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#110~#111

#110 「そうだ…あのチェリストのふたりにも、融資の相談を持ち掛けてみるか…×2だから、はかどるな…」 俺はブツブツとひとりでそう言いながら、事業計画書を理久宛の封筒に入れて、封をした。すると、ベッドに寝転がったまもちゃんが、口を尖らせてこう言って来たんだ。 「…この前買った、宝くじが当たるかもしれない!」 やれやれ… 彼は、融資という行為に、後ろめたさを感じる次男坊の様だ。 だとしたら、パトロンに貢いでもらって来た俺の生活スタイルは、彼の背徳感をもっと強めるかもしれない。 そんな事を考えつつ、俺はベッドでぐずぐずと文句ばかり言うまもちゃんの隣に座って、彼の癖っ毛を優しく撫でながらこう言ったんだ。 「まもちゃん…これはね、ビジネスなんだ。儲かります。だから、金を貸せ。そう言う事だ…。それを精査する為に、俺は事業計画書を提出するだろ…?見込みが無いと思ったら、融資の話なんて蹴られる。そんなもんだ。」 すると、まもちゃんは俺を捕まえて、ベッドに押し倒してこう言った。 「馬鹿だな…北斗。お前がそんなもの出して来たら…理久先生は、すぐにお金を出すに決まってる。ぽ~んっと、3000万円、現金で、出すに決まってる!儲かる、儲からないに限らず…絶対に、すぐに、お金を出すに…決まってる!」 そうかな… じゃあ… 「EMSで送ろうじゃないか…!」 俺はそう言ってベッドから降りると、まもちゃんの車の鍵を手に持って彼に言った。 「郵便局行ってくる!」 EMS、それは最速で届く…国際郵便の速達のような物… まもちゃんの読み通りなら、俺と彼のグランシャリオ計画は…今年中にめどが立つだろう。 「うしし…!」 豪ちゃんに大理石の一枚板のキッチンをプレゼント出来るなら…俺に、3000万円融資する事だって…チョチョイのチョイ!だろ? 理久~! 俺は、ウキウキ気分で…彼宛の手紙を郵便局で出した。 そして、車の中で、直生に電話を掛けたんだ。 すると、すぐに機械音声の案内が流れて無機質な女性の声で…こう言った。 “おかけになった電話は現在電波の届かない場所にあるか…電源が入っていない為掛かりません。もう一度、お掛け直し下さい…” 「ちっ!電波の届かない所に居るのか…」 直生…豪ちゃんに、可愛いバイオリンケースと、肩当てをプレゼントしたって聞いたぞ… あの木製の手作りバイオリンケースは…ざっと23万円はするだろうな… 肩当てもそうだ…きっと、一番高いのを買ってあげたんだろうな… お~い!ズルいじゃないか…?! 俺にも金を掛けてくれよ…あっはっはっはっは! そんな気持ちでいっぱいになった俺は、直生にこんなメールを送った。 “連絡頂戴…はぁと” 金の無心を、してやんよ…。 そうこうしていると…曇り空からチラチラと白い雪が舞い落ちて来た。 そんな綺麗な光景に…顔を歪めた俺は、急いで車を出した。 「やだやだ…ここの雪は、ペーパードライバーには厳しいんだ!」 まもちゃんは、こっちの方には雪は積もらないなんて言ってたのに、道路はカチカチに凍るし、普通に1センチ以上は雪が積もった。 いい加減な次男坊なんだ! 「うわぁん!雪だぁ!雪だぁ!」 俺がそう言って帰って来ると、まもちゃんはベッドからガバッと体を起こして、目をキラキラさせて言ったんだ。 「北斗、スキーに行こうか…?!」 アウトドア派の男は、いっつもこうだ。 晴れたらキャンプ。雪が降ったらスキー。雨が降った時くらいしか、大人しくしてないんだもんな… でも、そんなまもちゃんが…好き! 「行かない!まもちゃん、家を建てるハウスメーカーを探そう。どんな家が良い?」 彼の誘いをことごとく断った俺は、コートを脱ぎながらそう尋ねた。 すると、まもちゃんは目を丸くしてこう言ったんだ。 「ログハウス…」 「却下!ちゃんと住める家が良いんだよ。死ぬ時も、安心して死ねる家じゃないと…」 俺はキビキビとそう言うと、紅茶を淹れて、まもちゃんの家の小さな机にノートパソコンを出した。そして、彼を背中に乗せながらインターネットで検索をしたんだ。 “注文住宅 店舗併用住宅”… すると、夢のような素敵なお家の写真が、出て来るわ…出て来るわ… 俺は、資金も無い癖に、まるで一国の主になった様な気分になって…まもちゃんに至っては、資金も捻出できない癖に、ログハウス案を簡単に手放して、いっちょ前に注文住宅購入に乗り気になり始めたんだ…。 「わぁ…!」 そんな、語尾に星マークでも付きそうなまもちゃんの声に、俺は彼を振り返ってこう言った。 「直生と伊織は×2だし、理久はお金持ちだ…そして、俺の師だ。きっと…大金を出してくれるに違いない!」 …俺は、その時、本当に、そう思ってたんだ。 「わぁ…!見て?北斗…このお家、素敵じゃないかぁ!」 まもちゃんはニコニコの笑顔になって、現実を忘れた様に喜んでいる… 俺は、この笑顔を守りたいよ。 なのに… 「…え?」 「北斗。どうして、俺が出資しないといけないんだ…」 嘘だろ…? そんな事言うとは、思わなかったよ。 直生はごくごく平気な声を出して…電話口でそう言った。 「…豪ちゃんには、たっかいバイオリンケースを買ってあげたんだろ!」 俺は一気にムキになって、直生に怒鳴り散らした。 すると、彼はモゴモゴと口ごもってこう言ったんだ。 「…だって、あの子は…ほら、遠慮するから…。それに…とっても、良く似合ってたんだ。可愛さが倍増して…より、可愛くなって…。可愛いは正義なんだって、思った。」 知らんがなっ! 心の中で激しく突っ込んだ俺は、直生にこう言った… 「出資してくれたら…豪ちゃんと、ラブラブ2泊3日の旅行プランを考えてやってもいい…。薄着になる様に、海なんて…どうだ。」 「え…?」 一気に声色を変えた直生は、コソコソと小さい声で注文を付けて来たんだ。 「…伊織は…要らない…」 「なぁんだ?何の話だぁ?」 そんな伊織の声が彼の声の後ろで騒ぎ始めたから、俺は手短にこう言ったんだ。 「1500…」 「…分かった。」 嘘だろ… 分かったって…言った… 俺は呆然としたまま、電話を切って…暇な厨房で筋トレなんて始めたまもちゃんに、首をガクガク揺らして報告した。 「…豪ちゃんを餌にしたら、1500万円、借りれたぁ…!」 すると、まもちゃんは顔を歪めて俺を見つめてこう言ったんだ。 「そ、それは…それは、さすがに、まずいだろぉ!」 良いんだ。あの子は天使だ。 俺の為だったら…一晩、直生の相手をしてくれるだろう。 あんな事や、こんな事をしてくれるに違いない! 「直生さぁん、僕のイチモツって…それなりだよぉ?」 って言いながら、目の前でオナニーでもしたら良いんだ。 それに、どことなく惺山に似ている直生は、あの子の傷付いた心を、癒してくれるに違いないんだ。 だから…良いんだ! そうこうしていると、あっという間に12月25日…クリスマスだ。 俺はまもちゃんと、早めの店じまいをして…注文住宅のパンフレットに埋もれながら、夢を膨らませていた… すると、俺宛に小包が届いたんだ。 可愛い包みを見て…すぐに誰からの物か分かった… 「豪ちゃんだ…」 俺が膝に抱えて小包を開くと、まもちゃんは隣に座って中身を覗き込んだ。すると、中から可愛い天使の置物が出て来たんだ。 「ふふ…!自分を送って来た…!」 クスクス笑った俺は、同封されていたカードを開いて見た。 “ほっくん、素敵な弓をありがとう。とっても気に入ってます。 弓毛の張り方が独特だけど…先生に教えて貰いながら大事に使ってます。 そうそう。僕も、ほっくんへ…クリスマスのプレゼントを贈ります。 あの時、見た天使によく似ていたから…この子を、美しいあなたへ。 豪より” 「…天使…?」 首を傾げるまもちゃんの声を聞きながら、俺は天使の置物をまじまじと見つめて、思わず頬を上げて笑った。 確かに… あの時、俺が飛ばした天使に…そっくりだ…! 「…あの子は、イカしてる…!」 幸太郎の言った通りだ… どうして俺の情景が見えたんだよ…なんてそんな疑問は、君の前では…愚問だ。 分かるんだもんな… 見えるんだもんな… 降参する様に首を横に振った俺は、置物の天使の頬を指先で撫でながら、ニッコリと微笑んだ。 豪…恐れ入った! 俺は、真っ白な陶器で出来た置物を大事に両手で包み込むと…窓際の棚に置いて、外に降り積もる雪を見せてあげた。 「そっちはどうだい…?雪は降ってるかい…?」 天使と空を見上げて、そんな言葉を…遠くのあの子へ投げかけた。 -- 「わぁ!知ってるぅ…!これは…ツイスターだよぉ?僕ねぇ…てっちゃんの家でやった事あるも~ん!」 直生さんと伊織さんがやって来て、僕に楽しいおもちゃをくれた! 今日は、クリスマス! 僕は昨日の夜から仕込みを全て済ませて…今晩の為にチキンを焼いたんだ! チコリのオードブルに、カブのスープ。そして…かぼちゃのグラタンに、生ハムとイクラの乗ったカナッペ。 「伊織さん一緒にやろぉ?」 「はぁはぁ…ゴクリ…はぁはぁ…!」 伊織さんの呼吸器系のトラブルは、未だに続いてる…。もしかしたら、持病なのかもしれない。 ぼくは、彼の気管支をセーターの上から撫でて、首を傾げながらこう聞いた。 「…苦しいの…?」 「…はぁ、く、く、く…苦しい…!」 でも…直生さんは先生と難しい顔をしてお話をしてる… だから、僕は…伊織さんがたとえ苦しくっても、ルーレットを回すよ。 「え~~い!」 僕は手元のルーレットを回して、止まった色と部位を見てこう言った。 「伊織さん、赤い所に右足を乗せてよぉ…」 すると、伊織さんは自分のジャケットを脱いで、僕にこう言ったんだ。 「豪ちゃん…動き辛いだろ…?その…その服を脱いだら良い…」 「確かにぃ…」 僕は、先生に買って貰った“となかい”のつなぎを着ていたんだ。だから、伊織さんに後ろを見せてこうお願いした。 「ねえ、チャック…下げてぇ…?」 「はぁはぁ…ゴクリ…良いよぉ…」 ジ…ジジジ…ジ…ジジ…ジジジジ…! そんな変な緩急を付けて、伊織さんは僕の“となかい”のつなぎのチャックを下げてくれた。だから、僕はそれを勢い良く脱いで、パンツと半そで姿になって言ったんだ。 「よぉし!やるぞぉ~!」 「おぉぉし!!こぉいっ!!」 伊織さんは、煽り厨だって知ってるもんね! 彼の回したルーレットに従って、僕は手を置いて…僕の回したルーレットに従って、彼は足を置いた。 そんな事を幾度となく繰り返して行くと…僕のお尻の上に伊織さんが覆い被さるみたいな格好になったんだ。 「ん~~!やぁん!恥ずかしいのぉ!」 「豪ちゃん…!!負けても良いの?!」 そんな伊織さんの叱咤激励に応えた僕は、顔を真っ赤にしながら震える手でルーレットを回した。 「…黄色…左手…来い!」 何故か伊織さんは、僕のお尻の上でそんな念を込めていた… 固唾を飲んでルーレットを見守っていると、伊織さんの念が届いたのか、黄色の左手と書かれた場所にルーレットの針が止まった。 「よっしゃ~~~!」 彼はここ一番の声を張り上げて、自分の左手を黄色へと持って行った。 でも…そのやり口が酷いんだ! 「あぁ…あっあ…だめぇ…!んん…やぁ…ん!」 なんと、僕の足の間に腕を通して、黄色い部分を抑えたんだ! 「あっ…あっ…だめ…だめぇ…ん!触ってるぅ!」 僕は必死に、自分の股間が、彼の腕に付かない様に…つま先立ちをした。 「あぁ…なんてこったぁ…ほらぁ…豪ちゃんのおちんちんが、伊織さんの腕に乗っかってるよ…はぁはぁ…はぁはぁ…!ここからは…Tシャツの中の、ちっぱいも良く見えて、あぁ…なぁんて、なぁんて、エッチなんだぁ…!」 すると、伊織さんはそんな言葉攻めをして、僕の羞恥心を攻撃して来たんだ! しかも!僕のお尻に頬ずりしてる…! ん、も~~!怒ったぞぉ! 僕は、本気になった! 伊織さんが回したルーレットを見つめたまま…お尻に彼のほっぺと荒い息を感じながら、もし…倒れる時は…彼の股間を握って倒れてやろうって、強く思ったんだ。 「はぁい…豪ちゃぁん…青の左手だよぉ…」 何としてでも…お尻を下に向けたい… その一心で…僕は、体を捩って…上半身だけ仰向けになりながら、左手を青に置こうとした… でも、この時…僕は必死になり過ぎて忘れていたんだ… 自分の手の長さの限界を…そして、関節の可動域の限界を… あぁ…見誤ったぁ! 「あっああ…あっ!あ~~~~!」 そして、不言実行した。 バランスを崩して…倒れ込む瞬間、僕は目の前の伊織さんの股間をむんずと掴んで、引っ張りながら一緒に倒れたんだ! 「あーーーーーーっ!」 悲鳴を上げた伊織さんが、僕の上に倒れて来た! ざまあみろっ! 「なぁにしてんだぁ!」 そんな先生の声にケラケラ笑った僕は、僕の股間に顔を埋めてうめき声をあげる伊織さんのお尻をぺんぺんと引っ叩いて、こう言ったんだ。 「ん、やっつけたぁ!」 「早く…!こっちに!」 直生さんはそう言って、僕の両脇を掴んで、ズルズルと、伊織さんの下から引きずり出した。すると、息の根が止まっていなかったのか、伊織さんは僕のパンツを掴んで来たんだぁ…!! 「きゃ~~~~!」 ボロリと丸見えになった僕のおちんちんを、先生が、咄嗟に手で押さえた… そして、ゲラゲラと大笑いする伊織さんの足を蹴飛ばして、僕のパンツを奪還して、大慌てで穿かせてくれた…。 怒った僕は、真っ白に灰になってしまった直生さんの腕をすり抜けて、そのまま伊織さんに突撃して、ゲラゲラ大笑いする彼を引っ叩き続けたんだ。 「ん…もう!ん、も~~!」 「…ぐふふ!ぐふふふ!はぁはぁ…はぁはぁ…!ぐふふふ!」 すぐに先生によって引き剥がされた僕は“となかい”のつなぎを着直して、伊織さんに攻撃し続けた。 「なぁんだ…豪ちゃんは、伊織さんが大好きなんだ…」 ケラケラ笑った伊織さんは僕を抱っこして、ユラユラしながらこう言った。 「おちんちん…可愛かったよ…?嫌だったの…?」 そんなの…決まってるぅ! 僕は伊織さんの髪をかき分けて、彼のつぶらな瞳を見つめたまま、頬を膨らませて…口を尖らせた。 「…んん!」 「なぁんだ…怒らないで。ごめんね…伊織さんを許してよ…ね?」 彼は僕をユラユラ揺らしながら、おねだりするみたいに可愛い顔をしてそう言った…僕は、そんな彼の表情が、可愛くて…ついつい…もじもじして、こう言ったんだ… 「…やぁだぁ…怒ったもぉん…」 すると、伊織さんは僕に頬ずりして聞いて来たんだ。 「じゃあ…どうしたら、許してくれる…?」 そんなの… 伊織さんを見つめた僕は、顔を赤くして…モジモジしながらこう言った。 「…チュッてして?」 「ぐはっ!」 そう言ってソファに倒れ込むように座った伊織さんのマウントを取った僕は、彼の穿いていたスリッパを手に持って、体と頭を叩きまくった! 「死んじまえっ!死んじまえっ!」 「…もう、止めなさい!」 …そして、僕は…先生に怒られた。 ピンポン… 「だぁれ…?」 僕は首を傾げて先生に聞いた。すると、彼も首を傾げて、キョトンと目を丸くした。 「…さあ…?」 ピンポン… 「はぁ~い!」 僕は、となかいの顔が付いたフードを被って、玄関へ急いで向かった。 ガチャリ… 恐る恐る玄関を開くと、そこには、知らない男の人と…幸太郎とイリアちゃんが居たんだ。 どういう事…? 首を傾げて幸太郎と見つめると、彼は僕の頬にキスをしながらこう言ったんだ。 「…お届け物だって…」 クスクス笑った幸太郎は、僕のとなかいの鼻を指で弾いて玄関を上がった。そして、イリアちゃんは僕の格好に、笑顔でこう言ってくれたんだ。 「可愛い…!」 彼女はね、僕に落ちたんだぁ! ふふん! この前…激しく“チャルダーシュ”を弾いたおかげで、イリアちゃんは僕に暴力を振るわなくなった! 特別危ない男の僕に…首ったけになっちゃったんだぁ! 「…サイン。」 そう言われて指示されたところにサインを書くと、配達の男の人は、玄関の中に沢山のお花を運び始めた。 「あわあわあわあわ…」 僕は、その様子を…ただ、呆然と見守り続けるしか出来なかった。 まるで、開店祝いの様に豪華な花立と豪華な花束がてんこ盛りだ! ポインセチア…クリスマスローズ…この植木は、庭に直に植えても良さそうだなぁ… バタン… お花でいっぱいになった玄関を後にした僕は、配達の男の人に渡された伝票を先生に渡して言った。 「…お花が、たくさん届いたよぉ…?」 すると、先生は伝票の送り主を見て…眉を顰めたんだ。そして、直生さんに伝票を手渡して、こう言ったんだ。 「…カルダン氏が、豪ちゃんに…ご執心でね。しつこいんだよ。北斗の援助を打ち切ったり、ギフテッドの事業への投資を打ち切ったり…散々、アピールしてくる。」 「あぁ…彼は色男だからな…」 直生さんは先生に相槌を打って、僕の作った料理を食べながら、ニッコリと笑顔を向けてくれた。 「豪ちゃん…チキンがとっても美味しいよ…」 ふふぅ! 「ほんとぉ?もっと食べて良いよぉ?太っても良いんだよぉ?」 「その他にも…絞られて来た資産家は…大体、この子に別の事も要求するみたいに、どこかに連れ出したがる…。もちろん、私抜きでね。」 僕は、直生さんと伊織さん…幸太郎とイリアちゃんに料理を取り分けながら、先生の傍で…彼の体に触れていた。 「はぁい、イリアちゃんどうぞぉ?幸太郎もどうぞぉ?伊織さんも食べてね?」 「交換条件で何を提示してくるの…?」 伊織さんがそう尋ねると、先生は肩をすくめて答えた。 「貰う物なんて無いさ…すべて断ったからね。奪うんだ。…音楽院の理事長に圧力をかけたり、ギフテッド支援団体、人材育成の事業の他の代表に掛け合って…私の仕事を失くして行く気なんだ。」 「え…」 僕は、思わず手を止めて…先生を見つめた。 すると、彼は僕の手からお皿を受け取ってこう言ったんだ。 「向こうへ行ってなさい。イリアちゃんに、プレゼントをあげて…」 …先生の、お仕事を、失くす…? 僕のバイオリンを聴きたい為だけに…? 先生の言葉に固まって彼を見つめていると…彼は、僕を回れ右させて、背中をポンっと押して、大人の会話から遠ざけた。 そんな彼と直生さんを横目に見つめながら、僕は、料理を立ち食いする幸太郎をソファに座らせて、準備しておいたプレゼントを彼と、イリアちゃんに渡した。 「はぁい…どうぞ?素敵な物だよぉ?」 すると、イリアちゃんは顔を真っ赤にして…モジモジしながら僕に言ったんだ。 「あ…ありがとう…」 「良いよぉ?」 僕はそう言って手を差し出して言った。 「お返しはぁ…?」 すると、彼女は僕の唇にキスをして…へべれけダンスの様な動きをしながら、窓に向かって走って行ってしまったんだ…。 僕は、イリアちゃんから…プライスレスなお返しを貰ったみたいだ…ちぇっ! 幸太郎は、僕のあげたプレゼントを嬉しそうに開いて、目を輝かせて、笑顔になった。 「わぁ…!」 彼には、綺麗な七宝焼きの狼のブローチをあげたんだぁ。 「綺麗でしょ?先生と一緒に行った所で見つけて…幸太郎にあげようと思って買っておいたんだぁ。気に入ったぁ…?」 首を傾げてそう尋ねると、幸太郎は僕をギュッと抱きしめて、こう言ってくれた。 「とっても…気に入ったぁ!」 やったぁ! 「なぁにこれっぇ!」 そんな大声を出したのは…イリアちゃんだ。 床に座った彼女は、僕のあげたプレゼントをコソコソと開いたみたいだ。そして歩いて来たパリスに、真っ赤なパンツを広げて見せてこう言ったんだ。 「なんなのぉ~~~!これはぁ!」 「赤いパンツは…勝負パンツなんだってぇ!」 僕がそう言うと、イリアちゃんは全力で僕にタックルを掛けて、ソファに沈めたんだ。 「ぎゃあ!」 僕は…女の子には手をあげないよっ! 彼女に、ボカスカ殴られるのも…慣れちゃったもんね! 「馬鹿!馬鹿!豪は、馬鹿野郎なのっ!こんな…こんなハイウエストなデカパン…!あたしは穿かないもんっ!!」 「キャッキャッキャッキャ!」 こんな風に楽しんで見えるけど、僕は…ずっと聞き耳を立てて、先生と直生さん、伊織さんの会話を盗聴していた。 「いくつかの仕事は無くなったが…まぁ、大丈夫だ…」 先生がそう言うと、伊織さんはため息をついて僕のチキンを口に入れた。すると、直生さんが先生にこう言ったんだ。 「…圧力に負けて必要な人を役職から外すなんて…自分たちの首を絞める様なもんなのにな…分かってないな。」 「仕方ないさ…。コネの世界だ…」 先生はそう言って、鼻でため息をつきながらワインを一口飲んだ。 僕の知らない所で…何かが先生の事を苦しめているみたいだ… 僕のバイオリンが聴きたいから…? なんだよ、そんなの、理由にもならないよ… 許せない…! #111 「まもちゃん…」 俺は、厨房で朝の仕込みを始めたまもちゃんの後ろに立って…声を掛けた。 「どぉわぁっ!」 音もたてずに真後ろに居た俺にビビったまもちゃんが、聞いた事も無い様な…変な声を出した。 そんな彼を無視して…俺は両手を後ろに回して、顔を伏せたままもじもじと体を揺らした。すると、彼は俺の髪を撫でながらこう聞いて来たんだ。 「…おトイレに行きたいの…?」 「違う…」 「…お腹が痛いの…?」 「…」 下唇を噛んだ俺は、じっとまもちゃんを見上げて…後ろに回した手を恐る恐る前に回して…こう言った。 「…これ…貰ってくれないかなぁ…」 それは…小さな水色のケース。 まもちゃんは首を傾げてそれを受け取った。そして、パカッと開いて…目を丸くしたんだ。 「…これ…」 そう言って目をパチパチさせながら…彼は、固まってしまった。 だから、俺は、もじもじしながら…言ったんだ。 「…俺からの、指輪だよ…。遅くなったけど…貰って?」 それは…彼への結婚指輪。 東京へ行く前日に、彼の指を計っておいたんだ…。 そして、あの…銀座で買った…。お高い、ティファニーの指輪だぁ! 「…気に入るかなぁ…?」 まもちゃんは何も言わずにケースから指輪を取り出すと、俺に手渡してこう言ったんだ。 「…は、は、は、はめて…!」 まもちゃんはフルフル震える左手を差し出して来たから、俺はそんな彼の手を取って、受け取った指輪を恐る恐る、彼の薬指にはめてみた… スッと入ったサイズにホッとした俺は、彼を見上げてこう言った。 「…ピッタリだ。」 すると、まもちゃんは自分の左手の薬指と、俺の顔を何度も交互に見て、どんどん顔を歪めて行ったんだ… そして、何も言わないまま…ボロボロと涙を落として、ただ、俺をギュッと抱きしめてくれた。 熱いくらいに火照った彼の体は…俺を軽々と包み込んで、温めた。 「…あ…あ、ありがとう…!」 まもちゃんは、絞り出す声でそう言って、俺の髪にキスをした。そして、すぐに顔を覗き込んでくると…今度は唇に熱いキスをくれたんだ。 あぁ… まもるって…イケメンだぁ…! 俺はそんな満足感に浸りながら、彼のキスを受けて…大きな背中を抱きしめた。 「ティファニーなんだよ…」 俺は、彼の胸に頬ずりしながらそう言った。すると、まもちゃんは俺の髪に頬ずりしながらこう言ったんだ。 「わぁ…!女性が貰って喜ぶ…お高い所のね…!」 ふふ… 「…そうだよ。護は…上等な女だからね…」 クスクス笑った俺はそう言いながら、彼のお尻をモミモミ揉んで、大きな腰を抱き寄せて言ったんだ。 「満足しただろ…?」 すると、彼は内股になりながらこんな返しをした。 「…北斗…!うん!だぁい好きぃ!」 そして、ぶりっ子した顔で…俺を覆い被す様に抱き付いて来たんだ。 良いんだ… 俺はね、こんな彼が、大好きなんだ…! 彼はギャップ萌えの護なんだ。 見た目は大人…頭脳は子供、エッチする時は…最高にセクシーな護になるんだ。 すると、突然、まもちゃんは、結婚指輪を外そうと自分の手先をもぞもぞと動かし始めた。 だから、俺は慌てて止めたんだ。 「なぁんで外すの!」 すると、彼は眉を下げてこう言った… 「だって…これから洗い物するんだ…!せっかく貰ったのに、汚せない!」 「俺は体を洗う時も、コップを洗う時も、ずっと付けてる…!だから…まもちゃんも、外さないで…!」 俺は、地団駄を踏んで怒ってそう言った。 そんな俺の姿に、まもちゃんは自分の左手でキラキラと新品の輝きを見せるティファニーのお高い指輪を見つめながら、ワナワナと唇を震わせた… 「えぇ…?!」 そうだ。結婚指輪とは…そういう物だ! 傷がついて、ガサガサな見た目になって、ボロボロになって行く物なんだ! 「やっちまえよっ!護!俺が見守ってるからぁ!一気に…やっちまえよっ!」 俺はそう言いながらまもちゃんを洗い場へと連れて行って…水をジャージャー流しながらこう言った。 「良いんだ…!一思いに…やってくれ…!」 そう…俺の目の前で、30万の指輪を、一気に傷つけて行ってくれ… その方が、俺も…スッキリする。 「えぇ…?!」 顔を歪めたまもちゃんは、再び、俺にマスオの物まねをして見せた… いつまでたっても何もしないでマスオを続けるまもちゃんにブチ切れた俺は、スポンジを手に持って、彼の薬指の指輪をゴシゴシゴシゴシと擦ってやったんだ! 「きゃ~~~~~~~!」 悲鳴を上げたまもちゃんが、ビチャビチャの左手を胸に抱えたまま、俺に背を向けて動かなくなった。だから、俺は彼の背中を撫でてこう言ったんだ。 「…早く、やらないからだろ…?」 「北斗ぉ!も、ばっかぁん!」 半泣きのまもちゃんは、奥様が付けるゴム手袋を左手にだけ装着して、黙々とお皿を洗い始めた… まもちゃんが…早くしないからだろがよ…! そんな悪態を心の中で呟きながら、俺は一皮むけた男になった気分で、猫のクッションの付いた椅子に腰かけた。 すると、俺の携帯電話が鳴ったんだ… 「ん…理久からだ…。きっと、融資の話だぁ!」 満面の笑顔で電話を受け取った俺は、電話口の相手に…驚いて目を丸くした。 「もしもしぃ…ほっくんですかぁ…」 それは、妙に声を潜めた…豪ちゃんだった… 怪訝そうに俺の様子を伺うまもちゃんを見つめながら、俺は電話口の豪ちゃんにこう言った。 「天使の置物をありがとう。あの時の天使に…そっくりだったよ。」 すると、あの子は嬉しそうな声を出しそうになるのを必死に堪えた様に息を飲んで、再び…声を潜めてこんな事を言ったんだ。 「ほっくぅん…助けて。先生が…意地悪されてるぅ…。僕のせいで、お仕事を取り上げられちゃう…。どうしたら良いのぉ…。どうしたらぁ…」 は…? 目を丸くした俺は、泣きながら電話口で鼻を啜るあの子に言った。 「…どういう事か、初めから…説明してごらん?」 豪ちゃんは、理久の書斎から…電話を掛けているそうだ。理久がよく眠る様に、ワインをしこたま飲ませて…へべれけになった彼をベッドに置いて…飛び起きても、部屋から出られない様に、扉の入り口を、物で塞いだ…そうだ。でも、もしかしたら突破してくるかもしれない…だから、階段に、まきびしの様にクリスマスツリーに飾るオーナメントを置いて来たそうだ。きっと、踏んだら痛がって階段を転がり落ちるに違いない… 「そんな事じゃなくて…さっきの話を聞きたいんだよ…!」 俺がそう言うと、豪ちゃんはグスグスと鼻を啜ってこう言った… 「今日…直生さんと伊織さんに話しているのを…盗み聞きしたんだぁ…。エリちゃんが、怒って…、他の人たちと一緒に…先生のお仕事を失くそうとしてるって…。エリちゃんは、僕のバイオリンを聴きたいんだってぇ…。それを、先生が…駄目って言ったから、音楽院のお仕事も…ギフテッドのお仕事も…人材育成のお仕事も…無くなるかもしれないって…言ってたぁ…」 カルダン氏… 彼はフランスの資産家で、映画俳優…知名度もあれば、人脈も豊富だ。 俺は、しゃくりあげて泣く豪ちゃんに優しく尋ねた。 「…他には、何かしゃべってなかったか…?」 「ひっく…伊織さんがぁ、えっと…何だっけ…えっとぉ、ポール・マッカートニーと、話が付いてるからぁ…大丈夫だぁって…言ってて。先生が…そっかぁ~って言ってたぁ。でも、僕は…ビートルズは好きじゃないんだぁ…AC/DCが良い…。“ハイウェイ・トゥ・ヘル”が好きぃ…地獄のハイウェイなんて…かっちょイイじゃん…」 また、脱線してる… 俺は、豪ちゃんの話を要約してこう言った。 「じゃあ…直生と伊織は、理久の相談に…乗っているんだね。だったら、何とか…」 「嫌なんだ。」 豪ちゃんは妙に語気を強くしてそう言った。 だから、俺は聞いたんだ… 「…何が…?」 すると、あの子は…強い口調でこう言った。 「…僕の先生を虐めるエリちゃんを…懲らしめてやりたいぃ…!」 ほほ! 俺はね、こんな展開…嫌いじゃないよ? クスクス笑った俺は、電話口の豪ちゃんに聞いた… 「で…どうしてやりたいの…?」 すると、あの子は深呼吸をして言ったんだ。 「まず…僕の先生に、手を出さない様に…ボコボコにしてやりたいんだぁ。先生も、伊織さんも…直生さんも…僕が弱いと思ってる。だから、勝手に手を回すんだ。僕は、そんな彼らにも…思い知って欲しい。僕は、強いんだって…」 天使が…怒っておられる…! 俺の頭の中には、あの子が選曲した…“Highway to Hell”のエレキの音が鳴り響いて聴こえて、豪ちゃんの怒りをアップテンポに彩って行く。 白の良く似合う天使は、黒の良く似合う…怒りの天使に変わって、傲り昂る人間に怒りの鉄槌を下そうとしているではないか…! …怒りのせいか…豪ちゃんは語尾を伸ばした話し方を止めて、淡々と話している。 そんなあの子は…今まで見た中で、一番まともに感じた。 ふふ!おんもしろいじゃないかぁ~~!! そんな俺の興奮なんてつゆ知らず…いつもよりも強い口調の豪ちゃんは、続けてこう言った。 「僕は、分かってるんだよ。先生が、僕を守ろうとすればする程、エリちゃんの思うツボだって。だから、先生の知らぬ間に彼の手の内に入りたいんだ。そして、息の根を止めてやりたい。」 「おいおいおいおい…!」 俺は思わずそう言って椅子から立ち上がって、後ずさりしてたじろいだ。 「駄目!」 「…どうして?人の尊厳を踏みにじって良い人なんて、この世にはいない。人なら人らしく…対等にするべきだよ。」 天使のお言葉は…キツイね。 手を拭いたまもちゃんが、俺の動揺する様子に心配そうに近付いて来て顔を覗き込んで聞いて来た。 「…誰…?」 「豪ちゃん…」 俺は短くそう答えて、電話口のあの子に、確認する様に言った。 「…じゃあ…豪ちゃんは、カルダン氏の元へ行って…殺したいと、そう思ってるの…?」 すると、豪ちゃんはクスクス笑ってこう答えたんだ。 「…本当に殺したりしないよぉ…。だからぁ…どうしたら、殺せるのか、ほっくんなら知ってるかなぁっと思って…お電話したのぉ…」 はぁ… 俺は…今、めたくそヤバいポジションにいる。 理久の天使、豪ちゃんに、良からぬ事なんて…吹き込めない… どうにかなって…理久の怒りを買うのは、ごめんだ。 融資の話を持ち掛けている今は、得策じゃないんだよ…。 「まぁ…考えておくから…豪ちゃんは、これからは…大人の会話を盗み聞きしたりしないんだよ…」 上手く誤魔化して…まとめて…電話を切ろうとした。 すると、あの子は…声を落として…こう言って来たんだ。 「音楽教室の融資の話…先生は、馬鹿にして笑ってたよ。きっと…お金を出さないつもりだ。でも…僕が言えば、きっと出してくれる。ねえ、そう思わない…?ほっくん…」 「へ…?」 俺は目を丸くして…固まった… なぁんて奴だぁ!! 足元を見て来たぁ…!! 豪ちゃんは、森山惺山が言った通り…賢くて、強い…そして、頑固者だった。 俺は、クスクス笑って呆れた様に首を横に振って観念した。 駄目だ。 こいつは、頭に来てて…一矢報いてやりたい気持ちで一杯なんだ。 このやり取りから、俺は察した。 こいつは絶対退かない…って。 いい度胸じゃねえか…! 俺は椅子に座り直すと、目に力を込めてこう言った。 「…では、豪。襲われる覚悟をしろ。…カルダン氏の元へ行って、嫌がるお前を襲う状況を全て録音するんだ。そして、運良く逃げられたら…それをネタにして、カルダン氏を黙らせろ。彼は慈善団体の理事を務めている。だから、メディアに公表すると言って、脅すんだ。こんな事が知れたら…世間が黙っていないと、脅せ。音源はコピーして、誰にも分からない場所に保管しておくんだ。もし、奪われた場合の保険だ…」 「北斗ぉ!」 俺の腕を掴んでまもちゃんがゆっさゆっさと揺するけど、俺は本気だ…だから、こう言って…話を終えた。 「…これが、お前が出来る…手っ取り早い方法だ。」 すると、あの子は…電話口でこう言った。 「…分かった。」 そして、ぶつりと…電話を切ったんだ… はぁ~~~~~~~~?! 俺は電話を耳にあてたまま…放心して、まもちゃんを見つめて言った… 「豪は、剛毅な漢だなぁ!」 「なぁに言ってんだぁ!馬鹿野郎!あの子は…カワイ子ちゃんだぞ!」 そんな訳無い… 俺は首を横に振りながら、ケラケラ笑った。 「すっげぇ天使だ!あの子を怒らせると…地獄に落とされるぞぉ~!」 お前はただ可愛いだけじゃない。…ぶっ飛んだ、ロックな暴君だ。 カッコいいじゃないかぁ! -- 「よしよし…なるほどなるほど…」 僕はそう言って書斎を出ると、先生の携帯電話の通話記録をほっくんの部分だけ…消した。 そして、指紋を綺麗に拭き取って、先生の上着の中にしまい直して、コソコソと自分の部屋に戻った。 「ん、も…怒ったもんねぇ!」 僕はそう言いながら、自分の音楽プレーヤーの録音ボタンを押して、正常に動作するか、確認をした。 「…よし。」 そして、残りのデータ容量と、バッテリーを確認すると、自分の服をハンガーにかけて、仕込む場所を探しながら、考えた。 …録音機械が見つかったら…壊されるかもしれない。 エリちゃんは、僕のバイオリンを聴きたい…それプラス、僕を好きにしたいんだ。 だとしたら、僕は、きっと、真っ裸にされる。 そうなると…この機械を、隠す場所が無くなるじゃないか。 どうすれば良い… 「あぁ…!」 ポンと手を叩いて部屋を出た僕は、再び書斎へ戻って先生のお気に入りのデジカメを探した。 「これこれぇ!ふふぅ!」 そして、中に入っている写真を先生のノートパソコンに移した後、暗い部屋の中で一通り眺めてケラケラ笑ったんだ。 「あぁ~…これぇ、この前…一緒に行った時の写真だぁ!」 僕は結構先生とあちこちへ出かけているんだ。 そんな時、彼はこのデジカメで、僕と一緒に写真や動画を撮ってる。 先生は、これを最新機械だって…自慢していた。 Wi-Fiがあれば…ここで取った物を、そのままクラウド保存出来るって…言ってた。 「ポケットWi-Fiぃ!」 僕は先生のポケットWi-Fiと充電器を手に持って、カメラを首に下げた。そして、ノートパソコンを閉じて…書斎を後にするのであった。 エリちゃんは、僕を馬鹿だと思ってる。 だとしたら…それを逆手に取ってやる… 僕の先生に意地悪した事を…後悔させてやるんだ…! 部屋に戻った僕は、復讐に燃えた…ランボーになった! 先生の書斎からかっぱらった録音するだけの機械をジャケットの胸ポケットに入れて、デジカメの録画ボタンが光らない様に豆電球を潰した。 そして、鏡を見つめながら、一生懸命、慣れないアホ面の練習をしたんだ… パリスはそんな僕の様子をどうでも良いって感じで、ぐっすりと眠ってる。 良いんだ…女、子供には関係ない話だ。 これは…男の話なんだぁ! 「ぜって~ゆるさねぇっ!」 僕の魂は…荒れ狂う兄ちゃんと同じ魂だぁ! こんな事されて、黙ってられっかよぉ! そして、準備を終えた僕はパリスを起こさない様にコソコソとベッドに入って、戦いの前の休息を取ったのであった…

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