は圧巻だった!
石造りの細かい装飾は…ゴシックで、クラシカルで…重厚だった。
リヨンの街を少し脇道へ入ると、両サイドを建物に囲まれた裏道へと続いていた。それは、まるで、映画の中の様で…そんな中で日常を送る人を、まるで、エキストラの様に感じた。
「ローマの休日みたいだね…」
そう言って、俺を見下ろして…クスクス笑ったまもちゃんは、このままでもダンディーな俳優さんで通用しそうだ。
「…北斗の休日だよ?」
俺は、ニッコリと微笑んでそう言った。
夕方…日も陰って来た頃、理久から連絡があった。
「もしもし…?夕飯をどこかで一緒にどうかな…?」
そんな理久の声の後ろから…チェロの音色や、トロンボーンの音色が聴こえて来た…
思わず口元を緩めて微笑んだ俺は、まもちゃんの手をブンブンと振ってこう答えた。
「良いね…俺たちも、ちょうど外に出てるんだ…」
「じゃあ…7時に。生バンドのあるあの店で…」
用件だけ伝えると、理久は早々に電話を切った…
彼の周りはいつも音色に溢れている。
理久は、一生音楽を止めないだろう…。
音楽に人生を捧げていると言っても、過言では無い。
そんな所が…憧れる、ひとつでもある。
「なぁんだって…?」
まもちゃんが、首を傾げて尋ねて来たから、俺は彼を見上げてクスクス笑って言った。
「電車に乗ろうか…?」
理久、ご指定のレストランは、ローヌ川とソーヌ川にはさまれた場所にある…お洒落な生演奏付きのレストランだ。
運よく、俺たちは、それなりに綺麗な格好をして来た。
だから、このまま…電車に乗って、レストランへ向かおうと思ったんだ。
「わぁ…!海外の夜だぁ!」
電車から降りて駅を出ると、まもちゃんが目の前に開けた景色を見て、目をランランと輝かせてそう言った。
俺は色んな国に行ったけど…フランスは中でも、群を抜いて、街並みが美しいと感じるよ。国を挙げて景観保全に努めているだけはある。
国全体が、美しいんだ。
まもちゃんはすっかり興奮して、おのぼりさんの様にキョロキョロとあたりを見渡して、感嘆の声をあげ続けている。
だから、俺も彼と一緒になって…上を見上げてケラケラ笑ったんだ。
夜なんて言っても…まだまだ日は出ていて明るい。それでも、街を行きかう人は、夜の雰囲気を醸し出した。
家路を急ぐ家族連れや、綺麗に着飾って食事へ向かうカップルたち…。
いつもなら…こんな光景に、俺は少しだけ寂しさを感じていたんだ。
異国の地で、帰る場所もない…それは、思った以上に、孤独を感じさせた。
特に夕暮れ時は…そんな寂しさが、身に染みたもんさ…
でも…もう、違う。
俺の隣には…彼がいる。
すると…
「…北斗?」
ふと、まもちゃんに名前を呼ばれて、俺は、立ち止まった…
そして、彼を見上げて首を傾げたんだ。
すると彼は、俺の右手を取って…突然、大きな体を沈めて跪いた。
目の前に差し出された彼の右手は…心なしか、プルプルと震えて見えた。
「え…?」
ここは…人が行き交う…道のど真ん中…
そんな中…彼は、俺を見上げて、大きな声でこう言った。
「北斗!愛してる…!俺が…一生、幸せにする!絶対だ!絶対に…幸せにするっ!だから…どうぞ…これを、お納めください…!!」
は…?
彼の差し出した手の上には…蓋の開いた深緑のケース…
その中には、キラリと光る指輪があった。
こ、これは……ゴクリ…
俺は…そっと、彼の左手を自分の両手で包み込んだ。そして、俺を見上げ続ける彼を見下ろして…ボロボロと涙を落としながら、何度も、頷いて…こう言ったんだ。
「…あ、あ…ありがとう…!!」
「フォーーーーー!!」
すると、いつの間にか出来た人だかりから…大勢の歓声が上がった。
「おめでと~う!でも、向こうに、もっと良い景色の場所があるって言うのに、こんな所でプロポーズだなんて、日本人は…せっかちだ!」
そんな言葉を耳に聴きながら…俺はまもちゃんに抱き付いて彼を強く抱きしめた。
フランス紳士よ…あんたは分かってない!
彼はね…こういう人なんだ!
「まもちゃぁん!こんなの、くれるの…?俺に、こんな素敵な物…くれるの…?!」
俺は、彼の顔を両手で包み込んで、顔を覗き込みながらそう言った。
すると、まもちゃんは…顔をグチャグチャに歪めて、泣きながら言ったんだ…
「ずっと…渡し損ねて来た…!!…11年間…ずっと、渡し損ねて来た…年代物の指輪だぁ!!やっと…やっと…!渡せたぁ…!」
あぁ…なんて、素敵なんだろう…
こんな、雰囲気のある…道の真中で、指輪をくれるなんて…
最高じゃないかっ!!
俺とまもちゃんは、人目も憚らず熱いキスをして…ローヌ川とソーヌ川の間で…愛を誓った!
14歳の夏休み…俺は、8月を友達たちと軽井沢の歩の家の別荘で過ごした。その時、まもちゃんと出会った。大人の彼は、まるで…逆さ月の様に…真実を隠して、知れば知る程ミステリアスな男性だった。そんな彼が…俺は大好きになった。彼もそれは同じだった様で…その時…俺に、スーパーの駐車場でプロポーズをしたんだ…。
俺は、てっきり…ごっこ遊びだと思ってたんだ。なのに、彼は、この指輪を翌年には準備していた…
だけど、今まで渡せずにいたなんて…ロマンチックだよ…
離れてしまいたくないと泣いた。ずっと傍に居たいと…心の底から願った14歳の俺よ。少し時間は掛かってしまったけど…俺は、その願いを叶えたよ…?
だから、安心して…今は思う存分、悲しみに暮れて…泣いて良いよ。
最後は…ハッピーエンドだ。
そして…約束の時間になった。
レストランの前で待っていると、理久が黒いポルシェに乗ってやって来た。
「お待たせしたね…ささ…」
ジャケットを羽織った彼はそう言って店の中に案内した。
俺は、まもちゃんと腕を組みながらその後に続いた。すっかり、惚けた俺は、貰った指輪を見つめ続けて、デレデレと鼻の下を伸ばした。
ずっと持ってただなんて…最高に、ロマンチックだ…!
「あぁ…まもちゃん…俺の頭の中で、ずっと…結婚行進曲が流れてるんだぁ…。もちろん…ローエングリンの方のだ…。」
クッタリとまもちゃんの腕にしがみ付いた俺は、潤んだ瞳を彼に向けてそう言った。
すると
案内されたテーブルに腰かけた理久は、首を傾げて俺に聞いて来たんだ。
「…所で、豪ちゃんは…?」
「は…?!」
…指輪に夢中になっていて気が付かなかったけど…確かに、ここには、フラフラと動き回る、豪ちゃんの姿が無い…!!
「理久先生と一緒では…?」
首を傾げたまもちゃんがそう言うと、理久は、目を大きく見開いてこう言った。
「仕事場から、直接、来たんだぞっ!」
知らねえよ…!
「…まぁまぁ…」
声を荒げた理久を宥めた俺は、考え込む様に視線を下に下げた。
すると、左手の薬指にきらりと光る…俺に良く似合う、素敵な指輪を見つけて…思わず、左手を掲げて…うっとりして見入った。
あぁ…綺麗じゃないの。
これって…アレでしょ…?
この人は、既に売却済みですって…そう言う意味の…アレでしょ…?
つがいが居ますよって…そういう意味の…アレでしょ?
「んふふ…」
「北斗ぉっ!」
「はいっ!」
理久の大声にビビった俺は、思わず姿勢を正して目を大きく見開いた!
「先生…?大きな声を出しちゃ、駄目だよぉ…」
へ…?
そんな聞き覚えのある声に、俺たちは一斉に顔を上げた。
すると、そこには…綺麗に服を着飾った豪ちゃんと、あの幸太郎がいたんだ。
--
知らない人に…声を掛けられた…
悪い事をした時や、こんな時は、トボけろって…晋ちゃんが言ってたんだ。
「さ、さぁね~~~?」
だから僕は、両手をポケットに入れながら、オラついた様に体を揺らしてトボけた…
すると、知らない男性は、首を傾げて車へと戻って行った。
その隙に僕は小走りでその場を立ち去って…郵便局のポストに、手紙を全て投かんした。そして、そのまま…違う道を通って、先生の家へと向かったんだ。
怪しい男は車の運転席に戻って行った…。もしかしたら、誘拐犯かもしれない…!
そんな思いに胸をドキドキさせながら、僕は…唯一の味方、ポンポンにこう言った。
「…ポンポン!もし…もし、何かあったら…お前が、僕を助けるんだよ…?」
小走りなのが楽しいのか…ポンポンは細かくジャンプしながら、グイグイと僕を引っ張って遊んでいる…
「豪!」
突然名前を呼ばれて振り返った僕は、目を点にして…大声で叫んだ。
「きゃ~~~~!」
さっきと同じ車がぁ!
僕とポンポンの後を付いて来ている~~~~!
しかも、僕の名前を呼んで来たぁ~~~!
…信号も無い、車がしきりに行き交う道路…
後ろを追いかけて来る怪しい車から、逃げ切る事は不可能に思えた。
だから、僕は、後ろを振り返って…右手に持たれし、古の霊獣…ポンポンを召喚して、こう言ったんだ!!
「ポンポン!行けぇ!赤カブトを倒したあの時の様に…!!首に噛みついて…旋回しろぉっ!!」
「くぅん…」
そんな情けない声を上げて、首を傾げる…この子は、こんな事しか出来ない…ハッピーワンちゃんなんだ。
ポンポンを見下ろした僕は、自分で飼うなら…絶対、グレートデンにしようと、硬く、心の中で誓った。
ベンしか…勝たん!ベンしか勝たん!!
僕は、ポンポンと見つめ合いながら、犬という生き物の本来の役割と、愛玩動物というカテゴリを天秤にかけて…心の中で、葛藤を続けていた。
すると、黒い車の窓が開いて…誰かがこう言った。
「豪!待ってよ。俺だよ。俺、俺!」
僕は、まだ、おじいちゃんじゃないのに…おれおれ詐欺の被害に遭おうとしてるっ!
踵を返した僕は、ポンポンと同程度のスピードで猛ダッシュして、先生の家へと走った。
「わぁ!サリュー!ミミ!」
疾走する僕を見て目を丸くしたゴードンさんが、そう声を掛けて来た。だから、僕はピタリと足を止めて…こう返したんだ。
「ゴードンさん…サリュー!」
挨拶は…しっかりしないと、屑になるって清ちゃんが言ってたもんね…
僕は、ゴードンさんに、にっこりと笑って…ペコリとお辞儀をした。
そして、先生の家の前まで…やっとの事、帰って来た。
「はぁはぁ…つ、疲れたぁ…」
全速力で走ったせいか…ポンポンがセカセカと息を切らしていた…
「ごめんね…ポンポン。お水をあげるから…少し休もうね。」
庭に回った僕は、ボンボンのリードを外してすぐに彼に水をあげた。
凄い勢いで水を飲む彼は、犬の割に…軟だ。
これじゃあ…赤カブトは倒せない。
「豪…逃げる事はないだろ?」
「はっ!」
慌てて後ろを振り返った僕は、黒いシャツ姿の幸太郎を見上げて…固まった。
いつの間に…!!
「なぁんで!勝手に入って来たらぁ、駄目なんだぁ!」
怒った僕は、幸太郎に厳しくそう言った。
彼はポンポンと同じ…いいや。そんな事を言ったら…ポンポンに失礼だ!
野生動物の様に、抑えの効かない…30代なんだ!
しかも…僕を、何回も、いたぶった…
「こらぁ!出てけぇ!…ん、もう!怒ったぞぉ!」
僕は、弱気な所を見せない様に、必死に、仁王立ちして…幸太郎に罵声を浴びせた。
「…はいはい。お茶を出してよ…。少し、話をしよう…?」
幸太郎は、僕の威嚇に怖じ気づいたのか…テラスの椅子に腰かけてそう言った。
だから、僕は…鼻息を荒くしたまま…部屋に入って、お茶の用意をした。
「ふんだ!ふんだぁ!」
そう言いながら出した紅茶は、ジェンキンスさんのおばあちゃんに貰った、カモミールのハーブティーだ。
せっかく貰ったのに…僕も、先生も、苦手だったんだ。
だから、幸太郎に飲ませた。
「んっ!!…なぁんだ、ハーブティーなんて出すなよ。不味いな…!」
そう言って口元を歪める幸太郎を見つめて、僕は首を傾げた。
ポンポンが楓の木の下でお昼寝を始めて…そんな彼の傍で、パリスが眠り始めた。
沢山走ったせいか…僕も、ウトウトと…眠たくなって来た。
でも、幸太郎の前で…気を抜く訳には行かない!
だから、僕は、必死に…眠たい目を見開いたまま…幸太郎を見つめ続けた。
すると、彼はそんな僕を横目にこう言ったんだ。
「…運転手に声を掛けさせたのが間違いだったなぁ…。あれで、不審者だと思ったんだろ?初めから、俺が声を掛ければ良かった…うんうん…」
「運転手~?」
首を傾げてそう聞くと、幸太郎は同じ様に首を傾げて僕を見つめた。
「…豪、この前は…急だったね。もっと…時間を掛けるべきだった…」
いつもと違う…気の抜けた声で、幸太郎がそう言った。だから、僕は口を尖らせてこう言ったんだ。
「…お茶を飲んだら、帰ってぇ…?」
「…あぁ、そうだな…」
…ほっ!
良かった…
安堵の表情を浮かべた僕は、幸太郎に残り物のスノーボールを出してあげた。
「…どうぞぉ~?」
彼はスノーボールを摘んで口の中に放り込むと、モグモグと食べながらこう言った。
「豪の…“ツィゴイネルワイゼン”が…最高に痺れたんだ。あんな音色…他に出せる奴はいない…。だから、好きになっちゃった…」
「へえ…」
幸太郎の言葉に適当に相槌を打った僕は、こちらの様子を伺う様に首を伸ばすパリスを見つめて、心の中で助けを求めた。
“パリス…幸太郎の目を潰して…!”
そんな思いは伝わらず…彼女は、ポンポンと一緒に木陰で眠り始めてしまった。
あぁ…
すると、幸太郎は…ゆっくりと、静かな声で、僕に話し始めた…
「…3歳の頃。普通の子供と違って育て辛い俺を、親は施設に捨てた。そこで、チェロを渡されたんだ…。そうしたら、俺は他の人よりも…それが上手に弾けた。まるで、不幸の埋め合わせみたいに…チェロだけは上手になった。」
どこかで聴いた様な…誰かと重なる様な…そんな話に、僕は…幸太郎を見つめたまま…押し黙った。すると、彼はハーブティーを啜って飲んで言った。
「…程なくしてテレビがやって来て、俺を、神童なんて呼んでもてはやした…。当然の様に出来るチェロを披露すると、大人は涙を流して喜んでさ…。はっきり言って…馬鹿だと思ったね…。」
僕は、淡々と語る彼の言葉を…ただ、じっと黙って聞いていた。
すると、彼はスノーボールをサクサクと音を立てながら食べて、僕を見つめてにっこりと微笑んだ。その笑顔は…まるで子供の様に、屈託が無かった。
そして、ため息の様な鼻息を吐き出した後…幸太郎は、僕から視線を逸らして…遠くのポンポンとパリスを見つめながら、再び話し始めたんだ…
「…信頼していた大人たちは、手のひらを返した様に…俺に、やたらと…チェロを弾けと言い始めた。そして、どこからともなく現れた金持ちたちは、俺を金で買って、自分の家で弾かせたり、パーティーで弾かせたり…まるで、競争でもするかのように取り合い出したのさ。すると、俺を捨てた筈の親が、当然のように現れて、主張し始めたんだ。その子は…自分たちの子だ!ってね…お金を受け取る権利があると…言い始めた…」
幸太郎は、自嘲気味に鼻で笑って…続けて言った。
「俺の憧れていた“普通の人”ってやつは…思った以上に、自然に、当然の様に、汚かった。」
そんな、彼の言葉が…僕の胸にさざ波を起こした。
僕も、同じ様に感じたよ…
でも、それは…普通の人にだけじゃない…
お前にもだ…!
目の奥を絞る様に力を入れた僕は、幸太郎を睨みつけてこう言った。
「…幸太郎も、同じじゃないか…!イリアちゃんを僕にけしかけて…争わせようとして、汚い大人を煽って、先生を嘲笑ったじゃないか…!!僕は、そんなお前を見て…自分が同じ境遇な事が、とても嫌になったぁ…!」
そんな僕の言葉に瞳を細めた幸太郎は、視線を僕から外して…鼻で笑った。そして、再び視線を戻して、僕を凄む様に睨みつけて…こう言ったんだ。
「…理久が、どうして、豪の面倒を見ていると思う…?お前に集まる金が欲しいんだよ。お前を見世物にして…金持ちから金を取ろうとしてるんだ。だから、俺の所へおいで。お前を守ってやる…。お前のバイオリンは…俺のチェロと同じだ。他を寄せ付けない程に…美しいんだ。」
そんな彼の言葉に、僕は、呆れた様に首を横に振って…笑って言ってやった。
「馬鹿だな。幸太郎。先生は…そんな理由で、僕と居るんじゃない。」
僕は…自信を持って、そう言える…
彼は、そんな事は求めていないんだ。
彼が欲しい物は、ただ、ひとつ…
「そうかな…?」
馬鹿にするような目つきをした幸太郎は、僕を見つめたまま…眉を片方だけ上げた。
そんな彼を見つめた僕は、にっこりと微笑んで、こう言ったんだ。
「先生は、お金が欲しいんじゃない。彼はね…見た事の無い才能の目撃者になりたいんだ。…一番傍で、そんな物を見たいんだぁ!だから…彼は、僕を、絶対に傷付けたりしない…!」
但し、僕が…バイオリンを弾き続ける限りは…だ。
「…豪。俺は、お前が好きだよ…。お前は、俺に似てる…」
幸太郎はそう言って瞳を細めると、僕にウインクをした…。
僕は、そんな彼を見つめたまま…生唾を飲み込んで…スノーボールを、ひとつ、摘んで食べた。
僕は、幸太郎とは違う…
彼は僕を見つめながら、手のひらをひらひらと宙に泳がせて”愛の挨拶“を鼻歌で歌い始めた。そして、小さな声で、ポツポツと言ったんだ。
「チェロは良い…。あの音色だけは…俺を振り回さない。あの低くて…落ち着いていて、穏やかな音色だけは…俺を傷付けたり、裏切ったり…しない。」
惺山…
彼が僕に似ているとしたら…
僕の、なりうる未来だとしたら…こんなに恐ろしい事はない。
先生に裏切られたら…
あなたに裏切られたら…
僕は、簡単に…幸太郎の様に、なってしまうんだろうか…
“ギフテッド”なんて特異な境遇と、そのせいで集まって来た薄汚い大人たちに、人生を翻弄されて、自分を見失った子供…
それが…幸太郎なんだ。
「豪…バイオリンを聴かせてよ…」
そんな彼の言葉を…僕は、無碍に出来なかった…
「聴いたら、帰ってぇ…?」
眉を下げてそう言った僕は、ピアノの上に置いてあるバイオリンを持って来て、テラスの椅子に腰かける幸太郎の目の前に立った。
そして、姿勢を美しく正して、バイオリンを首に挟んだ。
「…知ってる曲で、良い…?」
首を傾げて僕が尋ねると、彼は、うっとりと瞳を細めてこう言った…
「良いよ…」
右手の弓を、そっと掲げて柔らかく弦に下ろした僕は…そのまま、彼を包み込む様に、穏やかで…優しい…”愛の挨拶“を弾き始めた。
可哀想だなんて、思わない…
ただ、こうなってしまった彼の…理由を知ったんだ…
そして、それは…簡単に、誰にでも、訪れる機会であるという事を、思い知った。
そんなあなたへ贈る曲は…
音色に色があるなら…優しい薄いピンク色にしてあげよう。
音色に温度があるなら…穏やかな陽だまりの様な…温かさにしてあげよう。
傷付いてしまった心は、癒えないかもしれないけれど…それでも、今だけでも、そんな嫌な事を、すべて、忘れられたら…良いね…
ゆったりとじっくりと…揺れる様な音色を、僕は、いつもよりも…軽く流した。
だって、幸太郎は…自分を哀れんで欲しい訳じゃないんだ。
ただ、知ってほしかったんだ…
自分の、成り立ちを…僕に知ってほしかった。
だから…僕は、あなたを、可哀想だなんて思わないよ。
僕は、優しい”愛の挨拶”に音色の隙間を作って…彼の、涙の、逃げ場を作った。
「ブラボー…とても、美しい…」
幸太郎は、涙をホロリと落として…口元を上げて微笑んだ。
そして、おもむろに椅子から立ち上がって…僕を見て言ったんだ。
「あぁ…豪、カモミールのせいで、俺は漏れそうだ…。トイレを貸してくれ…」
「え…」
そんな彼の言葉に慌てた僕は、幸太郎を部屋の中に入れてあげた。
「ハーブティーって凄いねぇ…?即効性があるんだねぇ…?幸太郎…お手洗いは、あそこだよ…」
忘れていた訳じゃないんだ…
幸太郎が、隙を見せてはいけない相手だという事を。
だけど…まさか…こんなに、馬鹿だとは…思ってなかった。
部屋に上がった幸太郎は、僕を軽々と持ち上げて、そのままソファに押し倒した。
あまりに一瞬で…僕は何が起きたのか…理解できなかった。
でも、目の前で、僕に圧し掛かって来る彼の顔を見て…我に返ったんだ。
だから、必死に両手で突っぱねて、足で彼のお腹を蹴飛ばした。
「幸太郎…止めてぇ…!」
「豪…抱かせてよ…」
自分のシャツを脱ぎ始める幸太郎の頬を引っ叩いて、僕は…込み上げてくる言葉をただ、乱暴に彼にぶつけた。
「ん…!分からない!分からないよっ!どうして…どうして…こんな事するのぉ…!」
「豪が、好きなんだ…堪らなく、欲しいんだ…!」
僕のズボンに手を掛けた彼は、慣れた様子で…無理やり脱がせ始めた。
「んん!やぁ…やめてぇん!」
嫌がる僕は、幸太郎の体から身を捩って抜け出そうとした…すると、彼は、ソファからずり落ちた僕の背中に覆い被さって、脱がしかけのズボンの中に手を入れて来たんだ。
「あっ…!ん…も、もう!止めてぇ…!」
「…豪、豪…一緒に気持ち良くなろう…」
必死に幸太郎の手をズボンから出そうとするのに…僕は、与えられる快感に…自然と腰を振るわせて、力が入らなくなって行く…
「はぁはぁ…ふっ…あっ…あぁ…だめぇ…!」
また、やられるっ…
瞬時に察した僕は、武器を探した。
幸太郎をやっつける武器…それは、半端な攻撃力じゃ…駄目なんだ。
殺人現場に落ちている様な…ガラスの灰皿があれば良いのに…
不運な事に…先生は、非喫煙者だ。
そうこうしていると…幸太郎の手が、僕のお尻に伸びて来た…
早くしないと…!やられちゃう…!!
仕方なく…僕は、ソファの上に置いてあるクッションに手を伸ばして、背中に圧し掛かる、幸太郎の頭目がけて後ろを振り返りながら振り回した。
「やぁだぁ!やめろぉ!」
「あっはっはっは!当たんないよっ!当たんない!」
ケラケラ笑う幸太郎の声は…やっぱり、事の酷さと比べて…妙に明るかった…
「ん~~!だめぇん!」
僕の中に入って来た幸太郎の指は、この前よりも強引に…僕の中を刺激して、押し広げようと強く動いた…
「はぁあ…らめぇん…やめてぇ…!!」
ガクガクと足が震えてしまうのは…僕のせいじゃない…
強引にされるのが好きな…性癖のせいだ。
僕のトレーナーを捲った幸太郎は、背中に舌を這わせて…息を荒くしてこう言った。
「すぐに…気持ち良くしてあげるからね…?豪…」
「んん…!はぁはぁ…あぁっ…らめぇ…ん~~…!はぁはぁ…」
僕は、お尻を幸太郎に抱えられながら、突っ伏したソファを見つめた。そして、下半身に襲ってくる快感に、抗う事が出来なくなって…うっとりと体を委ねた。
だめだぁ…
だって…すっごい…気持ち良いんだ…
「あぁ…ら、らめぇん…」
「こんなにトロトロにとろけちゃって…豪…実は、俺を誘ってたの…?ふふ…」
僕は、自分の股間で揺れ動く…勃起した自分のモノが、トロトロの液を出してイキそうになっているのを見つめて…項垂れた。
多分…僕は、今回も、幸太郎にイカされるだろう…
そして、もしかしたら…そのまま、最後まで行ってしまうかもしれない。
そう。思った…
「はぁはぁ…あっああ…イッちゃう…イッちゃうのぉ…!!」
堪らない快感に、浮いたつま先がプルプルと震えて…着いた膝に力がこもった…
「駄目だよ…一緒にイクんだから…」
幸太郎はそう言って、僕の中から指を抜いた。そして、クッタリとソファの座面に胸を乗せる僕の背中に片手を置いて、抑え込みながら…自分のズボンを下ろし始めた。
その時…
「豪ちゃん…誰にも触らせるんじゃないよ…?」
そんな、惺山のムスッとした、ふくれっ面が目の前をよぎって…
…僕は、必死に、快感に抗った!!
「やめろ~!ぼ、僕はぁ…惺山の豪なんだぁ!誰の物でもない、僕の物でもない!僕は…惺山の豪なんだぁ~~!」
そうだ!!
僕は…惺山の物なんだぁ!!
お尻を丸出しにしながら…僕は、幸太郎から、必死に逃げた。
キッチンまで駆け込んで刃物を持った時点で…僕の勝ちは決まった様なもんだった。
両手を上げた幸太郎は、僕の狂気を知らないんだ。
ヘラヘラ笑って…こう言って来た。
「豪…落ち着け…あはは…!」
だから僕は、一番分厚いまな板を取り出して…思いきり音を立てて、突き刺して見せた。
…ドン!
「ヒィ!」
そして、ジト目で幸太郎を見つめたまま…低い声で、こう言ったんだ。
「幸太郎はぁ…!いっつも僕にぃ!エッチな事をしようとするなぁ…っ!」
「…わ、分かった…!」
まぁったく!!
この駄犬はぁ!ぶちのめされないと…わっかんねえみたいだぁ!
鼻息を荒くした僕は、自分のパンツとズボンを穿き直しながら、幸太郎に刃物を向けて…威嚇し続けた。
幸太郎は、そんな僕を見て…首を傾げて、とぼけた顔を続けた。
「そうだ…豪。こんな物騒な物はしまって…仲良く、一緒に…テレビでも見ようじゃないか…?」
「どうしてぇ?」
我が物顔でソファに座った幸太郎に、僕は首を傾げてそう尋ねた。
もちろん…手には、刃物を持ったままだよ?
「なぁに…少し、リラックスすれば…気が変わるかもしれない。」
幸太郎はそう言って、僕を隣に呼んだ。だから、僕は首を傾げたまま…彼の隣に腰かけてみた。
もちろん…手には、刃物を持ったままだよ?
「あぁ…このテレビは、面白くない…。そうだ、豪。もっと、楽しい事をしよう…?」
「どうしてぇ?」
首を傾げた僕は、キスをしてくる幸太郎の首に刃物を立てて、刃先を少し押し付けた。
「あぁ…痛いなぁ…」
クスクス笑った彼は、首から血を流しながら僕を見て、解せない顔をしたまま首をひねった。だから、僕は、こう言ったんだ。
「毎日使ってる包丁だよぉ…。どうすれば切れるのか…僕は、よく知ってるぅ。もし、幸太郎がおちんちんを出したら、僕は、迷う事無く、これで、ぶった切ってあげるぅ…」
「ヒェ!」
やり過ぎなくらい…僕は、幸太郎を、脅した。
幸太郎は…馬鹿で、殺傷能力の高い…動物だ。
だから、もう、二度と、僕に、何もしてこない様に…躾たかった。
「キスくらい良いだろ…?友達のキスだ…」
僕の肩を抱いた幸太郎は、ケラケラ笑ってそう言った。だから、僕は、眉を下げて、彼を見つめて首を横に振った。
「どうしてぇ?僕は幸太郎と、友達じゃないよぉ?」
すると、幸太郎は僕の包丁を指で撫でながら、上目遣いをして言った。
「フェラチオまでなら、友達同士でするだろ…?」
「えぇ…そんな友達、知らなぁい…」
僕が刃物を持ってるって、知ってる筈なのに…
首だって、プツリと切られた筈なのに…
幸太郎は、僕の予想を上回って…馬鹿だった。
僕のズボンをおもむろに引き下げた幸太郎は、体を屈めて、僕のモノを舐め始めたんだ。
「あ…あぁ…ん、も、ばっか野郎!」
僕は刃物を持ってる。しかも刃渡りの長い…刺身包丁だよ?
でも、頭の上をブンブン振られる刃物に…彼は、関心が無い様に頭を動かして…僕のモノを口で扱き続けたんだ。
「はぁはぁ…あぁ…だめぇん…イッちゃう…!」
「気持ち良いの…?」
僕は、包丁を幸太郎の頭の上に置いたまま…彼の髪を、鷲掴みにした。そして…潤んだ瞳で、ついつい…こう言ってしまった…
「…気もちい…」
「ふふ…」
満足そうに笑った幸太郎は、僕のモノに、あったかい舌を絡めながら…何度もきつく吸った…
その瞬間、まるで体に電気が走った様に、プルプルと爪先を震わせて…僕は、顔を仰け反らせた。
「はぁはぁ…ら、らめだぁ…イッちゃぁう!!」
「イッて良いよ…俺の可愛い天使…」
お言葉に甘えて…僕は彼の口の中で気持ち良く、イッた…
「豪は、俺の…友達だからね…」
快感の余韻に惚けた僕に、幸太郎はそう言って舌を絡めたキスをした…
あぁ…気もちい…
熱くて、止まらないキスは…あっという間に僕の頭をクラクラにした。すると、彼は、僕のイッたばかりのモノを再び扱き始めた。
「はぁはぁ…らめ…も、やぁ…」
「豪…イク時の、可愛い顔が見たいの…」
僕は包丁を持った右手を幸太郎の顔に当てて、彼を押し退けようとした。でも、無敵の幸太郎は…そんな事、気にしないみたいに…僕にキスを続けるんだ。
彼に圧し掛かられて…キスをされて…扱かれ続けた僕は、ただただ、快感に溺れて…喘いだ。
「あぁあ…はぁはぁ…んっ…ふっ…あっああ…!気持ちい…!あぁあん…!」
「豪…あんなに、優しい…”愛の挨拶“…ありがとうね…」
彼はそう言って、僕に、何度もキスをした。
「イッちゃう…はぁはぁ…幸太郎…!イッちゃぁう…!」
僕は、幸太郎の体を抱きしめて…自分に引き寄せて、彼の背中を撫でた…
惺山…
堪らなく、あなたに…会いたいよ…
あなたに…抱かれたいんだ。
恋しいんだ…
「イッて良いよ…」
「んぁあっ…!はぁあん…!!はぁはぁ…はぁはぁ…」
歪んだ瞳から涙を落とした僕は…押し寄せて来る快感に負けて…幸太郎の手の中で、再びイッてしまった…
「豪…したくなった…?」
クッタリと脱力する僕の顔を覗き込んで…幸太郎がそう言った。そして、休む間もなく…再び、彼は、溺れる様なキスを僕に始めた…
「ん…はぁはぁ…んん…」
勃起したモノを僕のモノに擦り付けて、幸太郎は、僕の耳たぶを食みながら囁いた。
「したく…なっただろ…?」
したい…
もっと、気持ち良く…なりたい。
幸太郎の背中を抱き寄せた僕は、彼にキスをした…。
すると、右手に持ったままの包丁を…間違って、手から落としてしまった。
「あっ…いたぁい!」
僕の胸の上をワンバウンドした包丁は…ソファの下へ落ちて…カランと音を立てた。
「は…」
その瞬間、幸太郎は…僕の胸を見つめたまま…表情を固めた…
僕の着ていた服に、じんわりと血がにじんで…赤く染まったんだ。
多分…包丁が、ちょっとだけ、僕に刺さったみたいだ…
急に顔を歪めた幸太郎は、慌てて体を起こして…僕の服を脱がせた。そして、血の流れる小さな傷痕を見つめたまま…言葉を失った様に固まってしまったんだ。
「…あぁ、ビックリしたぁ…」
僕は、そう言って傷痕の血を指先で拭った。すると、幸太郎は僕の指を口の中に入れて、舌で舐めて言った。
「…豪、怖かった…。もう、包丁はしないで…」
悔しいけど…幸太郎の言う通りだ…
僕は、クスクス笑って、未だに、顔面蒼白な彼を見つめて、こう言った。
「…うん。そうだね。じゃあ…幸太郎も、僕が止めてって言ったら…止めて?」
「…分かった。」
破れてしまった服を洗濯籠に入れた僕は、自分の部屋に着替えをしに向かった。すると、幸太郎は、そんな僕の後ろをトコトコと付いて来た。
「どうして付いて来るの…?」
彼を振り返ってそう尋ねると、幸太郎は、眉を下げてこう言った…
「…豪が、好きなんだ…」
へぇ…
「じゃあ…ポンポンみたいに、僕が、飼ってあげようか…?」
そんな僕の言葉に、幸太郎は瞳を細めてこう返事をした…
「うん…」
わぁ…!
僕は…躾のなっていない、暴れん坊の幸太郎の飼い主になった。
でも、きっと、パリスは、幸太郎を気に入らないだろうな…
僕は先生のお気に入りのシャツを着て、ボタンを留めながら、幸太郎を振り返って言った。
「今日は、先生も…ほっくんも、まもるも…みんな遅いんだぁ…。だから、悪い事をしないなら…幸太郎に、美味しい餌を作ってあげようか…?」
すると、彼は、肩をすくめて、僕にこう言った。
「じゃあ…ご飯に連れてってあげる。」
だから、僕は、彼に、にっこりと微笑みかけて言った。
「わぁい…夜の、お散歩だぁ!」
ボサボサになってしまった髪に、申し訳程度に櫛を入れた僕は、怪我をさせた幸太郎の首に、消毒をして、絆創膏を貼ってあげた。
「僕は…謝らないよ?だって…幸太郎がいけないんだからね…?やぁだって言ってるのに、やるから…僕がプッツンしちゃったんだよぉ?」
幸太郎は、すっかり大人しくなった。
そんな彼の顔を覗き込んだ僕は、首を傾げながらそう言った。すると、幸太郎は、眉を片方だけ上げて、とぼける様に肩をすくめてみせた。
こんなに幸太郎が大人しくなったのには、ちゃんと、理由があるんだよ?
…てっちゃんが言ってた。
動物は、パワーバランスを本能で嗅ぎ分けるって…
幸太郎は、僕の方が強いって分かったんだ。
だから、僕に大人しく従って…僕の言う事を聞く様になった。
つまり、幸太郎のボスは僕なんだ。
僕が…彼の飼い主。
お利口になった幸太郎の運転する真っ赤なスポーツカーでやって来たのは…川を一つ越えた先にあった、石造りの建物。
それは、まるで、関所のような所だった…
僕は、首を傾げて幸太郎に聞いたんだ。
「ここは、何する所…?」
「ん?ご飯を、食べる所…そして、今日は、俺のお仕事をする場所…」
へぇ…
ご飯を食べる所…と、言うよりも…兵士の詰所みたいに、武骨な石造りだ。
僕は、所々に置かれたライトに照らされた、石造りの壁を見上げて口を開けた…
そして、僕に手を伸ばす幸太郎の手を掴んで、彼と一緒にそんな建物の中へと入った。
幸太郎のもう片方の手には、大きなチェロのケースが持たれていた。
受付で店員さんと話す間も、店員さんに席に案内される間も…席に座って向かい合う間も…幸太郎は僕の手を繋いだままだった。
きっと、僕を、飼い主として…認めたんだ。
彼の指先で撫でられる自分の手を見つめながら…僕は、首を傾げて尋ねた。
「何を食べるのぉ…?」
すると、幸太郎は、瞳を細めて僕を見つめて、こう言った。
「豪は、何が食べたい…?」
そんなの…フランス語が分からない僕は、メニューに書いてある事なんて…分かる訳もないんだ…
僕は、肩をすくめて、目の前の幸太郎に首を傾げて言った。
「…脂っこくない、お肉が食べたぁい…。あと、美味しそうなサラダが食べたぁい…。」
その時…
「北斗ぉっ!」
そんな、思わぬ誰かの大きな声が聞こえて来て…僕は、驚いて辺りを見回した。
「あ~っ!」
そこには、ほっくんと…先生。そして、まもるが居たんだ。
先生は、ほっくんに怒るのが…好きなのかな。
だって、今も、顔を真っ赤にしてるんだもん…全く。可愛いね…
「先生…?大きな声を出しちゃ、駄目だよぉ…」
僕はそう言って、先生の肩に手を置いて、落ち着く様にナデナデしてあげた。
「豪ちゃぁ~~ん!」
ほっくんと、まもる…先生の声に目を丸くした僕は、首を傾げて言った。
「…なぁに?」
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