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再会の日に/寒凪⑴
12月24日。木曜日。晴れ。
俺は土砂降りの雨。
世間はクリスマスカラー一色に染まっているにも関わらず、俺は相も変わらず真っ黒だ。
社員の無駄に軽やかな足取りが煩わしくて仕方ない。
どうせさっさと帰って、聖夜だか性夜だか知らんが恋人とよろしくやるんだろう。
今日は朝からついていなかった。
気がついたのはほんの1時間前の事。
尻ポケットに確かに入れたはずの財布が忽然と姿を消していた。
クリスマスにプレゼントが届く話は知っているが、一文なしになる話は聞いたことがない。
今にも召されそうな最悪のメンタルでは、とてもじゃないが仕事など出来るはずもなく
朝から小さなミスを繰り返しては、謝りの電話を入れるばかりだ。
謝罪ラッシュも区切りがつき、凝り固まった首を一周。
全くもって可愛くない音を響かせる。
ついていないのは何も今日に限った事ではない。
だが、非日常が重なれば、いくら不幸慣れしている俺とは言えども動揺してしまうのが当たり前だった。
一瞬でも気を抜けば、脳裏に焼き付く昨晩の出来事が蘇る。
待ち続けた彼の、変わり果てた姿。
いざという時の為に持っていたΩ用の抑制剤が、まさか彼を助けるとは思っても見なかった。
きっと、もう少し疲れていたら
きっと、もう少し酒が回っていたら
俺は来碧さんを噛んでいた。
耐えられたのが奇跡と言っても過言ではない。
何度も助けられ、励ましてくれた彼に嫌われたくない一心だった。
ふらふらになりながら帰った自宅の玄関で、ジャケットに染み付いた残り香を頼りに俺のしてしまった事は──。
ようやく正気を取り戻した頃、時計の針はとっくに頂点を越していたのだから
己の浅はかさに笑ってしまう。
お陰で今日も寝不足だ。
イエスの誕生を祝う特別な日に、教会で懺悔でもすれば少しは気分も晴れるだろうか。
…いや、そんな訳ないか。
仕事終わりに立ち寄るのなら、紛失届を出す為に近所の駐在所へ行く方が現実的だ。
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