12 / 43

変わりない日々に/嘘⑴

また締め出しだ。いい加減上に報告しても良いんだぞクズどもめ。 木曜の夜なんざ、酒に乱れて飲み歩く連中の数は知れている。 なんたって華の金曜が明日に控えているんだから、皆それを楽しみに家で休んでいるさ。 …どうしてそれがわからないかな。 だが、長い休憩時間を与えてもらった事は感謝しよう。俺も連日の雑務に疲れ切っていたからな。 パトロール。そう言えば聞こえはいいが実際の所平和な夜道の散歩だ。 残り少ない箱の中身を確認し、俺の中ですっかり穴場スポットと化した例の公園へ足を進めた。 すると、人気のないそこで黄昏れる会社員の姿。 手にはまだその形を保っている缶が一つ。 お約束のような光景に、つい灰皿を通り過ぎていた。 「どうも。こんばんは」 「…へ?あ……っ!きょ、今日は特に怪しい事なんてしてません!」 「今日は…ですか?それは詳しくお話を伺いたいものですねぇ」 突然の事に驚いたのか、大きく肩を揺らした綾木は手元の缶をベコっと凹ませ、 くたびれたシャツに飛沫を飛ばす。 それが怪しいんだよ、別に疑ってない。 この辺が管轄なだけだバカ。 綾木の隣で夜風に震えていたブランコに腰を下ろすと、まさか大人の男2人を抱えるだなんて思ってもみなかったそれは、苦しそうに鳴き声を上げた。 「嘘ですよ。そんなに固くならないでください」 「…冗談に聞こえないですよ」 「ふふ」 今日もまた、生気のない横顔で 気力も体力も使い果たした背中で 全くもって根性のない男だ。 恐らくβ。それでもこの疲れよう。 一体職場にはどんな能無しのα上司が居るんだろうな。 同情してしまうよ。まったく。 「あ、の…煙草吸われますよね?持ってるし。 僕気にしないのでどうぞ…」 「あぁ…ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」 なんだ。結構気が回るんだな。 俯いていながらも、俺の手に握られていた箱に気がついていたか。 人が良い。それでいて周りへの気配りも忘れない。 これでは脳の足りない同僚の世話も面倒な雑用も、押し付けられるわけだ。 気が滅入るのも納得が行く。 「綾木さんともすっかり顔なじみになってしまいましたね」 「僕が怪しまれる風貌で鈍臭いばかりに…」 「はは。誰もそこまでは言っていませんよ」 「思ってはいるんですか…」 「すぅー…ふぅ〜」 「そこで煙草?!」 綾木と話すのはなかなか面白い。 …そうだな、同僚へのムシャクシャしたムカつきが多少は鎮まるくらいには。

ともだちにシェアしよう!