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#112~#113

#112 「やばいよ!北斗!やばいってぇ!」 「ここには…俺しか男が居ないみたいだなぁ…!」 俺は動揺するまもちゃんを見つめて、彼の胸を押しながらこう言った。 「まもちゃん…?豪ちゃんは、俺を、脅したんだ。開業資金を理久に調達させてやるから…自分に、資産家を倒す方法を教えろってね…。そんな事を言う奴が、カワイ子ちゃんな訳無いだろ…?たとえ、犯されたって…あいつはケロッとしてるぜ。」 そんな俺の言葉に顔を歪めたまもちゃんは、すぐにこう言った。 「嘘だぁ!」 俺だって信じられないよ… でも、あの子は、ぶっ飛んでる! はぁ!…気に入ったぁ! 俺は口端を上に上げてニヤリと笑うと、まもちゃんにこう言ったんだ。 「豪ちゃんはね、良い子じゃない…。あの子の演奏、そのままの暴君だ。だから、目的を達成する為なら、何だってするんだ。だとしたら、止める事よりも、やれる事を教えるのが…兄貴だろ?」 「ばっかやろうだな!」 吐き捨てる様にそう言ったまもちゃんは、豪ちゃんのくれた天使の置物に両手を合わせて拝み始めた。 「神様!あの子を守ってぇ…!!ばっかぁん砲を打ち上げて、守って!!」 馬鹿だな…まもちゃん。 神様も、きっと…俺と同じ事をするぜ? やられっぱなしで、逃げるなんて…絶対に駄目だよな…。 やり返せ…豪! 二度と手を出して来ない様に…お前が自分でとどめを刺したいなら、差し違える覚悟で…暴れて来いっ! 「豪ちゃんがぁ!雪の進軍をするぅ!!」 悲鳴を上げ続けるまもちゃんを無視した俺は、得意げに胸を張って…客席のテーブルを拭いた。 あの子は、思った以上に強かったよ… 惺山。 あの強さの原動力は…“恐怖”から来るって言っていただろ。 だとしたら、あの子は…自分のせいで理久が苦しめられる事が、怖いって事になる。 それは、もしかしたら…愛なんて物なんじゃないのか…? あの子は…理久を愛して、守ろうとしてる。 そういう事なんじゃないのか…? 良かったな…理久。 豪ちゃんは、お前の事を、愛してくれてるじゃないか… 妙なふたりは、妙な絆を深めて、妙な愛で結ばれていたみたいだ。 あの子は、きっと…愛する理久の為に、カルダン氏に一矢報いるだろう。 自分が傷ついたとしても、ぶちのめす覚悟なんだ。 さすが…この俺が、好きになっただけあると思わないか…? イカした漢なんだ。 「まもちゃんだって分かるだろ…?覚悟を決めた男は、強いんだ…」 俺はまもちゃんを横目に見ながらそう言うと、誰も来ない雪が降り積もった道路越しに、湖を見つめて…瞳を細めてニヤリと笑った。 -- 「コッコッコココココ…」 はっ! 「いけない…!とってもぐっすり眠っちゃったぁ…!」 僕は慌ててベッドから飛び起きると、昨日、準備をした服に着替えて…髪を丁寧にとかした。長くなった髪を後ろでひとつに縛って、歯を磨いた。そして、顔も洗って…もう一度髪を縛り直した。 「俺は行くぜぇ…理久ぅ…!」 “復讐してくるぜ…おれは必ず戻るだろう…!エイドリアン…” そんな置手紙を自分のベッドの上に置いた僕は、デジカメを首から下げて、トトさんのバイオリンを手に持って、部屋を後にしたんだ。 いつもの様に、パリスにご飯をあげた後…玄関でコートとマフラーと、ベレー帽をかぶった。そして、お気に入りのブーツを履いて…家を出たんだ。 トコトコ歩いて進んだ僕は、タクシーを拾って、事前に調べたエリちゃんのお宅の住所を書いた紙を運転手に見せてこう言った。 「シルブプレ…ムッシュー!」 「ウィ…」 フランスのタクシー運転手は気が荒いんだ。でも…良いよ? 僕は、今…同じ様に、荒れ狂った気持ちだもんねぇ! がま口のお財布からお金を出した僕は、お釣りもしっかり貰って…タクシーを降りた。 そして、以前にも来た事のある…エリちゃんの大豪邸の前に立ち塞がる門扉の前で、バイオリンを取り出して…首に挟んだんだ。 「…おれ様が来てやったぞ…くそったれぇ…」 そう呟いた僕は、弓を振り上げて、感情と一緒に激しくバイオリンへと落とした。そして、音を爆発させながら…“ツィゴイネルワイゼン”を弾いたんだ… てめえが聴きたがったおれ様のバイオリンだぁ…! ほらぁ…嬉ションして喜べよぉ…! すると、門扉が開いて…家の中から、ガウン姿のエリちゃんが現れて、僕を見て、目を見開いて…こう言ったんだ。 「オ~ララ~!」 知らねえよ…くそったれがよぉ…! そんな感情を思いきり弓と左手に込めて…僕はトトさんのバイオリンを武器にして、彼に音色の棘をぶつけた。 「豪…おはよう…朝が早いんだね?コーヒーを淹れてあげるよん…。エリちゃんのお家においで…」 彼はそう言って、僕の目の前に立った… どうやら感受性の欠片も無い彼には、音色の攻撃は利かなかったみたいだ。 だから、僕は…首を傾げてアホ面をしてこう言ったんだ。 「…迷子になったんだぁ…そうしたらぁ、エリちゃんのお家に来ちゃったのぉ…」 すると、彼はにっこりと笑って僕を抱きしめてこう言った。 「よく来たよん…エリちゃんが、理久に電話してあげるから…おいでよん。」 「はぁい…!」 僕はそう言って返事をすると、バイオリンをケースの中にしまって…エリちゃんと手を繋いだ。そして、嬉しそうに目じりを下げる彼を見上げて、アホ面をしてこう言ったんだ。 「ん…さむぅ~い!」 彼は、奥さんがいる…でも、こんな風に僕を堂々と家に入れる事を考えると、今は家にいないのか…それとも、別居でもしてるのか… アホ面のまま彼に連れられて、長い廊下を歩いた…その間、目に見える目立つ物を記憶して、帰り道の道しるべにした。 「エリちゃぁん?先生に電話するぅ…?」 僕は彼にそう聞いた。すると、エリちゃんは僕を少しだけ見下ろして、こう答えた。 「豪…大丈夫、エリちゃんは、もう電話したよん…?」 ふぅん… やっぱり、彼は…僕が、頭が悪いと思っている。 「そっかぁ~…」 僕はそう言ってケラケラ笑うと、エリちゃんにデジカメを見せてこう言ったんだ。 「見てぇ?先生がくれたんだぁ!良いでしょ~?」 先生…ごめんなさい。 あなたの自慢のデジカメを…僕はポンコツにしてしまった。 格好良く飛び出すフラッシュを、手で引っこ抜いて、ブラブラと垂れ下げてしまった… まるで壊れたカメラを持っていると思わせたかったんだ。 「わぁ…良かったね…?」 エリちゃんはそう言ってにっこり笑うと、僕の腰を撫でながら自分に引き寄せた。 だから、僕はエリちゃんに抱き付いてこう言ったんだ。 「あったかぁい!ふふぅ!」 こんなの…ちょろい… エリちゃんは僕を寝室へと案内した。 そこには、裸の女性がふたり寝ていて、彼の登場に体を起こして何かを話し始めた。 僕はそんな光景を無視して、座れる椅子に腰かけて、バイオリンのケースを膝に乗せた。そして、足をブラブラさせながら…壊れたカメラの録画ボタンを押して…覗き込んだ。 すると、女の人が裸のまま、僕の顔を覗き込んで…ヒソヒソと話しかけて来たんだ。 だから、僕は彼女のおっぱいを見つめながらこう言った。 「おっぱいだぁ!」 彼女たちは、エリちゃんより良い人たちだった。 だって、彼がこれからしようとする事を非難して…僕を部屋から連れ出そうとしてくれたんだ。 すると、エリちゃんは表情を歪めて、女性にお金を叩きつけて酷い言葉を吐き捨てていた… 僕は女性に手を握られたまま…彼女に引っ張られたり、エリちゃんに引っ張られたり…もみくちゃになった。 しばらくすると、警備員のような怖そうな人たちが来て…裸の女性たちを連れて部屋を出て行った… 優しい女の人たちだった…でも、僕は大丈夫だよぉ…? 僕は…危ない男だからねぇ…! 「豪、ゴメンネ…知らない人が勝手に寝てたみたいなんだよん。」 「へぇ…」 僕はそう言って椅子に座り直すと、ベレー帽を外して、マフラーを取った。そして、コートを脱ぎながら、エリちゃんにこう言ったんだ。 「先生はぁ…?」 「もうすぐ来るよん…」 エリちゃんはそう言うと、僕の隣に座って、フランス語で何かを話しながら、僕の顔を自分へ向かせてうっとりと瞳を細めた。 僕は、そんな彼をぼんやりとした瞳で見つめ返して、こう聞いたんだ。 「…何て言ったのぉ?」 「あぁ…豪が、とっても美しいって…言ったんだよん。」 彼は、僕の唇を指で撫でながら、親指を口の中へと入れて来た…そして、こう言ったんだ。 「舐めて…?」 だから、僕は…彼の親指を咥えて、口の中で舐めた。 すると、エリちゃんは恍惚の表情を浮かべて、口元を緩めて笑った。 「豪…カメラを置こうか…」 彼はそう言って、僕の首からカメラを外すと、目の前のテーブルに、レンズをこちらに向けて置いた。 馬鹿な奴… 僕はそう思いながら、僕のブラウスのボタンを外し始めたエリちゃんに、こう言ったんだ。 「なぁんで…!」 「何が…」 「ん…いやぁだぁ…!」 「豪…お医者さんごっこをするんだよん…?」 嘘つきだ… 僕は必死に取り繕って良い人の顔をするエリちゃんに、怒ってこう言ったんだ。 「ん…止めてぇん…!先生が、こんな風にされたら…大きな声を出しなさいって言ってたぁ!助けてぇ~~~~!」 すると、エリちゃんは豹変した。 僕の口を片手で抑えた彼は、鋭い眼光を僕に向けてこう言ったんだ。 「…豪、エリちゃんは良い人だよん。だから、大人しく言う事を聞きなよん…」 そのまま僕を抱き抱えたエリちゃんは、ベッドに連れて行こうとした。 「やぁだぁ!やめてぇん!先生…!先生!ん~~!いやぁん!」 僕はそんな事を言いながら暴れて…どさくさに紛れて、テーブルに置かれたデジカメのレンズをベッドの方へと向け直した。 「良いから…大人しくするんだよん。大きな声を出したって…エリちゃんがうるさいって思うだけで、誰も助けに来たりしないよん?」 エリちゃんは余裕の笑顔でそう言うと、僕をベッドに下ろして、体の上に覆い被さって来た。そして、僕の上着の胸ポケットから覗いた録音する機械を見つけて、表情を一変させたんだ。 「なんだ…これ…」 彼は僕の頬を引っ叩いて、続けてこう言った。 「豪…!これはなんだ!」 だから、僕はしゃくりあげて泣きながらこう言ったんだ。 「うっうわぁん!こわぁあい!こわぁあい!…んんっ!先生!先生…!」 体を捩ってベッドから逃げ出そうとすると、エリちゃんは僕の背中に膝を乗せて動きを止めた。 そして、僕の持っていた録音する機械が…壊れて使い物にならないと分かった様子で、クスクス笑いながらこう言って来たんだ。 「あぁ…豪。探偵ごっこでもしてたのかなぁ…?それで、迷子になっちゃったのかなぁ…?」 「んん~~!いやぁだぁん!止めてぇん!エリちゃん…やぁだぁ!」 僕のズボンとパンツをずり下げたエリちゃんは、僕のお尻にキスをしてこう言った。 「可愛い豪に…ファックしてあげるよん…」 奥さんが居るのに…女の人2人も部屋に連れ込んで…挙句の果てに、彼は僕をも犯そうとしている… エリちゃんは…お金を持った…犬だ。 「豪…こんなに可愛いんだ…誰とエッチしたか…エリちゃんに教えてごらん…?そしたら、とっても気持ち良くさせてあげるから…」 エリちゃんは僕の腰を掴んでお尻を舐めながらそう言った。だから、僕は必死に逃げようとベッドの布団を両手で掻いて嫌がって言ったんだ。 「やぁだぁ…止めてぇ…んん…こわぁい…うっうっうわぁああん!!」 「あぁ…!豪!泣かないで…」 エリちゃんはそう言うと、僕の体を仰向けに寝頃がして、ズボンとパンツをはぎ取った。そして、僕の足の間に体を入れて、ブラウスを強引に引きちぎって、ニヤニヤ笑って言ったんだ。 「堪んない…めちゃめちゃ…エッチな体してるよん…」 僕は覆い被さって来るエリちゃんの大きな体を両手で突っぱねて、嫌がって悲鳴を上げた。だけど、彼は、僕の両手を片手でむんずと掴み上げて、軽々と、頭の上に押さえつけて来た。 「やぁだぁ…怖いのぉ…!エリちゃ…こわぁい!」 「豪が騒ぐからいけないんだろ…?大人しくしたら、良いんだよん。」 エリちゃんはそう言ってケラケラ笑うと、僕のちっぱいをネロネロと舐め始めた。 「あぁ!やだぁ…!やめてぇ!」 僕は大きな声でそう言って両足をバタつかせて暴れた。 すると、エリちゃんはイラついたのか…僕の頬を何度も引っ叩いて来たんだ。 大きな手でぶたれた僕は、頬をヒリヒリさせながら…泣きじゃくってフルフルと怖がって体を震わせて見せた… 「豪…これから、もっと沢山の人を相手するんだから…騒ぐんじゃないよん。可愛がられたいだろ?優しくされたいだろ?だったら…大人しく、綺麗な顔で、気持ち良いって言えば良いんだよん。」 その後は簡単だった… エリちゃんが僕の体を舐めるのを…震えながら堪えて…たまに悲鳴をあげれば良いだけなんだから…。 僕のモノを口に入れたエリちゃんは、恍惚の表情を浮かべながら熱心に舐めて吸って咥えてる… 気持ち悪いよ… 僕はそっとエリちゃんの頭を撫でると、こう聞いてみた。 「…エリちゃん…ねえ、聞いて…僕に酷い事をしたね…。引っ叩いたね…。そして、無理やりこんな事をしてる…。それって、犯罪だって知ってる…?」 すると、彼は僕のモノを口から出して…驚いた顔で僕を覗き込んで来た。そして、クスクス笑って瞳を細めて言ったんだ。 「…なぁんだ、豪は…普通に話せるの…?」 「普通の意味が分からないよ。」 僕はそう言って体を起こすと、エリちゃんを見つめたまま、彼の頬を引っ叩いてやった。 すると、エリちゃんは間髪入れずに僕の頬を引っ叩いて、僕をベッドに押し付けて言ったんだ。 「痛いなぁ…豪。駄目だろぉ?ご主人様にそんな事をしたら…駄目だろ?」 「犬の癖に…偉そうに言ってんじゃねえよぉ…!」 僕は、ベッドに押し付けられながらそう言った。 すると、彼は僕の顔を覗き込んで、不思議そうに首を傾げて言ったんだ。 「…犬?」 だから、僕は彼の顔面に頭突きして、手に持った枕で彼の横っ面をフルスイングしてぶん殴った。 そして、横に振れた彼の頭を足で踏んづけると、力を込めてベッドに押し付けながらこう言ったんだ。 「誰彼構わず腰を振るような奴を…犬って言うんだよぉ…?幸太郎みたいに…僕が躾し直してあげようかぁ…?そうだな…慈善団体なんてやってる癖に、頭の弱い子供に乱暴しているって…みんなに教えてあげても良いよね…?エリちゃんは、どう思う?」 すると、彼はケラケラ笑ってこう言ったんだ。 「ははっ!豪、俺をはめたつもりなの…?お前を帰さなかったら、そんなの…誰も分からないじゃないか。あぁ…豪は、意外と悪い子だ…。エリちゃんはね、そういう子…嫌いじゃないよん。泣きながら…もう、止めてって…言わせるのが、大好きなんだよん。」 そんな彼の顔を覗き込んだ僕は、壊れたデジカメを指さしながらニッコリ笑って…教えてあげた。 「ふふぅ!エリちゃんの、お馬鹿さん…。もう…動画はクラウドに保存されてんだよん。僕を帰さなくても…動画のデータは初めからここにないんだぁ。ネットワーク上に保存されてるんだぁ。キャッキャッキャッキャ!僕にもしもの事があったら、誰かがその動画を公表する…。そんな段取りだとしたら、あなたは、既につんでるぅ…。そう思わない?」 僕の言葉に顔面蒼白になったエリちゃんは、戦意喪失したみたいに暴れなくなった。 だから、僕は彼の頭から足を退かして、自分の脱がされた服を着たんだ。 あぁ~あ…先生のお気に入りのブラウスは、ボタンが弾け飛んじゃってる… 「…ハッタリだろ?」 体を起こしてそう言ったエリちゃんを横目に見た僕は、躊躇する事なく、彼の頬を引っ叩いてこう言った。 「だったら…続けてやれば良いだろがぁ…この糞犬がぁ…!」 本当そうだよ… こんな事して、優越感に浸って…どんだけ心の貧しい人なんだろう。 大人しくなったエリちゃんは、動きを止めて…目だけを泳がせてこう言った… 「…何でこんな事、したんだ…豪。」 そんな彼の問いかけに首を傾げた僕は、こう答えたんだ。 「エリちゃん。あなたは偉くもなんともない。資本主義の社会で、お金を持ってるだけの犬だ。誰かに恵んでやる事が生きがいの…下らない犬だ。何でこんな事した…?その問いを、僕はあなたにお返しするよ…。ねえ…何でこんな事してんの…?何が楽しいのぉ?」 すると、眉間にしわを寄せた彼は、僕の体を抱きしめて、再びベッドに沈めてこう言ったんだ。 「はは…悪い子だ…!お仕置きしないとダメだな!」 「それは、エリちゃん…あんただよ。」 僕は真顔でそう言って、彼の頬を思いきり引っ叩いた。 そんな僕の様子に怖じ気づいたのか…エリちゃんは僕の体の上に項垂れて…小さな声で、こう言って来た… 「だって、可愛かったんだ…美しくて、自分の物にしたかった…」 これを、人は…何ていう欲と呼ぶの…? 人を無理やり独占する事なんて出来ない…それは、お金があっても、無くてもだ。 何も答えない僕を見つめたエリちゃんは、眉を下げてしおらしく聞いて来た… 「…ごめんなさい…どうすれば、許してくれる…?」 だから僕は彼のお腹を足で蹴飛ばして、体を起こして言ったんだ。 「…木原理久への嫌がらせを一切やめろ。二度と僕に近付くな…。そんな片鱗が少しでも見えたら、僕はエリちゃんの本当の姿を、世間にお披露目するからね…?」 「ふふっ…豪。理久の差し金なの…?彼が君に…こんな事をしろと言ったの…?」 そんな言葉を発したエリちゃんを、僕は容赦なく引っ叩いた。そして、蔑む目で見下ろして、顔を歪めて吐き捨てる様に言ったんだ。 「…それ以上話すな。見苦しいんだよ。」 僕は、上着を着て、マフラーを付けて、コートを羽織った。そしてベレー帽をかぶって、トトさんのバイオリンと、デジカメを首から下げると、こう言ってエリちゃんの寝室から出た。 「じゃあねぇ~!エリちゃぁん…ばいばぁ~い!」 #113 「豪ちゃんが…復讐に行ったぁ!しかし、どこにぃ?!」 理久が…電話口で、叫び声を上げ続けている。 …あの子は、本当にやった… 俺は豪ちゃんの無事を祈りながら、ドキドキと胸が跳ねるのを抑えて…電話口の理久にこう言ったんだ。 「…き、き、きっと…友達の…所へ行ったんだぁ…。置手紙の中で、ランボーと、ロッキーが混じってるじゃないか…!だから、きっと…ふざけて、そんな書置きを書いて…」 「はぁ…?!」 声を裏返した理久は、動揺を隠しきれない様子で声を落としてこう言った。 「…あの子は、いっつもそうだ…何も言わずに…沸々と頭の中で何かを考えている…!どこへ行ったのか、見当もつかない…!心配で、心配で、仕方がない…!」 そんな理久の言葉に…俺は、思わず…こう言った。 「…それは、豪ちゃんも同じだよ。理久…。あの子だって…理久を心配してる…」 すると、理久は声を荒げて、俺に食いついて来たんだ! 「北斗!何か知ってるのかぁっ!!」 やばい… 「…プツ…プツ…しもし?…プツ…プツー…あれぇ、電波がぁ…プツ…プツ…」 「…何か、知ってるんだな…!」 電波の悪さをアピールして逃げ切ろうとした俺にそう言った理久は、懇願する様に…声を震わせて縋りついて来た。 「頼む…!何か知ってるなら…何か知ってるなら、教えてくれ…!!あの子が…心配なんだ…!北斗…頼む…」 あぁ…理久… 厨房の中で、俺を心配そうに見つめるまもちゃんを見つめたまま…俺は、何も言えなくなってしまった… 「…ポール・ド・マルタン氏に、豪ちゃんを会わせる予定だったんだ…。金持ちのトップ、そんな彼にあの子を会わせて…他の有象無象から守って貰おうと思っていた。そんな矢先に…あの子は、どこかへ復讐へ向かってしまった…」 ポール・ド・マルタン… 俺は電話を耳に付けたまま、呆然と口を開いて…固まった。 それは、イギリスの王室、ロイヤルファミリーなんて人たちと、対等に渡り合う様な…フランスの大金持ち。 所謂、元貴族の…領主だ… 確かに、彼が…豪ちゃんを気に入れば、大抵の虫は黙る。 「うわぁ…」 口を歪めて…やばい、という顔をした俺に、まもちゃんが食い付いて来た。 「何…何?何があった…?」 俺は、理久に相談するべきだったのかな… あの子に、危ない橋を渡らせてしまった様だ…! 「いったい…誰の元へ行ったんだぁ…!トトさんのバイオリンを持って、森山君に貰ったペンダントは置いて行った…。そして、何故か…俺のデジカメの中身をご丁寧にノートパソコンに移して…壊れたレコーダーと、自分の音楽プレイヤーも持って行った…シクシク…シクシク…豪ちゃん…豪ちゃん…!」 やべぇ… あの子は、思った以上に用意周到に計画に臨んだみたいだ… 「たっだいまぁ~!」 すると、理久の電話の向こうで…そんな気の抜けた声が聴こえた。 「豪ちゃぁん!ん、も!どこに行ってたんだぁ!あぁ!服が、ボロボロじゃないかぁ!!」 そんな理久の悲鳴が聞こえたと同時に…電話は切れた。 服が…ボロボロ…? 目を見開いた俺は、そんなパワーワードと、あの子の気の抜けた声に、肩を震わせてまもちゃんを見つめた。すると、彼は心配そうに俺を見つめ返して、こう言った。 「…どうなった…?」 だから、俺は、肩を震わせてゲラゲラと大笑いながらこう答えたんだ。 「まもちゃん!豪ちゃんは、やり遂げた様だ…!見事、完遂したぞっ!あっはっはっは!」 「はぁ~~~!笑い事じゃないぞ?北斗!俺は…俺は、反対したんだからなっ!」 顔を真っ赤にして怒るまもちゃんを見つめながら、俺は肩をすくめてこう言った。 「だって…仕方がない。天使が鉄槌を下したいって言って来たんだ。俺には、ああする以外…考えなんて思いつかなかった。無事に帰って来た様だし…良いじゃないか。」 あの子は、玉砕覚悟でひとりで乗り込んだんだ。 その、男気を…評価してやろうじゃないか! もし、作戦に失敗したとしても、ポール・ド・マルタンなんて、トップオブザトップの金持ちが付いているんだ。 向かう所、敵無しになる事、間違いなしだ… -- 先生は…とっても怒っていた。 僕のボロボロになったブラウスを見て、口を開いたまま固まってしまったんだ。 先生は、僕の体のあちこちを調べて怪我がない事を確認すると、赤くなった僕の頬を見つめて、眉を顰めたんだ… 「豪ちゃん!」 「はぁい…!」 「復讐って…どこに行ってたの!あっ!あぁ!俺のデジカメがぁ!」 先生は、僕を抱きしめながら、首からぶら下がったポンコツのデジカメを手に取って…悲しそうに眉を下げてこう言った… 「ボロボロな姿で…まるで、遭難でもしていたみたいじゃないか…」 「そうなんです…」 「つまんないよっ!」 怒った先生は、僕がブーツを脱ぐとすぐに抱っこして、リビングのソファに座らせた。 そして、再び、体のあちこちを調べながらこう言って来たんだ。 「誰に会って来たの…!」 「…」 僕は、そんな先生の質問に…視線を落として無言を貫いた。 すると、彼は僕の手を握って、顔を覗き込んでこう言った。 「危ない目に遭って来たの…?」 「…」 あんな事、したって知ったら…先生は、どう思うかな…? でも、きっと…話さないと、許してくれそうもない… 先生は、いつまでも聞いて来るタイプの男なんだ。 僕は、意を決して立ち上がると…格好良くポーズを決めて先生にこう言ったんだ。 「エリちゃんの所に乗り込んで、やっつけて来たんだぁ!」 「はぁ~~~~?!」 細い目を大きく見開いた先生は、僕を足の間に入れて抱き抱えて、シクシク泣きながらこう言った。 「あぁ…!もう…!なぁんて、危ない事をしたんだぁ…っ!!」 「ん、だってぇ…僕はぁ、あったまに来ちゃったんだぁ!先生を虐めてぇ…!あったまに来ちゃったんだぁ…!」 強く抱きしめられた腕の中で先生を振り返った僕は、彼の頬に頬ずりしてこう言った。 「僕を守ったら、駄目だぁ…!僕は強いんだ!だから、自分で始末を付けて来たんだぁ!僕は…暴れん坊の兄ちゃんの弟だもん!自分で、自分を守れるもん!」 エリちゃんに引っ叩かれた頬は、未だにヒリヒリと痛いけど…こんなの、すぐに治る。 でも…先生のお仕事や、大切な活動は、一度失われたら…元には戻らないんだ。 だとしたら、こんな痛みの一つや二つ、僕は、何てこと無いって思える。 「…危ないじゃないかぁ…!駄目だぁ…もう、もう…二度とするなぁ!」 先生は僕を強く抱きしめた。だから、僕は先生の頭を抱き抱えてこう言ったんだ。 「先生だってぇ…!危ないじゃないかぁ!僕を守っちゃ駄目だぁ…!あなたが今まで頑張って来た物を、僕は…僕のせいで、台無しにしたくないんだぁ!ばっかぁん!」 「コッココココ…」 僕と先生が抱き合っている中…パリスだけがいつも通り、部屋の中を自由に歩き回って、昨日…散々遊んだツイッターの上で寝始めた。 「で…何をして来たの…」 そんな先生の問いかけに、僕は彼の肩に顔を埋めて大きな背中を両手で抱きしめて言った。 「知らない方が良いよぉ…」 「言いなさい。」 怒った先生は、僕の首からデジカメを外してテーブルに置いた。そして、僕を両手で再び抱きしめてこう聞いて来たんだ。 「何をして来たの…」 えっとぉ… 「…肉を切らせてぇ骨を断ったぁ…!」 僕は、先生を見上げてそう言った。 すると、彼は…テーブルに置いたデジカメと…繋がったままのポケットWi-Fiを見つめて、何かを考え始めた。 そして、僕を足の間から退かすと、彼は、迷う事無く書斎へと向かったんだ。 やばぁい! 僕は先生を追いかけて、彼の腰に掴まって言った。 「だぁめぇ!」 きっと、自分のパソコンへ向かってるんだ…! 僕の録った動画を、クラウドの中から…探す気なんだ! あの動画の中には…エリちゃんを脅す、剛田の僕が映ってる! そんなの、見せられないよぉ…! しかし、先生は凄い力を発揮して、僕ごと引きずりながら書斎へ向かった。 そして、問答無用に机の上のノートパソコンを開いて、起動させた。 だから、僕は、ノートパソコンをそっと…閉じて、こう言ったんだ。 「見ないでぇ…?」 「…」 そんな僕の言葉に、先生は何も言わないで、再びノートパソコンを開いて、自分のクラウドにアクセスした。 「…はぁ~~~!なぁんてこったぁ!!」 保存されている動画を見た先生は、裸の女の人を見て、そう言った。 まだだよぉ… これから、もっと…凄くなるんだからぁ… 僕はドキドキしながら先生の膝に座って…彼の腕にしがみ付いた。そして、観念した様に…黙ったまま、書斎の窓から見える雪を見つめたんだ。 「はぁ…」 耳に聞こえて来る動画の音と、バシンッと自分が引っ叩かれる音…その度に、息を大きく吸う…先生の息遣いを感じながら、僕は…彼のうなじに顔を埋めて、じっと…事の成り行きを見守った… 「えっとぉ…ここを、右に行ってぇ…あれぇ…左だったっけぇ…?ん、もう…家がデカすぎるんだよぉ。馬鹿じゃぁん…」 そんな…エリちゃんの家の中で迷子になった僕の声を最後に…動画は終わった… 「…なんて事をしたんだ…」 僕の背中を抱いたまま、先生はそう言った…。そして、体に抱き付いて離れない僕の顔を探す様に体を捩って、僕の肩を掴んで自分の前に引き寄せた。 ジッと、両頬を見つめて項垂れた先生は、僕の胸に頭を付けてこう言った… 「…豪が強いのは…分かった。でも、もう…二度としないで…。こんな目に遭わせたのかと思うと…胸が張り裂けそうだ…」 違う! 僕は、先生の頬を両手で包むと、自分を向かせてこう言ったんだ。 「ん!ちがぁう!僕はぁ、自分で身を守れるんだぁ!先生…!やなの…、やなのぉ!僕のせいで…先生の大切な物が無くなってしまったら、僕はどうしたら良いの…?そんなの…僕だって…胸が張り裂けてしまうよぉっ!」 すると、彼は…僕を大事そうに両手で抱えて、涙を静かに落としたんだ。 「…仕事なんてすぐに見つかる。でも、豪ちゃんは傷付いたら、元には戻らないんだ…。どちらが大切かと聞かれたら、俺は迷わずに、君を選ぶよ。」 もう…! 先生の言葉に眉をあげた僕を見ると、先生は、ため息をひとつ吐いてこう言った。 「それに…俺には、最終兵器があるんだ…。だから、こんな危ない事なんてしなくても…カルダン氏は、もう。俺や君に手を出せなくなった筈だよ…」 えぇ…? 「本当ぉ?」 首を傾げてそう尋ねると、先生は…僕の頬をそっと触ってこう言った。 「…本当。」 なぁんだ… 「でもぉ、僕はぁ…結構、スッキリしたよぉ?」 僕がクスクス笑ってそう言うと、先生は、呆れた様に眉をあげて首を横に振った。

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