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#99~#100

#99 12月20日 コンサート当日… 今日は朝からフォルテッシモが荒れ狂っている。 理由は分かってる。 森山惺山のせいだ… あいつが、フォルテッシモの餌を買い忘れて、切らしてしまったんだ。 だから…彼は昨日の夜から気が狂った様に床を突いてばかりいる。 「キャベツを刻んであげたら良いだろぉ!惺山!」 「忙しい…忙しい…!」 彼は半裸状態で右往左往している…その眺めは、はぁ…悪くない。 しかしながら、フォルテッシモの一定の間隔を持った、床を突くくちばしのリズムは…俺のイライラを募らせた。 「ん、も~!惺山のばっかぁん!」 ばっかぁん砲は既に5発も発射されていると言うのに、森山惺山は相変わらず…右往左往していた。 こちらの理由も明白さ。 今日、コンサートで指揮をするから身だしなみを整えてるんだ。 つまり、彼は…自分の身だしなみと、フォルテッシモの餌の事を同時に考えているんだ。だから、処理落ちして、どちらも滞って、ひたすら…右往左往しているんだ。 こう言うのをマルチタスクなんて言う。 彼は、その能力が欠落している様だ! 俺はソファにゴロンと寝転がりながら、そんな半裸の男を視姦して、フォルテッシモの床を突く音にイライラを募らせていた… そんな状況だ。 ある意味…俺はマルチタスクをこなしていた。 さすが俺だ… 「惺山、聞いてくれよ!今日はまもちゃんも来るんだ!俺の晴れ舞台を見にね!良いだろぉ!」 そんな声を掛けた俺は、ジト目を向けて動きを止めた彼にこう言った。 「なぁんだよ!妬くなよ!まぁったく!しょうもない男だな!あ~はっはっはっは!」 俺はすっかり森山氏と仲良くなった… 彼の事を”惺山“なんてお名前で呼んだりしてる。 それも、これも、あんな彼のダークサイドを覗き見たせいかもしれない。 冷たくて、どことなく人を寄せ付けない、そんな彼に、妙に…人らしい、温度を感じたんだ。 ジト目を向け続ける惺山は、顔を歪めて俺に言った。 「藤森さんが…フォルテッシモの餌を、買って来て下さいよ!」 はんっ! 「馬鹿言っちゃいけないよ!俺はね、おめかしするんだから!コジマが開くのが11:00!俺は、ゲネプロの一時間前には楽屋入りしたいんだ!つまり…そう言う事だ!」 俺は、鼻をほじりながらそう言った。すると、彼は適当なトレーナー姿に着替えて、コートを羽織りながらこう言ったんだ。 「近所のスーパーで、とりあえず…キャベツを買って来ます…!」 「はいはい…初めからそうしてたら良いんだ。全く…全く、ヤレヤレだぜ…」 バタン… 俺の言葉なんて聞かずに、惺山は買い物へと行ってしまった。 残されたのは…腹を空かせて床を突き続けるフォルテッシモと、二度寝に入ろうとする、俺… 「あぁ…フォルテッシモ。だんだん…そのテンポが心地良くなって来たぁ…」 俺はそう言ってソファに寝転がると、だいたい160のテンポで刻まれて行くフォルテッシモの突く音に、口元を緩めて笑いながらこう言った。 「ヴィヴァーチェだ!」 バタン… 早いなぁ…! 「コッコココココ…!」 怒りのフォルテッシモは、惺山がキャベツを取り出す袋の音を聞いて、大急ぎで彼の元へと走って行った… ザク…ザク…ザクザクザクザク…トントントントン… そんな小気味の良い音を耳に聴きながら、俺は目を閉じたまま彼にこう言った。 「さっき…フォルテッシモのテンポがヴィヴァーチェになったんだ…」 「ぐふっ!」 吹き出し笑いをした彼は、コトンとお皿を置いて、昨日振りの食事をフォルテッシモに与えた… そして、ソファで二度寝する俺を他所に…そそくさと身だしなみを整え始めるのであった… 彼はとても無口だ。 それに比べて…まもちゃんはおしゃべりだ。 昨日の夜だって、東京に何を着て行こうか…なんて話を、延々と2時間はしていたからね。 12月21日の公演を終えたら、俺はまもちゃんと一緒に軽井沢へ帰るんだ。それは、しばらく会っていなかった彼に会える待ちに待った日なのに… どうした事か、俺は、森山惺山が…気になって仕方が無いんだ。 別に変な意味ではない。 ただ、豪ちゃんの…無慈悲なお願いを、彼がどうするつもりなのか…気になっている。 誰かと結婚をして…子供を作って。 …僕の事は、これでお終い。 そんな内容の手紙を一方的に送り付けて来たあの子に、俺は彼と会う機会を作って…一晩共に過ごさせた。 そこで答えが出たのか…ふたりは、あっさりと別れた。 でも… その後も惺山から感じる、別れとは程遠いあっけらかんとした雰囲気と… 「豪ちゃん。約束を忘れないで…」 そうあの子に言った…彼の言葉が、気になっているんだ。 嫌い合って別れる訳じゃない…そんな特別な理由を考慮しても、彼の含みを持った言葉は、気に掛かる。 そして、その時のあの子の表情も…気に掛かった。 眉間にしわを寄せてコートを手に持った惺山を見つめていると、彼は車の鍵を手に持って、俺に言った。 「藤森さん、今日は…少し、人を案内しなくちゃいけないので…俺は先に行きますよ。」 …は? 「…なぁっ!なぁんだよぉ!俺は運転手付きだと思ってのんびりしてたのに…!それに、今日でお別れだって言うのに、何か物をくれないのか?!楽しかったとか、そういう感動する言葉は無いのかぁ!好きになっちゃったとか…そういうトキメキは無いのかぁ!」 そんな俺の文句を背中に聞きながら、答える事もしないで、惺山はとっとと家を出て行ってしまった… なぁんて奴だ! 俺は今日の公演を終えたら、まもちゃんと一緒にホテルに泊まる事になってる。だから、惺山の家は…今日でさよならなんだ。 なのに、彼ときたら…そんな情緒も、感情も、何もないんだ! 嫌になるね! 俺のおセンチな心を踏みにじった腹いせに、俺は、彼の秘蔵のご当地ラーメンに手を伸ばした… 食いつくしてやんよ…? 集めるのが趣味な、ラーメンコレクター… 彼は、変なこだわりがあるんだ。 縦に積まれたカップラーメンは、日本列島の様に上から北海道の味噌バターラーメン…仙台の牛タンラーメン、茨木…東京…大阪…和歌山…九州…そして、一番下には沖縄そばがあった。 「順番を乱したら…怒るのかな…?」 そんな事を呟きながら、足元でキャベツを貪り食べるフォルテッシモを見下ろして、お湯を沸かし始めた。 彼とも、今日で…お別れだ。 「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」 「こちらこそ~よろしく~!」 時間通り…俺は、楽屋口から入って、控室で支度をするオーケストラへと挨拶をして回った。 見慣れたいつもの顔触れは、だらしない恰好を止めて、今日だけは、おめかしをしてる。みんな、もれなく…真っ黒な燕尾服やドレスを着込んでるんだ。 俺はね、この正装が嫌いじゃないんだ… だって、ピリッと身が引き締まるからね。 「あれぇ?藤森さん…今日は随分大荷物じゃないの。」 フルート奏者の女性にそんな声を掛けられた俺は、肩に荷物を背負い直しながらこう答えた。 「今日で、森山家の居候はお終いなんですよ。コンサートが終わったら、軽井沢に帰るんでね。」 すると、彼女は眉を下げてこう言った。 「あなたのバイオリンは素晴らしいから、きっと…日本でも活躍の場が増えると思うわ。頑張って下さい。」 嬉しいね… そんな優しい女性の声援に笑顔になった俺は、荷物を背負い直して自分の控室へと向かった。 コンコン… 「惺山、今日もよろしく~!」 指揮者の控室をノックした俺は、顔を覗き込ませて、先に出かけた筈の彼にそう言った。 しかし、次の瞬間…目を丸くして、固まったんだ。 「…は?」 だって、そこには…女性が座っていたからね。 俺の登場に、同じ様に目を丸くした女性は、そそくさと椅子から立ち上がって…オドオドと頭を下げた。 「…どうも。」 「はぁ…ここは、森山惺山の楽屋ですよ…?」 間違って入ってしまったのかもしれない。そう思った俺は、扉を開いて待ってあげた。すると、廊下から戻って来た惺山が俺を見下ろして、こう言ったんだ。 「藤森さん。良かった。紹介します。私の…フィアンセです。」 -- 「豪ちゃん…絶対に奇声をあげないようにね。」 「はぁい…!」 僕は先生の再三の注意を受けながら、飛行機のシートに体を沈めて、胸に感じるペンダントを服の上から弄った。 僕と先生は、これから東京へ向かう。 12月21日の彼のコンサートを…見に行くんだ。 楽しみ…? うん、とっても…楽しみにしてる。 でも、直接会ったりしない。 ただ、指揮台の上の彼を見て…彼の指揮する交響曲を聴くんだ。そして…ほっくんの第三楽章のソロを聴いて… 「ふふぅ!きっと…ほっくんは素敵なソロを弾いてくれる筈!僕…とっても楽しみなんだぁ!」 僕は先生のお腹をナデナデしながらそう言った。すると、彼は僕の前髪を耳にかけながら、首を傾げて聞いて来たんだ。 「…本当に会わなくても良いの…?先生は、少し…話をするつもりだけど、一緒に来ないの…?」 「うん…良いの。」 僕は…もう、惺山と話す事なんて…ないもの。 彼から貰ったヘッドホンを耳に付けた僕は、先生の膝に手を置いて腕に持たれながらそっと瞳を閉じた…。そして、耳に聴こえて来る、彼のポルカを聴き始めたんだ。 直生さんと伊織さんは、オーケストラのお仕事があるから、しばらくフランスに居ると言っていた。だから、僕は…一緒にクリスマスパーティをする約束をしたんだ。 去年は、兄ちゃんが買って来てくれたケンタッキーフライドチキンを食べた。僕は…脂っこすぎて好きじゃなかったけど、兄ちゃんは、ガツガツと…肉食動物みたいに貪り食べてたぁ…。 本当…最悪だったんだぁ… だって、兄ちゃんは、軟骨をボリボリとかみ砕いてまで食べていたんだもん… ケンタッキーに必死過ぎる姿が、妙に気持ち悪かったんだぁ。 そうこうしていると、飛行機はあっという間に東京に着いた… 「先生…?東京に着いたね…?」 スヤスヤと寝息を立てる先生の胸に手を置いた僕は、アイマスクを付けた彼の耳元でそう言った。すると、先生はむにゃむにゃと口を動かしながらアイマスクを外して、僕を見てこう言ったんだ。 「…地面に着いたら…起きる…」 もう… そんな先生の膝を叩いた僕は、窓から夜景に彩られた眼下を見下ろして…胸の中に揺れるペンダントをそっと手で押さえた。 …惺山。 きっと…今頃、初日のコンサートを終えた筈だ。 どうだった…? きっと…素晴らしかったんだろうね。とても…楽しみにして来たんだよ。 早く、あなたに会いたいよ。 #100 信じられない… 森山惺山…彼はとんでもない男かもしれない。 豪ちゃんとお別れして間もないのに、彼は上玉のフィアンセをゲットしていた。 それは白玉団子の様に真っ白の肌と、艶々の長い黒髪を持った…大和撫子なんて呼ばれる様な、落ち着いた雰囲気の美女だった… 細身の体は少し心配になるくらい弱々しかったが、彼を見つめる熱視線は熱かった… あたし、あんたに…夢中やねん。そんな声が漏れ聴こえて来るほどに、彼女は、惺山にゾッコンの様子だった… 侮れない… フィアンセなんて紹介を受けた俺は…ぎこちなく挨拶をして、彼に家の鍵を手渡して…その場を立ち去るしかなかった… 豪ちゃんの事は…? あの子を、もう…忘れたの? そんな思いに支配されない様に、俺は凛と澄ましたまま…一回目の公演を終えた。 「凄かったぁ!北斗のソロは…最高に凄かったぁ!」 ホテルに着くと、まもちゃんは久しぶりの再会に興奮して、俺をベッドに押し倒した。 でも…俺は、そんな事よりも、惺山の行動が気になって仕方が無かった。 ずっと考えないようにして来た思いが、ここぞとばかりに俺の中に駆け巡るんだ。 「まもちゃん…フィアンセって、結婚する前の人の事を呼ぶんだよね…?」 俺の足の間に入って、デレデレするまもちゃんの頬を掴んだ俺は、眉間にしわを寄せながら、続けてこう聞いたんだ。 「フィアンセって…そんなにすぐに作れるもんなの…?」 そんな俺の問いかけに鼻を鳴らしたまもちゃんは、口を歪めながらこう言った。 「ふん…!もともと、そんなに…豪ちゃんを好きじゃなかったんだよ。だから、終わった瞬間。次に行けるんだ…。」 俺のシャツのボタンを外しながら口を尖らせたまもちゃんは、開いた俺の胸元に顔を埋めてハフハフしながらこう言った。 「あぁ…北斗の匂いがするぅ…!」 好きじゃない…? あり得ない…。 あり得ないよ…! 彼にとって…あの子は全てだ。 だとしたら、あのフィアンセは… まさか… まさかな… 俺は、自分の服を脱ぎ始めるまもちゃんをぼんやりと見つめて、こう言った。 「まもちゃん、お風呂に入ろう…?」 「お風呂ぉ?良いよぉ…!一緒に入ろうじゃないかぁ…!本当…北斗は、お風呂プレイが大好きなんだから…ぐふ、ぐふふ…」 嘘だろ…惺山… 良からぬ事を考えてしまって…俺は、怖くて…歯が震えるんだ… 体の奥が、慟哭するみたいに…小刻みに震えて来るんだよ。 …あの子の為だったら、何だって出来る。 そう言った、彼の顔が…頭から離れて行かないんだ… 俺は、服を脱いで…まもちゃんと一緒にお風呂に入った。 そして…彼の温かい大きな体に抱き付いて…知らずに流れて来る涙を隠す様に顔を俯かせた。 「どうしたの…」 すると、俺の様子を心配したまもちゃんが、背中を両手で抱いて優しくそう聞いて来た。だから…俺は、彼の胸におでこをくっ付けて、悲痛な思いを打ち明けたんだ… 「森山惺山は…きっと、彼女と子供を作る気だ…!愛してる訳でも無いのに…!手っ取り早く結婚して…!子供を作って…!豪ちゃんを、安心させてあげる気なんだ…!あの子と別れて間もなく、結婚したくなる様な女に出会う訳がないよ…!あの子の願いを聞いて…あの子を自分の呪縛から解いてあげたくて…!子供を作る目的で彼女と結婚をするんだぁ…!」 そんな俺の叫びに、まもちゃんは俺を抱きしめてこう言った。 「…だとしても、誰も…それを止められないよ…」 あぁ…大人で察する事の出来る護は、既に…事態を把握していたみたいだ。 小さく呟いたまもちゃんは、まるで…惺山の決断に、理解を示している様だ… そんな彼を見上げた俺は、涙を流しながら必死に訴えた。 「彼は…あの子を愛してる…!!あの子も…彼を愛してる…!!なのに…なのに、どうしてだよっ!どうして…?!こんなの…こんなのって無いよ…!!酷過ぎるじゃないかぁ!あんまりじゃないかぁ…!」 吐き出した言葉は…最後には、悲痛な叫び声に変わって、シャワーの音をかき消して行った… どうして… どうして…こんな事に…?! すると、まもちゃんは俺の体を強く抱きしめて、こう言ったんだ。 「北斗…お前は、これ以上…何も知らない方が良い。ただ、豪ちゃんに、優しくしてあげなさい。あの子を、自分の弟の様に…愛してあげなさい…」 どうして…あの子は、どうして…惺山は、こんな目に遭わなくてはいけないのか… それは、普通の恋愛とは一線を画して、人生を賭す様な選択ばかりが要求される、険しくて…過酷な…愛だった。 惺山は、きっと彼女と結婚をして、子供を作る事だろう。 そして…豪ちゃんの望みを叶えてあげるんだ。 死なないで。 そんな…究極の望みだ… 俺はまもちゃんを見上げて、彼の唇を食みながらキスをした。 愛する人が傍に居て…触れられることが、こんなに幸せな事だと感じれるのは…そう出来ない人を知っているから… こんなに愛おしく感じる事が出来るのは、そう出来ない人を知っているから… 「ま…まもちゃぁん…俺をギュってして…!」 俺は…あの子の為なら、何だって出来る… そう言った惺山の声が、俺の頭の中を何度もこだまして…駆け巡るんだ。 それが間違いなのか…正しい事なのか…俺には分からない。 でも…彼が、あの子を愛するが故に、選択した事だというのは、痛い程に分かってるんだ。 だからこそ…俺は、辛くてならない… -- 12月20日 夜に東京に着いた。 僕は、先生と一緒に手を繋ぎながら、タクシーを降りて…ホテルの中へ向かったんだ。 「先生?今日の夜ご飯は、もう遅いから…軽く食べた方が良いねぇ?」 僕がそう言うと、先生は僕を横目に見て、こう言った。 「俺は、ワインとチーズがあれば良いもんね…」 なんだぁ! チェックインをする先生の背中にしがみ付きながら、僕は足で彼を蹴飛ばし続けた。 すると、挙動不審な男性が近付いて来たんだ… 驚いた僕は、慌てて先生とカウンターの間に体を入れて、ギュッと彼に抱き付いた。 「すみません…私○○雑誌の○×と申します…。木原先生、お話を伺えませんか?」 「取材は受けません…。迷惑です。お引き取り下さい…」 淡々とそう答えた先生は、僕を小脇に抱えながらエレベーターへと向かった。 「その子が…例の少年ですか?森山惺山のコンサートを聴きに来られたんですか?」 「木原先生…!お話を伺わせて下さい!」 「ギフテッドは、日本の音楽界も揺るがすとお思いですか…?!」 次々と集まって来る知らない人からの質問を浴びながら…先生はただ、黙ってエレベーターを見つめていた。すると、ホテルの警備員がやって来て、彼らをどこかへ連れて行ったんだ… 「凄いねぇ…?もう…夜の10:00なのに…お仕事熱心なんだねぇ?」 僕は先生の顔を見上げてそう言った。 すると、彼は肩をすくめて眉を上げるだけだった。 ホテルの部屋は大きかった! しかも東京の夜景が見えるんだぁ!僕は、すっかり興奮しちゃった! 「先生?見てぇ!東京タワーだぁ!」 真っ赤に光る三角の塔は、隣に見える月と並んで、とっても綺麗に見えた。 先生は、僕の背中を抱きしめて、そんな景色を一緒に眺めて言ったんだ。 「お花を買おうか…?」 「…良いの。」 そんな事をしなくても、先生が会いに行けば…彼は、僕が来たと分かるでしょう… 僕は先生の腕を撫でながら、彼の胸に頭を預けてユラユラと揺れた。

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