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変わりない日々に/嘘⑴
また締め出しだ。いい加減上に報告しても良いんだぞクズどもめ。
木曜の夜なんざ、酒に乱れて飲み歩く連中の数は知れている。
なんたって華の金曜が明日に控えているんだから、皆それを楽しみに家で休んでいるさ。
…どうしてそれがわからないかな。
だが、長い休憩時間を与えてもらった事は感謝しよう。俺も連日の雑務に疲れ切っていたからな。
パトロール。そう言えば聞こえはいいが実際の所平和な夜道の散歩だ。
残り少ない箱の中身を確認し、俺の中ですっかり穴場スポットと化した例の公園へ足を進めた。
すると、人気のないそこで黄昏れる会社員の姿。
手にはまだその形を保っている缶が一つ。
お約束のような光景に、つい灰皿を通り過ぎていた。
「どうも。こんばんは」
「…へ?あ……っ!きょ、今日は特に怪しい事なんてしてません!」
「今日は…ですか?それは詳しくお話を伺いたいものですねぇ」
突然の事に驚いたのか、大きく肩を揺らした綾木は手元の缶をベコっと凹ませ、
くたびれたシャツに飛沫を飛ばす。
それが怪しいんだよ、別に疑ってない。
この辺が管轄なだけだバカ。
綾木の隣で夜風に震えていたブランコに腰を下ろすと、まさか大人の男2人を抱えるだなんて思ってもみなかったそれは、苦しそうに鳴き声を上げた。
「嘘ですよ。そんなに固くならないでください」
「…冗談に聞こえないですよ」
「ふふ」
今日もまた、生気のない横顔で
気力も体力も使い果たした背中で
全くもって根性のない男だ。
恐らくβ。それでもこの疲れよう。
一体職場にはどんな能無しのα上司が居るんだろうな。
同情してしまうよ。まったく。
「あ、の…煙草吸われますよね?持ってるし。
僕気にしないのでどうぞ…」
「あぁ…ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
なんだ。結構気が回るんだな。
俯いていながらも、俺の手に握られていた箱に気がついていたか。
人が良い。それでいて周りへの気配りも忘れない。
これでは脳の足りない同僚の世話も面倒な雑用も、押し付けられるわけだ。
気が滅入るのも納得が行く。
「綾木さんともすっかり顔なじみになってしまいましたね」
「僕が怪しまれる風貌で鈍臭いばかりに…」
「はは。誰もそこまでは言っていませんよ」
「思ってはいるんですか…」
「すぅー…ふぅ〜」
「そこで煙草?!」
綾木と話すのはなかなか面白い。
…そうだな、同僚へのムシャクシャしたムカつきが多少は鎮まるくらいには。
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