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#82~#84
#82
「あ…豪ちゃんからだ…ふふ。」
俺より後に家に戻った森山氏は、玄関を入って来ると、あの子からの手紙を手に持って…嬉しそうに瞳を細めて寝室へと向かって行った…
俺は、そんな彼の様子を、いつの間にか仲良くなったフォルテッシモと見送って、ビールを一口飲んだ。そして、目の前の携帯電話の中で、忙しなく働く彼に言ったんだ。
「まもちゃん!あぁ~、豪ちゃんからの手紙だぁ…ぐへへ!だって!」
「ふん…!俺だって、豪ちゃんから…味噌が届いたもんね!」
なんだと…!
「いつ?」
俺はまもちゃんの言葉に身を乗り出して、食い気味に聞き返した。すると、彼は冷蔵庫に行ってタッパーを取り出して、それを画面に向けてこう言ったんだ。
「今日!」
「まじかぁ!俺が帰るまで…使わないで!」
ケラケラ笑いながらそう言うと、まもちゃんは、まん丸の瞳を作って…こう言ったんだ。
「ん…でもぉ…僕はぁ、きゅうりと一緒に食べたいなぁ…?」
ぐふっ!
クオリティを上げて来てる…豪ちゃんの物まねのバリエーションが増えてる…!
そんな彼にため息を吐きながら降参した俺は、ふと、寝室に向かった筈の森山氏が…棒立ちをして立っている姿を見つけて、ギョッと目を丸くした…
「…ど、どうしたの…?」
そう聞くと、彼は…手に持ったあの子からの手紙を俺に差し出して、そのまま…力なく座り込んでしまった。
「まもちゃん、また後で…」
そう言って通話を切った俺は、彼からあの子の手紙を受け取って、内容を目で追いかけて読んだ。
「…はぁ?!」
それは、あの子からの…別れの手紙だった。
しかも、誰かと子供を作れ。とまで書いてある…
「なんだこれ…」
一方的な内容に、俺は眉を顰めて森山氏を見つめた。
「…これで、良い…」
すると、項垂れた森山氏は、涙をポタポタと音を立てて落としながら…クスクス笑って言った。
「これで…あの子が、恐怖から解放されるのなら…良い…」
「なんだそれ…!良い訳無いだろ…!」
俺は眉間にしわを寄せながら、すぐに理久に電話を掛けた。すると、彼の携帯電話に幸太郎が出て、こう言ったんだ。
「理久はぁ…今、手が離せない!あ、あぁ…!豪!イリアちゃん…!それはさすがに不味いよっ!はっはっはっは!どうせなら、ズボンを脱がせてよ!俺が処理するからぁ!あっはっはっは!あ~はっはっはっは!!」
どういう事だ…
幸太郎の下品に馬鹿笑いする声が森山氏にも聞こえたのか…彼の長い髪がピクリと動いて…顔をこちらへ向けた様子が視界の隅に見えた…
「…い、良いから、理久に変われって!」
だから俺は、電話口の幸太郎に怒鳴ってそう言ったんだ。
しかし、奴はケラケラと笑って、こう返してきやがった!
「今、理久に変わると…豪が、イリアちゃんに真っ裸にされるぞ?彼女は、凶暴だなぁ!アグレッシブなセックスをする。嫌いじゃないよ?タイプじゃないけど。豪がしてくれるなら、俺は喜んで首輪を付けてちんちんするけどね~?あ~はっはっは!」
何て事だろう…
目の前で打ちひしがれている森山氏と見つめ合いながら、電話の向こうで豪ちゃんが女の子に襲われて、それを理久が必死に止めている様子を…嬉々として、幸太郎が実況をしてる…
頭の中が、パニックになりそうだ!
すると、森山氏は俺の携帯に手を伸ばして、自分の耳にあてて言ったんだ。
「…森山惺山です。豪に変わって下さい…」
…今、襲われている最中だ。
なんて、言える訳もなく…俺は運を天に任せて、そんな森山氏を見守った。
すると以外にも、幸太郎はすぐにあの子に電話を代わった様で、電話を耳にあてた森山氏の表情が、すぐに、ふっと…柔らかくなった。
「豪ちゃん…手紙、読んだよ…。うん…うん…。泣かなくて良い…。泣かないで…」
そんな会話を聞いて…俺は思わず立ち上がって、森山氏から離れた。
そして、窓の外を見つめながら、止まらない涙越しに…ぼやけて歪む夜景を見つめていた…
「…そう、そうか…。うん?うん…そうだね…。馬鹿じゃない…お前は、馬鹿なんかじゃない…。ただ、俺を守りたかったんだ…。お願いだよ。自分を責めないで…。」
慰める様に、宥める様にそう話しかける彼の声は、初めて聞く程に穏やかで、優しかった…
あの子が森山氏に宛てた手紙の内容は、こうだ…
モヤモヤを消す方法が分かった。それは、誰かと赤ちゃんを作る事だ。
だから、もうお別れしましょう的な…一方的な別れ話だ。
女性の妊娠は運気が変わる…なんて噂話を聞いた事がある。
どうやらそれにあやかって、種を提供した男の運気も変える様だ…
もしかしたら“家族”なんて新しいステージが、運気をリセットさせるのかもしれない…
“人の死期が分かる”
…そして、そんな死期を間近に控えた男に恋をした…豪ちゃんの戦いは、こんな結末を迎えてしまった様だ。
こんなの…ただ、ただ…可哀想だ。
俺は、涙を拭いながら背中を丸める森山氏を見つめて…深いため息を吐いた。
彼の足元にはフォルテッシモ…
奴は、ご主人の傷心を、心配そうに見つめている。
そんなフォルテッシモの頭を指で撫でながら、森山氏は電話の向こうのあの子に、優しくこう言った…
「そうか、分かった…。でも、君の朝ご飯を食べてから…お別れしたいな…」
彼の言葉に、あの子がごねたのか…
森山氏の眉は、困った様にどんどん下がって行った。
「…うん。でも…俺は、会いたいんだよ…」
「別に、死んだって良いんだよ…」
「最後くらい…顔を見たいんだよ…」
何度もそう言って食い下がっては見たものの…あの子の強情さに、森山氏は、はぁ…と、深いため息を吐いて黙ってしまった。
「おい!豪!いい加減にしろっ!今すぐに、荷物を纏めて、バイオリンを持って、飛行機に乗って、羽田まで来い!これは、俺の命令だっ!言う事を聞かなかったら、もう、二度と、一緒に遊んでやらないからなっ!」
俺は咄嗟に、森山氏から携帯を取り上げて、電話口のあの子を怒鳴りつけた。
すると、豪ちゃんは…泣き過ぎたのか、掠れた声を出してこう言ったんだ…
「ほっくぅん…。で…でもぉ…でもぉ…僕はぁ…」
「駄目だ!俺には、強情っぱりは通用しない!俺は本気だぞっ!」
俺は眉間にしわを寄せて、強く言い続けた。
「今、会わなかったら…後悔するぞっ!」
「…うっうう…!はぁはぁ…うう…でもぉ…だめぇ…!」
…くそっ!
あの子は、頑なに森山氏に会いに来る事を拒絶した…
その気持ちを分からなくも無いんだ。
愛する人と別れる為に…彼に会いに来るなんて…嫌なんだ。
でも…
俺は電話口の豪ちゃんに強く言い続けた。
「大好きな人なんだろっ!お前が命を懸けて守りたかった人なんだろっ!こんな手紙で、終わらせていいのかよっ!!」
「うわぁああん…うっ…うわぁあああんん!で、でも…で…でもぉ、だめなのぉ…!」
…駄目だ。
豪ちゃんは、悲しみに暮れて…俺の言葉にも耳を貸さない。
頑固者の…強情っぱりだ…
俺は、携帯電話を耳にあてたまま、眉間にしわを寄せた…
「ひっく…ひっく…ど、ど…ど、どうしてぇ…?」
すると、泣きじゃくる声で、豪ちゃんが俺に、こう尋ねた来たんだ。
「ど…どう、どうしてぇ…ほっくんがぁ、今ぁ…惺山と…一緒に居るのぉ…?ふたりっきりなのぉ…?ひっく…ひっく…ねえ…違うよねぇ…?」
へぇ…
そんなあの子の嫉妬に似た感情をくみ取った俺は、口端を上げて…こう言った。
「あぁ…ふたりっきりだよ…?」
すると、豪ちゃんは…泣きじゃくる声をピタリと止めて、こう言ったんだ。
「…えぇ?!ん、もう…!や、やめてよぉ…!」
何がだよ…!
でも、食い付いて来てる…
まるで取り付く島の無かったあの子の心に…俺の言葉の引っかかるポイントを見つけた!
あの子は、俺が森山氏とふたりっきりでいる事がお気に召さないんだ…
だったら…もっと言ってやろうじゃないか…!
怪訝な表情で俺を見上げる森山氏を見つめたまま、俺はわざとらしく、オーバーにこう言った。
「惺山ってぇ…まもちゃんと違って、肌に張りがあるんだぁ…うっとり!ペロペロ…チュッチュ!」
「はぁ…?!ん…だめぇ!」
ふふふ…!めっちゃ、怒ってる!!
豪ちゃんの反応を確かめながら…俺は、ここぞとばかりに…煽り続けた。それは、俺の妄想も半分含まれる…実にリアルな感情が込められた物だった。
「惺山って…サラッサラの髪の毛してて、撫でると気持ち良いんだぁ~!ぐへへ!あっ!駄目…!惺山ったら…そんな所…まもちゃん以外に触られた事ないのにぃ!はぁはぁ…はぁはぁ…!俺の事を好きみたいだぁ…!!」
「ぐがぁっ!やぁ~めぇ~てぇ~!嘘つかないでぇ!ほっくんの…ほっくんの…ばっかぁん!!うわぁ~~~ん!ばかやろ!ばかやろ!」
豪ちゃんは、電話の向こうで、嫉妬に鼻息を荒くして怒り始めた。
だから、俺はあの子にこう言ったんだ。
「…豪!今すぐ来なかったら、お前の大事な惺山を、俺が、食ってやるっ!」
「ん…だめぇん!」
「だったら、来い!」
「んんっ…!!うっうう…!!うわぁあん…うわぁああん!!」
あぁ。
可哀想だよ…分かってる。
でも、頑固者で、強情っぱりのこの子には、この位言わないと…駄目なんだ。
意地を張って、強情を張って、強がって、怖がって、きっと…後悔するんだ。
だから、俺は、心を鬼にして…豪ちゃんを煽った。
「あぁ…!惺山ってばぁ…本当に俺の事を好きみたいな目をしてるぅ…!」
「…ほっくぅん…ぶっ殺すよぉ…?」
そして、あの子の声色に殺意が色付いた頃…俺はこう言って終いを付けたんだ。
「じゃあね!豪ちゃん、バイバイ!俺は惺山とラブラブのエッチするからぁ~!んふふ!んふふふ!惺山のおちんちん頂きマンモス!」
そして、ブツリと通話を切ったんだ…
そんな俺を、森山氏は瞳を歪めて見上げている。
だから、俺は彼にこう言ったんだ。
「…あの子が来たら、羽田まで迎えに行く。そしたら、俺はホテルへ行こう。」
「あの子は…来ない…」
森山氏は、首を横に振って…項垂れた。
だから、俺は、凛と胸を張って澄ました顔で…こう言い切ったんだ。
「いいや、絶対に…来る!」
--
「うわぁあん!惺山がぁ!ほっくんに食べられちゃうぅぅ!!」
僕は焦った…
イリアちゃんに脱がされた服をそのままにして、ベッドから飛び降りた僕は、リュックの中に服を詰め込んで先生に言ったんだ。
「先生…!僕、東京まで行くのぉ!」
「…え…無理だよぉ…」
先生は戸惑いながら、僕の顔を覗き込んでこう言った。
「…先生は、御用があるから行けない…」
え…
しょんぼりと眉を落とした僕は、先生を見つめてこう言った…
「…じゃ…じゃあ…ひとりで行ってみるぅ…」
すると、彼は荷物を詰め込む僕の手を掴んで、こう言ったんだ。
「でも、もうすぐ、幸太郎とのアンサンブルを控えてるんだよ…?飛行機の空席も分からないし、今すぐ発つのは…正直、難しい。」
僕は、そんな先生の胸に顔を埋めて泣きながら言ったんだ。
「行けるぅ!行けるのぉ!惺山が…ほっくんに食べられるのは…絶対に嫌なのぉ!」
僕は焦った…
だって、ほっくんとはエッチしたって…赤ちゃんは作れないからだ。
そんな人とエッチなんて、させたくないよ…冗談じゃない。
でも、先生は…僕の顔を覗き込んでこう言うんだ…
「…日を改めて、落ち着いてから考え直した方が良い…ね?」
駄目だよ…
そんな吞気にしていたら…彼が、彼が…あの、魔物に食べられてしまう…!!
僕は、首を横に振って先生の手を振り払った。
「…んんっ!ほっくんのばっかぁん!!ほっくんなんて…大っ嫌いぃぃ!!ぶっ殺してやるぅ!ギッタンギッタンにしてぇ…!まもるのお店に放火してやるんだからぁ!」
そして、怒りを原動力に…後先を考えないままリュックに荷物を詰め込んで、服を着替えた。
そんな僕を見て…先生は、呆れた様に首を横に振ってベッドに腰かけてしまった…
「なんだ…豪。日本に行きたいのなら…俺のプライベートジェット機を出してあげようか?お礼にエッチさせてくれるなら、すぐに手配してあげるよ?」
突然の幸太郎の言葉に、僕は何度も頷いてこう言った。
「させる!させるぅ!だから…飛行機に、すぐに、乗せてぇん!」
すると先生は、幸太郎の胸ぐらを掴んで、鼻息を荒くして言ったんだ。
「おい!勝手な事を言うなよ!豪ちゃんとのアンサンブルはどうするんだ!二人とも欠席なんてなったら…散々じゃないかっ!それに…火事場泥棒みたいにどさくさに紛れて、肉体関係を要求するなよっ!軽蔑に値するぞ!」
「その日までに戻って来れば良いんだろ…?俺の飛行機を飛ばせば…それが可能なんだ。だから、乗せてってやるんだ。」
幸太郎は、先生の怒った顔を見つめながらそう言った。
すると、先生は…何も言えなくなったみたいに押し黙って、幸太郎の服から手を離した…
僕は焦ってる…
急いで歯を磨いて…顔を洗って…支度を整えた。
「ちゃんと髪をとかしなさい?何はともあれ…元気になったみたいで、良かったじゃない…。まったく、男って馬鹿ね…」
何だかんだ…イリアちゃんは僕の髪を丁寧にブラシで整えてくれた…
だから、僕は…おずおずと彼女を上目遣いで見つめてこう言ったんだ。
「ピ、ピンクのパンツは…可愛いよぉ…?イチゴが付いてたら…もっと良いねぇ?」
するとイリアちゃんは、ギロリと黒目だけを動かして僕を睨みつけたんだ!
「じゃ…そう言う事で!」
幸太郎が助手席のドアを開いて先生にそう言ったから、僕は、大荷物を抱えたまま先生の胸に抱き付いて…言ったんだ。
「…ほっくんをぶっ殺したら…戻って来るね…?」
「…豪ちゃん…気を付けて。俺は、ここで…待ってるから…。待ってるからね…?」
…先生の声は、微かに震えて聴こえた…
だから、僕は、彼の頬にキスをして…言ったんだ。
「はぁい…!」
幸太郎の車はビュンビュンのスピードを出して、僕を空港まで運んだ。
そして、僕の荷物を手に持った幸太郎は、ひとつの飛行機に乗り込みながら、僕を振り返ってこう言ったんだ。
「13時間もある!ねえ、何回出来るかな?」
僕はそんな彼を、グイグイと飛行機の中に押し込んだ。
僕は…焦ってる!
絶対に…大好きな彼に…無駄打ちなんてさせたくないんだぁ!!
#83
「はぁ…!」
理久から、すぐに連絡を受けた…
「幸太郎の糞野郎が…あの子を連れて行く…!」
ぶっきらぼうにそう言った理久は、怒り心頭の様子で俺にこう言った。
「この前、マルセイユで会わせたのに!どうして、こうも…ポンポンと会えると思うんだ!こっちだって、スケジュールが詰まってるんだ!いい加減にしろっ!!」
おぉ…こわぁ…!
俺は鼻息を荒くして怒る理久の電話をそっと切った…
そして、読み通りに運んだ事態にムフムフと顔をニヤ付かせて体を震わせた…!
あの子は…プライベートジェットを飛ばして、羽田に向かってる…!!
「あ~はっはっはっは!!森山さん!やっぱりだぁ!豪ちゃんが来るぞぉ!」
括弧 俺を殺りに 括弧閉じ…
俺は、ケラケラ笑いながら風呂場へ向かった!
そして、扉を豪快に開いて、胸を張って言ったんだ。
「あの子が、今、こっちへ向かってる!だぁ~から、言ったろ?絶対に来るって!」
俺は、目の前でお尻を出してギョッと顔を歪める森山氏を見つめて、にっこりと笑った。
はぁ…それにしても…良いじゃないか…
風呂上がりの彼は、それはそれはとても美味しそうに、体から湯気を立てていた…
そして、俺の言葉に…キョトンと目を丸くして、長い髪から水を滴り落させてるんだ。
可愛いじゃないか…ぐへへ!
そんな彼をニヤニヤ見つめた俺は、下から上まで舐める様に眺めてこう言ったんだ。
「本当に…食べちゃおっかなぁ~!ぐへへへ!」
すると、彼は余裕の笑みを浮かべて、パンツを穿きながらこう言った。
「…豪ちゃんは、本当に…嫉妬深くて、冗談じゃなく、あなたの身が心配になる…」
言うねえ!
「礼は、良いんだよ。俺はあの子に世話になってるからね…?天使の思し召しを頂いて、今まで以上に物事がうまく運んでるんだ…!」
俺は、しみじみと首を横に振りながらそう言った。
そして…気が付いてしまったんだ。
自分が、そんな天使を、煽って、怒らせて、殺されそうになっているという事実に。
「…誤解は、必ず解いてくれ…」
森山氏にそう言った俺は、顔面を引き攣らせながら、風呂場の扉をそっと閉じて…フォルテッシモが凛と佇むリビングへと向かった。
ヤバいな…
ヤバいなぁ…
--
「豪!早く!早く!」
飛行機の中で飛び跳ねる幸太郎を見つめて、僕は彼の首に首輪を付けて、リードを繋いだ。そして、僕から離れた場所に繋いで近付けない様にしたんだぁ。
リュックの外ポッケに、包丁を入れて来たのに…空港で没収されてしまった。
何で、殺ろうかなぁ…
窓の外を眺めて、僕はそんな事を一心不乱に考えていた。
小さい飛行機は、僕が前に乗った大きな飛行機よりも大きく揺れて怖かった…
だから、僕は幸太郎のリードを少しだけ近くに繋ぎ直したんだ。
「…揺れるねぇ?」
「怖いの?」
幸太郎が首を傾げてそう聞いて来るから、僕は彼の頭を撫でてこう言ったんだ。
「…怖くなぁい。」
そんな時…フワッと体が浮くような感覚に目を丸くした僕は、慌てて幸太郎のリードを手に持ち直して、彼を隣の席にお座りさせて、言ったんだ。
「揺れるねぇ…?」
すると、彼は僕の髪を撫でながら、こう言って笑った。
「落ちたら、心中だね?」
縁起でも無い…!
僕は、これから…ひと狩りしなくちゃ駄目なんだから…!
頬を膨らませた僕は、幸太郎を見上げてこう言った。
「…惺山を、守るんだぁ。」
「何から…?」
え…?
幸太郎は、僕を見つめて…眉を上げた。そんな彼を見つめたまま…僕は唇を噛んで、こう答えた。
「…死…」
「人は…いつか死ぬよ?豪…」
幸太郎は、クスクス笑ってそう言った…
…人は、いつか死ぬ。
でも、その事が分かってしまう僕は…愛する彼を、どうしても失いたくなくて、出来る事を全てやらないと気が済まなくなって…可能性に賭けた。
彼を、自分から、遠ざけたんだ…
でも…運命はそんな事では変わらなかった。
1年経っても…彼は生きていたから、僕は…成功していると思っていたんだ。
僕から離れたら、彼は…生きられると思っていた。
でも…違った。
彼の無駄にした時間…僕が、彼の傍に居られた筈の時間…今更、後悔しても、戻って来ないあらゆる事に…激しく、打ちのめされた。
そして…彼を救う事に…全く役に立たない自分にうんざりした。
「幸太郎…聞いてくれる…?どうして、僕が…彼を愛しているのか…。どうして、僕が…先生の元にいるのか…。どうして…僕が、こんなにも…悲しいのか…」
ポロポロと落ちて来る涙をそのままにして、僕は幸太郎を見つめてそう言った。
すると、彼は、僕の頬を撫でて…静かに頷いた。
「話してみて…?」
僕は、そんな彼にコクリと頷き返して…ゆっくりと話し始めた。
僕の家族の事…。友達の事…。その、両親たちの事…。
そして、普通に出来ない自分の事。惺山の事…。全てを話した…
すると、幸太郎は意外にも何てこと無い顔をして、こう言ったんだ。
「…へえ。だから、あんなに落ち込んでたのかぁ。それにしても、イリアちゃんはヤバかったね?あんなに積極的な子だと思わなかった!」
「…ビックリしないんだねぇ。」
僕は、幸太郎を横目に見て、クスクス笑った。
そんな僕の頬を突いた幸太郎は、ニッコリ笑ってこう言ったんだ。
「俺は、もっと凄い人を知ってる。気功で羊の群れを操れるんだ。豪は何も出来ないだろ…?だから、そんなに…凄くない。」
へぇ…
「気功ってぇ…?」
僕は幸太郎の顔を覗き込んで、そう尋ねた。すると、彼は口端をニッと上にあげて僕を見つめ返して言ったんだ。
「手から出る…パワーだ!」
何それ…!
「キャッキャッキャッキャ!うっそだぁ!」
ケラケラ笑った僕は、幸太郎の手を取って目の前に持って来た。そして、首を傾げて言ったんだ。
「何も出てないよぉ?」
すると、幸太郎は僕の肩を抱いてヒソヒソ声でこう言った。
「俺は出せないけど…その人は、その気を使って…人も倒せるんだ!」
へぇ…!
その“気功”だったら、ほっくんを武器無しでも殺せるかもしれない…
僕は幸太郎を見つめながら涙を拭って…コクコクと頷いて言った。
「すっげぇ…」
#84
コケコッコ~~~!
マジか…もう、朝が来てしまった…
昨日の夜、俺は、怖くて寝られなかった。
だって、森山氏が俺の枕元に…まな板と、分厚いバッハの楽譜を置いて…こう言って来たからだ。
「…もし、豪ちゃんの襲撃を受けたら…一度これで防いで下さい。あの子は、刃物さえ持っていなかったら…無力です。」
そんな彼の言葉で思い出したのは…あの幸太郎を、プッツリと…躊躇しないで傷つけた豪ちゃんの姿だ…
ケラケラ笑って言ってたっけ…エイッて包丁で刺しちゃったぁ!ってさ…
ブルルッ!
恐怖のせいか…俺は身震いしながら、森山氏に言ったんだ。
「玄関の鍵を閉めて置いてよ…。内鍵も、チェーンも!」
「もちろんです!…俺も、危ないんですよ?あの子に、あんな煽り…一番使ったらいけない…。あの子は、嫉妬すると狂気を纏うんだから…!ブツブツ…ブツブツ…」
森山氏は、怯えて表情を引きつらせていた…
しかし、その中に…少しだけの喜びも含まれている事に、俺は気付いていた。
全く…!
俺のお陰で…グチグチと強情を張るあの子を、動かす事が出来たんだよ?!
命を張って…煽った俺を、褒めて欲しいくらいだよっ?!
「…良い。礼は、良いよ…」
俺はそう言いながら、丸い焼け跡の付いたバッハの楽譜を服の中に忍ばせて、枕の下にまな板を入れて両手で持ちながら布団に寝転がった…
こんな状態で、ゆっくりと寝られる訳が無い。
いくら羽毛布団が気持ち良くたって…研ぎ澄まされた神経は、フォルテッシモの足音さえも包丁の音に変えて俺の耳にお届けするんだ!
と、そんなこんなで…俺はあまり充実した睡眠を取れていないんだ。
可哀想だろう…?
「…おはようございます…」
俺と同じ様に…明らかに睡眠不足の森山氏は、ヨロヨロと体を壁にぶつけながら歩いて部屋を出て来た…
寝ぼけたダークサイドのイケメンも…はぁ、素敵じゃないかぁ!
俺はお触りしたいのを我慢しながら、森山氏に言った。
「あの子は、お昼過ぎに…ここに着くかもしれない。でも…その時、俺は合奏の練習に出てる。森山さんもだろ…?」
すると彼は頭をボリボリとかきながら…半開きの瞳を瞬きさせて頷いた。
「ええ…」
“今、出かけています…”
そんな張り紙を玄関に貼った俺と森山氏は、後ろめたい事など何も無いのに…少し距離を置いて歩いた。
--
「はぁはぁ…幸太郎…イッちゃいそう…」
「イッて良いよ…?」
僕は、飛行機の中で…暇を持て余した幸太郎に抜かれていた。
飛行機のシートに座った僕の股間に、彼は、無我夢中に食らいついて来たんだ…。そして、そのまま…お口で気持ち良く扱き始めた。
そんな幸太郎の頭を抱えながら、僕は、快感に体をのけ反らせて…フルフルと震えた。すると、彼はケラケラ笑いながら、僕のシートを倒して、太ももを抱え込んで引っ張り寄せたんだ。そして、そのまま足とお尻を持ち上げて、僕を覗き込んで、こう言って来た…
「豪…ここも、気持ちいだろ…?」
こんな状況を…まんぐり返しなんて呼ぶって…大ちゃんが教えてくれた。僕は、それを幸太郎にされながら、お尻をペロペロと舐められてる。
くすぐったい様な、気持ち良い様な、ゾクゾクする感覚に、鳥肌を立てて…困った様に眉を下げて首を横に振った。
「はぁあ…だめぇん!だめぇん…!」
すると、彼はニヤニヤ笑いながら僕の中に指を入れて、僕の顔を覗き込みながら、グリグリと中を刺激し始めたんだ…
「あっあ…ん、だめぇだぁ!ん、ばっかぁん!」
「なんでだよ。もう、お前は…惺山の豪じゃなくなるんだろ?だったら…良いじゃないか…」
キーーーー!
「ん…だぁめなのぉ!」
僕は怒って、幸太郎の髪を鷲掴みして、引っ張った!すると、彼は顔を歪めながらケラケラ笑って、自分のズボンを下げ始めたんだ。
「豪が良いって言ったんだろ~?武士に二言はないんだぞ~?」
相変わらず…幸太郎の声色は、事の悲惨さとは裏腹に…陽気だった。
まんぐり返しから解放された僕は、必死に逃げ出そうと体を捩った。すると、幸太郎は僕の太ももを掴んで自分に引き寄せながら、クスクス笑って言ったんだ。
「こうすると…気持ち良いんだよ…?」
幸太郎はうっとりと瞳を色付けて、僕のモノと自分のモノを一緒に扱き始めた。
そして、腰をゆるゆると動かしながら…僕を見下ろして言ったんだ。
「どうせ…惺山ともするんだろ…?じゃあ…俺としたって、良いじゃないか…」
「んん…はぁはぁ…あぁあ!ん、やぁん!」
僕は必死に体を捩って嫌がった。だけど、一緒に扱かれ続ける僕のモノは…嫌じゃないみたいに、グングン硬くなって…トロリと液を出し始めたんだ。
すると、幸太郎はそんな僕のモノの先っぽを親指でグリグリと刺激して…粘つく液に口元を緩めて笑った。
「…あぁ、豪…気持ち良いって、言ってるよ…?」
「やぁ…ん…」
僕は顔を背けて、幸太郎の笑い声に抗議するみたいに、自分の服の端をかじって…唸り声をあげた。
「あぁ…豪の我慢汁が俺のにくっ付いて…もっとしてッておねだりしてる…可愛いね…?とっても…可愛い…」
それは、とっても気持ちが良くって…僕は、あっという間に快感に溺れてしまった…
「あぁあ…はぁはぁ…あっ…あっ…だめぇ…イッちゃう!」
そんな僕の言葉に目を輝かせた幸太郎は、腰を強く揺らしながら、自分のモノを僕に擦り付けて言った。
「イッて…?豪の、可愛いイキ顔が見たいんだ…!」
あぁ…!だめだぁ…!気持ち良い…!!
「あっ…あぁ…!気持ちぃ!あっああん…!」
僕は、あっという間に…幸太郎によって、イカされてしまった…
ビクビク体を跳ねさせて僕がイクと、彼は嬉しそうに微笑んで、僕にキスをした。
「めちゃくちゃ…可愛い…」
幸太郎は、良い犬になった筈なのに、飛行機に乗って…興奮しちゃったみたいだ…
すると、幸太郎はおもむろに僕の中に挿入しようと、自分のモノを僕のお尻にあてがったんだ。
だから、僕は、ムッと頬を膨らませて怒った。
「幸太郎…だめっ!」
「なんでだよっ!させてくれるって約束しただろっ!」
僕の言葉に、幸太郎は鼻息を荒くしてそう言った。
えぇ…やだぁ…
眉を下げた僕は…体を起こして、彼のモノを手で握りながら、こう言ったんだ。
「…挿れないでぇ…?ん、代わりに…手で…してあげるからぁ…」
「えぇ…?」
困惑しながらも、幸太郎はまんざらでもない様子だった。
だから、僕は押せ押せで…こう言ったんだ。
「こうしてぇ…手で、気持ち良くしてあげるぅ…。ねぇ…?これで、良いでしょ…?」
すると、幸太郎は、僕に向かって舌を出して言ったんだ。
「じゃ、舐めて…?」
ちぇ~…
僕はムカつきながらも…幸太郎の舌をペロペロと舐めて、彼のモノを手で扱き始めた。
幸太郎が椅子に深く腰かけて僕を膝の上に乗せても、僕は、彼とキスをしながら彼のモノを扱き続けた。
すると、彼は、僕のモノも一緒に僕の手に挟ませて…僕の両手の上から自分の手を挟んで、強く扱き始めたんだ。
「はぁはぁ…はぁはぁ…あっうう…はぁはぁ…!」
再び訪れた堪らなく気持ちの良い快感に、僕はクッタリと幸太郎の肩に口を付けて、うっとりしながら喘ぎ声を漏らした。
「あぁ…豪、可愛い…気持ち良いね…?」
僕の手は、彼の手に覆い被さられて…止める事さえ出来ないまま…ひたすら自分のモノと、彼のモノを扱き続けた。
どちらのかも分からないトロトロの液が僕の手の中に垂れて、グチュグチュといやらしい音を立て始めて、僕は腰を震わせながらこう言った…
「あぁ…!幸太郎…気もちいの…気もちい…!」
すると、彼は僕の耳を食んで…吐息のような声でこう言ったんだ。
「豪…キスしてて…絶対にイクまで外さないで…」
そんな幸太郎の言葉に…僕は、トロけた瞳を向けて、舌を出しながら彼の唇をペロペロと舐めた。
「ん~~…可愛い…!」
満足げな幸太郎は、下半身のモノをグングン硬くさせながら…眉間にしわを寄せて、吐息と一緒に、誘う様な言葉を吐き出した…
「豪…欲しいだろ…?」
「はぁはぁ…ん、はぁはぁ…」
僕は、幸太郎に言われた通り…イクまで彼の舌に舌を絡めて…息を荒くしていた。
そんな僕の顔を見つめたまま…幸太郎は、惚けた瞳を僕に向けて、またこう言った…
「豪…硬いの、欲しいだろ…?」
「んん…気もちい、こうたろ…イキそう…!」
瞳を歪めて僕がそう言うと…幸太郎は顔を真っ赤にして、僕の口を覆い被す様にしてキスをした。それは頭の中が真っ白になってしまう様な…熱くてトロける様な気持ちの良いキスだった…
「ん~~~~っっ!」
そんなキスに、僕は極まって…彼の上で、再びイッてしまった。
彼の大きなモノが、僕と一緒にビクビクと震えてる…そんな感覚を感じながら、僕は幸太郎の胸にクッタリと項垂れて、肩で息をした。
「豪…大好き…。惺山が居なくなっても…俺が居るよ…」
彼はそう言って、僕の髪を撫でて…抱きしめた。
惺山は、居なくならない…ただ、僕と、さよならするだけだ…
幸太郎は、やっぱり…お馬鹿なんだ。
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