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#129

#129 「良いんだぁ!姫子は…!まもちゃんと寝るだろぉ?」 「…ん、やぁ!汚い!」 子供って、マジで…辛らつだな… 俺はベッドサイドの電気を付けて、薫ちゃんと添い寝をするまもちゃんを見つめて…すぐに視線を逸らした。 だって“汚い”なんて言われたまもちゃんは…ガチで落ち込んでるんだ。 ウケるだろ… 眉を微妙に下げて…目をガン開きにして固まっちゃってるんだ。 俺は肩を揺らしながら、必死で笑いをこらえた。そして、薫ちゃんと向かい合う様にゴロンと寝転がって、あの子の柔らかいほっぺをツンツンして言ったんだ。 「薫ちゃん…お休み…」 すると、あの子は俺に抱き付いてスンスンと鼻を鳴らして、こんな事を聞いて来たんだ。 「パパはぁ…ゴーちゃんが大好きみたい。薫よりも好きかなぁ…?」 なんて…センシティブなんだ…!! そんな幼子の問いに答えを考えあぐねていると、薫ちゃん越しに、まもちゃんが俺をジッと見つめて来た… そして、あの子に…こう言ったんだ。 「…姫子が、一番に決まってんだろ…!」 すると、薫ちゃんはまもちゃんを振り返って…首を傾げた。 「本当かなぁ~?だって、パパ…ゴーちゃんに夢中だったよぉ?キモかったもぉん!てっちゃんにプンプンしたりして、キモかったもぉん!」 子供は意外にもよく見ているんだな… これは、惺山に注意をしないと、要らない波が立ちそうだ。 ヤレヤレと首を横に振った俺は、薫ちゃんの頭を撫でながら言った。 「そんな事ない…。お休み…薫ちゃん…」 「ねえ?ほっくぅん?ゴーちゃんはパパが好きなのかなぁ?」 おしゃべりの止まらない薫ちゃんは、そう言って俺の回答を促す様に、口をナデナデして来た…。だから、俺は瞼を落としながらこう答えたんだ。 「…好きだよ。でも…君の事も大好きだ。君のママの事も。豪ちゃんはね、薫ちゃんと同じ…。お母さんが自分の命と引き換えに産んだ命なんだ。だから、君の寂しさも…亡くなってしまったお母さんの愛情も、きっと…よく分かってる。」 すると、薫ちゃんは目を丸くして…驚いた様に声を上げた。 「そうなんだぁ…!」 そうだよ… だから、君からパパを取る様な事は、絶対にしない… 「お休み…薫ちゃん…」 俺は疲れたんだ。 ご馳走の買い出しに出かけて、暴れん坊の豪ちゃんを説得して、惺山の元まで連れて行って…お食事会の料理を運んだ… 片付けは、ほぼ…まもちゃんと豪ちゃんの仕事だった。 でも、あの子は…とっても嬉しそうだったから、きっと、片付けが好きなタイプなんだ。 「僕はねえ、流しは舐めても良いくらいに、いっつも綺麗にしてから寝てるんだぁ…」 何故か、鼻息を荒くして…そう言ってたもん。 瞼を閉じた俺の耳に…素敵な低音ボイスで“Love me tender”なんてエルビスプレスリーの歌が聴こえて来た… 同時に、トントン…と布団をテンポよく叩く音が聴こえて来て…俺は思わず口元を緩めて笑った。 きっと…まもちゃんが、薫ちゃんを寝かしつけてるんだ。 うちにお泊りする度に、この低音のええ声を聞きながら薫ちゃんは眠ってる… だから、きっと…将来付き合う男は、声が低い奴ばかりになる事だろう。 一度この、低音の声の心地良さを味わったら…抜け出せないからね。 俺が言うんだから…間違いない。 豪ちゃんのバイオリンの音色は、あの子が言った通り…どんなに落ち込んでも変わらなかった… テレビで見たロイヤルファミリーの為に弾いたバイオリンも、まもちゃんによるコレクションDVDで見た、コンサートのソリストの演奏も、どれも群を抜いて神がかっていたんだ。 …その姿は、理久が言う様に…まるで音楽にのめり込む様だった。 まるで、旋律の中に…溶け込んでしまった様に、音色そのものになってしまった様に、うっとりと、陶酔していたんだ。 もしかしたら…あの子は、誰にも汚されない、誰にも干渉されない…そんな美しい旋律たちに、守られていたのかもしれない… 音楽を奏でる間だけは…傷付いた心を、休める事が出来たのかもしれない。 だとしたら あの子は…本当に、音楽の神様に愛された、天使じゃないか… 思わず微笑んだ俺は、瞼を開いて、いつの間にか眠ってしまった…まもちゃんと、薫ちゃんを交互に見つめて、クスリと笑った。 そして、そっと瞳を閉じて、大きな深呼吸と共に…胸の中で言ったんだ。 理久…? 俺はやったよ… 今回も…よくできました!って…褒めてくれるだろ…? -- 「…わぁ、お風呂も、綺麗に、したんだねぇ…?」 「うん…水場は、総取り換えしたんだ。後…雨戸も…」 久しぶりに会った惺山と、僕は…少しだけ、ぎこちなく会話をした… トコトコと歩いて部屋を見て回る僕の後ろを、彼は同じ様にトコトコと付いて回った。 「フォルテッシモは…?」 首を傾げてそう聞くと、惺山は眉を下げて部屋の一角を指さした。 「薫が産まれて…フォルテッシモはへそを曲げたんだ。ずっと、ちやほやされていたのに…急に、相手にされなくなったと思ったみたいで…。ここへ越してきてからは…ずっと、寝室に閉じこもってるんだ。」 えぇ…?! そんな事って…あるんだぁ! 目を丸くして驚いた僕は、急いで寝室に駆け込んだんだ。 そして…警戒心剥き出しの、フォルテッシモを見つけて、大きなため息を吐いた。 彼は、人の気配を感じていたのか…既に胸の毛を立てて、戦闘態勢を取っていたんだ。 「あぁ…フォルテッシモ…。おいで…?」 僕は、体を屈めて、そっと…手を伸ばした。 すると、彼は…僕を覚えていてくれたのか…首をヒョコヒョコさせながら近付いて来てくれたんだ。 「…どうしたの…?どうして、そんなに怒っているの…?お馬鹿さん…」 僕は指先に振れるフォルテッシモの喉を撫でてそう言った…すると、彼はそっぽを向いて、抗議するみたいに喉を鳴らしたんだ。 「コッコココッコッコ…!!」 …何だか分からないけど、とっても、怒っているみたいだ… 「…怒りんぼう!」 僕はクスクス笑ってそう言った。 すると、丸まった僕の背中を、惺山が…温かい体で包み込んで、優しい声でこう言ったんだ。 「…”椰子の実“とっても…美しかったよ…。君は、俺の思った通り…唯一無二のバイオリニストになったね…。」 そんな彼の言葉にクスクス笑った僕は、彼の肩に頭を摺り寄せてこう言ったんだ。 「…それは、聴く人の主観に左右される…なんとも、あいまいな価値観だよ。」 すると、惺山は、僕の髪を撫でながら苦笑いをして言った。 「先生と居過ぎたせいかな…。言う事まで似て来た…」 ふふ…! 「ん、もう…!ばっかぁん!」 僕は、惺山に抱き付いて…彼の肩に顔を埋めた。 あぁ…惺山だ… 思わず口元を緩めた僕は、自然と出てくる言葉をそのままに彼に伝えた… 「惺山…もう一度、あなたに触れる事が出来て、僕は、とっても…嬉しいんだ…」 すると、彼は…泣き声を振るわせて、僕を、強く…抱きしめ返してくれた。 体に圧し掛かって来る彼を抱きしめながら、僕は彼の髪を指の間でとかして…うっとりと瞳を細めて笑った。 頬を伝って落ちて行く涙は…うれし涙。 再び…彼のキスを貰える…そんな喜びに、自然と溢れて来た涙だ… 「あの時も…弾いていたよね…”椰子の実“を…」 僕の髪を撫でながら、彼は優しいキスを何度もくれた。だから、僕は、口元を緩ませて…こう答えたんだ。 「…まるで、知らない場所へ来たみたいに、心細かったんだ…。だから、あの曲が、とっても…心情にしっくり来た。」 すると、僕の首に顔を埋めた惺山が、泣きじゃくりながら…何度も僕に言ったんだ。 「…ごめんよ。許してくれ…豪ちゃん…俺を、許して…ごめんよ…ごめんよ…!」 僕は、そんな彼の言葉に…静かに涙を落とした。 確かに…僕は、ひどく打ちのめされた。 でも、そんな僕の傍には…いつも音楽が居てくれたんだ。 それは、先生だったり…一緒に合奏をする奏者だったり、幸太郎だったり…イリアちゃんだったり、直生さんや伊織さんだったり… 姿も、形も変えて…音楽は、僕をずっと…守ってくれた。 ねえ… そんな音楽を、僕に教えてくれたのは…あなただよ。 音色の中で…自由を手に入れる事が出来たのは、あなたのお陰なんだ。 「惺山…。僕は…あなたを許してるよ。だって…あなたが優しい人だって…知ってたもの。僕は、知ってたんだ…。だから…だから…ああなる事は、分かってたんだ…」 「豪ちゃん…!!」 悲鳴の様な彼の声に、僕は思わず…惺山の頭を抱き抱えて、泣きながらこう言ったんだ。 「せいざぁん!僕は…分かってたんだぁ!奥さんを愛するあなたを、分かってたぁ!だから…だから、謝らないでくれっ!…謝らないでぇ…!!」 そうだよ… 僕は…分かってたんだ。 優しい心の彼が、奥さんを愛する事も…僕を忘れてしまう事も、分かっていた。 それでも、彼に生きていて欲しくて…僕は、彼から離れたんだ。 だから…謝る必要も、許しを請う必要もないんだ。 主観を取り除けば…物事は、笑えて来るほどに…シンプルなんだ。 「…僕は、そんな…優しいあなたが好きだから、これで…良かったんだ。」 僕は、涙でグシャグシャになった彼の頬を両手で支えて、自分に落ちて来る彼の涙の雫を頬で受け止めた。 そして、にっこりと笑ってこう言ったんだ。 「惺山が言った通り…音楽とは、音を楽しむ事だった。大海原に漂う椰子の実の様に…自分の舵が取れない時でも…あなたの言葉は、僕を助けて…導いてくれた。あなたの願いが…僕の支えになってくれていた。」 すると、彼は、僕を強く抱きしめて…何度も何度も体を撫でて優しく囁いた。 「じゃあ…戻っておいで…。俺の所に、戻っておいで…」 久しぶりに感じる彼の手のひらは、少しだけ硬く感じた。 それは…年を取ったせいか…それとも、家事をこなしたせいかな… そんな彼の変化に口元を緩めて笑った僕は、彼に抱き付いて…そのままの勢いで畳の上に押し倒したんだ。 「コケッ?!」 「ぐふっ!」 衝撃をもろに食らった惺山は変な声を出して、すぐ傍まで近づいて来ていたフォルテッシモは、そんな衝撃に…羽をバタつかせて逃げて行った。 そんな中、咳き込む彼を見下ろした僕は…眉を片方だけ上げながら彼をまじまじと見つめた。 変わらない… でも、少しだけ…年を取った気がする。 「せいざぁん…あなたを愛してる!」 自然と溢れて来る言葉をそのまま口から紡いだ僕は、自分のTシャツを乱暴に脱ぎ捨てて、彼の上に覆い被さりながら、こんなお願いをしてみたんだ。 「…ねえ、惺山さん。僕を…僕の事も…、薫ちゃんの次で良いから、愛してくれませんか…?」 すると、彼は…顔を歪めて大粒の涙を目から落として、何度も頷いたんだ。 そして、目の前でブラブラと揺れる僕のネックレスを、手で受け止めて…唇をかみしめてみせた。 そんな彼の一文字に結ばれた唇に、僕はそっとキスを落として…そのまま、強引に口の中に舌を入れて行ったんだ。 あぁ…惺山…愛してる… 僕の全てで、僕の人生…そんなあなたは、僕自身だった。 「愛してる…豪。愛してるよ…。君のいない人生は…耐えられない…!」 そうだね… だって、あなたにとっても…僕は、あなた自身なんだもの… 僕たちは、バイナリー。 光と影… ふたつで…ひとつなんだ。 惺山…あなたが居るから、僕が、いるんだ。 きつく抱きしめられる体を彼に埋めてしまいたい。 触れられる素肌も、髪も、唇も…全て、あなたに捧げてしまいたい。 「惺山…愛してる…!」 溢れてくる涙をそのままにして、僕は、胸に舌を這わせる彼の頭を優しく抱きしめた。 それは…何年ぶりに感じた、愛しい…彼だった。 興奮して紅潮する頬も、熱くなって行く体も、荒くなって行く息遣いも、全て…あなたがそうしてる。 「豪…もう…どこにも行かないで…」 そんな泣き声混じりのあなたの声すら、僕は…興奮してしまうんだ。 「はぁはぁ…!惺山…惺山…!」 僕は、彼のヨレヨレのシャツを乱暴に脱がせて、舌を這わせながら…彼の体の上に覆い被さった。そして、両手で優しく体を撫でて、おねだりするみたいに彼の胸に頬ずりしながら言ったんだ。 「惺山…意地悪してぇ…?」 すると、彼は…クスッと笑ってこんな返事を返した。 「…今日は、無理だよ…」 ちぇっ!なぁんだぁ! 少しの不満を感じつつ…僕は、久しぶりに感じる…大好きな彼を求めた。 ずっと…あなたの傍に来たかったんだ。 こんな風に、触れて…撫でて、愛して、抱きしめたかった。 「…惺山…来てよ…僕を愛してよ…。あなたが欲しいんだ…。僕に、全部頂戴よ…」 きつく抱きしめた彼の耳を食みながら、僕は自分の腰を揺らして彼の股間に擦り付けながらおねだりした。 すると、惺山は…にっこりと笑って…僕に、熱くてトロけてしまう様なキスをくれた。 あぁ…大好き… 少しずつ大きくなって行く彼の股間を感じながら、彼に撫でられて触れられる喜びに、僕は…口元を緩めて笑った。 あぁ…彼が、大好き…!! 5年も離れ離れでいたなんて、信じられないよ。 でも… だからこそ… 彼が自分にとって…かけがえのない人だという事が、身に染みて…分かったのかな。 彼のいない人生は、味気ない物に変わって…僕から、全ての喜びを奪った。 彼無しでは…僕は、生きてなんて行けないんだ。 「…はぁはぁ…惺山、あなたが好き…」 彼の素肌を確かめる様に両手の手のひらで、彼の背中を撫でまわしながら抱きしめた。そんな僕に、彼は…涙を落としながら、何度もキスをくれて、何度も愛してるなんて嬉しい言葉をくれる。 それを…人は、幸せなんて…呼ぶんだ。 無我夢中で彼を求めて、無我夢中で愛された。 それは…寝室の中に君臨していたフォルテッシモが、パニックを起こす勢いでだ… 抗議する様に床を突いていた彼のテンポがヴィヴァーチェに変わる事、僕は…面倒臭そうに惺山から離れて、寝室の襖を開けてあげたんだ。 すると、フォルテッシモは…台所へと走って逃げて行った… そんな彼の後姿を見つめて…やっと、僕は、人間の理性を取り戻した気がした。 「…ねえ。薫ちゃんの名前、ビックリしたぁ…」 そそくさと彼の元に戻った僕は、大好きな彼に抱き付いて…温かい胸板に頬を乗せて、クスクス笑いながらそう言った。 すると彼は、僕の髪を指の間でとかしながら同じ様にクスクス笑って、僕を覗き込むみたいに顔を起こして掠れた声でこう言ったんだ。 「…俺は、君のお母さんには、良くして貰ったんだよ。とっても優しくて、厳しい人だ。でも、温かくて…大好きなんだ。だから、そんな女性に育って欲しくて、名前を貰った…」 え…? そう言って優しく微笑む彼は、僕よりも、僕のお母さんを知っているみたいだった… 「ふふぅ…!」 堪らず溢れて来た涙を彼の胸に落とした僕は、そのまま両手で彼に抱き付いて甘えた。 「せいざぁん…!!うっうう…!うっ…うわぁあんん…!!」 僕のお母さんの名前を…貰ったの…? 彼は、僕を…忘れた訳じゃなかったの…? 心のどこかで、僕を、愛し続けてくれていたの…? それが、堪らなく…嬉しかった。 僕が思っていた以上に、家族も…彼も…僕を思っていてくれた事実を知った。 それは…例え、離れ離れになっていても、変わらなかった…愛情なんて物だった。 あんなに…ひとりぼっちだと寂しがっていたのが、馬鹿みたいだ。 やっぱり、僕は、すぐに杞憂するみたいだ… 惺山は、自分の脱いだズボンをゴソゴソし始めると、ポケットの中から…懐中時計を取り出して、僕の目の前で開いて見せてくれたんだ。 「…あ。」 そこにあったのは、あの時と変わらない…海老天丼を抱えた僕の写真だった… 絶句した僕は、自分のネックレスのロケットを手の中に入れて、開いて見せた。 そして、彼を見つめて、こう言ったんだ。 「…僕は、これを、一度…手離したぁ。でも、先生が…大切に持っていてくれたんだぁ。そして…頑なになった僕に…君の幸せは、ここにあるよって…教えてくれたんだぁ。」 すると彼は、驚いた様に目を見開いて、視線を僕のロケットの中へと向けて、固まってしまった。 でも、しばらくすると、グッと一文字に結んだ唇を震わせながら、僕を見つめて…にっこりと微笑んで、こう言ったんだ。 「木原先生は、本当に…豪ちゃんを、愛してるんだね…」 ふふぅ! そんな彼の言葉に頷いた僕は、にっこりと笑って言ったんだ。 「…彼は、僕の…大好きなお父さん…!色々な事を教えてくれて、守ってくれて、叱ってくれる。そして…いつでも、優しく抱きしめてくれるんだ!知らない場所で心細かったけど…先生と一緒だから、僕は何とかやれている。彼じゃなかったら…無理だった。彼じゃなかったら…とっくに諦めていたぁ。だから、惺山?僕は、彼と出会えて…本当にラッキーだったって…よく思うんだぁ。ねえ…?あなたもそう思わない…?」 そんな僕の問いかけにクスリと笑うと、惺山は僕の髪を耳にかけながら、こう言った。 「…君と、先生は…本当の親子の様だね…」 ふふぅっ! 嬉しくなった僕は、惺山の胸に顔を擦り付けて、足をバタバタさせた。そして、顔を上げて…眉を片方だけ上げて、自慢しちゃったんだぁ。 「僕は、先生のサックスを貰ったんだよ?良いでしょう?」 「え…?それは、凄いね…」 ギョッとした彼は、苦笑いをしてそう言った。 先生の言った通り…僕は、彼と居ると…幸せだ。 だから、今…とても、幸せを感じている…!! それは色に例えるなら…薄いピンク色で、温度にするなら、木漏れ日から差し込む穏やかな日差しのような温かさ… そして…曲に例えるとするなら…間違いなく“愛の挨拶”だ… 「愛してる…僕の、不滅のコンポーザー…」 僕はうっとりと惺山を見つめて、愛する彼にキスをした。 「愛してる…俺の天使…」 そんな嬉しいお返しの言葉に口元を緩めると…僕は、彼が離れて行かない様に…二度と離れ離れにならない様に、きつく…強く、抱きしめて…大きな背中の翼の中に、彼をしまい込んだ。

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