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変わりない日々に/嘘⑵
「あなた明日もお仕事でしょう?いいんですか。もう遅いですが」
寒空の下でいつまでもこの調子では、風邪をひくのも時間の問題だ。
万全の体調でコレならば、弱った綾木は一体どうなってしまうのか。想像もしたくない。
だが俺の問いかけに対し、何故か綾木は闇に覆われた瞳へ星屑の輝きを次々と詰め込んでいく。
まだ半分は残っていたであろう缶を勢いよく傾けると
喉を数回上下させ、そして。
「明日、創立記念で会社休みなんです!
だから今夜は朝まで飲むつもりです!」
げっそりした顔色と光に満ちた瞳が彩るちぐはぐな表情は、俺の理解出来る域を遥かに超えていた。
「あなた結構バカですよね…」
「ところでお巡りさんはまだお仕事ですか?
どうせ僕まだここに居ますし、良ければ終わった後何処か飯でも行きませんか!」
人の話聞けよ。
あぁ…コイツは恐らく……。
デカの勘というのはよくドラマで聞いたこともあるが、こればかりはそういった職業のための賜物ではない。
ただ単に、24年間生きてきた俺の勘が働いただけだ。
ちらりと綾木の手元を覗くと
そこに握られていたのはやはり…濃いめだの強いだの、アルコール濃度の高さを強調するハイボールのパッケージ。
綾木は絡み酒タイプか。
気性が荒くなるよりはマシだが、これは相当面倒だ。
「…私、夜勤なんですよ」
嘘だ。この長い散歩を終えて報告書さえ纏めれば本日の業務は終了だ。
因みに明日は昼までに行けば問題ない。…絶対に教えてやりたくはないが。
「大丈夫です!僕朝までここで飲んでるので!」
それだけは辞めてくれ。
良ければ行きませんか、の意味をどうやら履き違えていた。
俺が断れば帰るなどという常人の考えでは無かったらしい。
俺が誘いに応じれば移動して絡み酒。
そうでなければ引き続き公園で一人酒だ。
街の秩序を守る立場として、これを見放す事は……出来ない、という無駄な正義感。
「…くれぐれも飲み過ぎないでくださいね。
残りを片して来ますから、待っていてください」
「そうこなくっちゃ!」
綾木が危なっかしい手つきで鞄から取り出したビニール袋には、もはや缶ですらない瓶のリキュールが仕込まれている。
それを割る炭酸や水は見当たらないが…もしや次はこれを直で飲み始めるつもりだったのだろうか。
いくら休みだからって、もう少し身体を大事にしろよ。
……念には念を重ねるに越した事はない、か。
「この瓶と、強いものは預かっておきますね」
「あっ…」
サラミとチーズ、それから3%のチューハイを残し、俺は早急にパトロールを切り上げたのだった。
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