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変わりない日々に/嘘⑷

「え?…そう、見えますか?」 「お巡りさん強そうだし、賢そうだし…そうにしか見えませんよ?」 …いや。 いやいやいや。 少し前の自分のセリフを是非とも思い出してもらいたいものだ。 俺がαだと思っていながら、よく目の前で堂々と嫌い宣言が出来たな綾木。 …まぁ、そういう素直な所も 全く嫌では無いけれど。 「αではありませんよ。 …ふ、それとこういう場で“お巡りさん”は辞めていただけますか?」 未だ放心状態の彼の、俺よりも大きな手を取り、 人差し指を手のひらへ走らせた。 来 碧 酔っ払いのそこに正常な感覚はないのであろうが、それは承知である。 「これでライアです。こんな名前をしているので、私もよく嘘つきだと揶揄われますよ」 苗字を教えなかった事に特に理由はない。 ただ、綾木には名前で呼ばれたいと思っただけだ。 「…来碧、さん。 素敵な名前ですね!羨ましいです!」 「初めて言われましたよ。そんな事」 俺には貴方の名前の方が、何倍も何十倍も素敵だと思えるよ。 弱々しい姿は確かに灰色の雲を背負っている。 しかし、今俺に見せてくれている澄みきった笑みは、名前の通り眩しく輝いている。 自分はアルコールなど一滴も含んでいないというのに、どことなく身体に宿る熱。 それはいつか捨て去った、置き去りにしてきたはずの感情であり 身体の芯まで温める綾木の笑顔は、凍てつく碧空を包み込む寒凪の太陽だった。 それなのに。 「凄いです…来碧さんはαと間違ってしまうくらい、格好良くて、凛としていて。 僕なんて、αなのに全然ダメで」 晴れた冬空に、突如雹を孕んだような痛々しい突風が吹き荒れる。 「…は?」 今隣で酒を飲み、触れそうな距離に何度も並んだこの男が… 俺が最も嫌う、α。

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