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再会の日に/寒凪⑶

「なっ…誰だお前!サツにそんな態度取ってどうなるか──っ」 「知るか。β如きがその人に触れていいと思うなよ」 自分の物とは信じ難いドスの利いた低い声が、性差別をこの上なく憎んできた俺の口から、最低な言葉を放つ。 「……ま、まさか、αなのか…?!」 「そのまさかだ」 焦り戸惑いベルトを締める数名の男は、笑ってしまうほど滑稽で 傍らで身を震わすたった一人を放って視界の外へ消えていった。 「………あ、綾木さ、」 彼が顔を上げたのと、俺がコートを脱いだのはほとんど同時。 俺は来碧さんの無残な姿をこの目で確認するより先に、今にも凍り付いてしまいそうな細い身体を包んだ。 「何て格好してるんですか。…もっと、早く来ればよかった…ッ」 恐らく、来碧さんの頭が俺よりも低い位置に来るのは初めてだ。 それくらい彼は、常に背を伸ばして格好良い。 それくらい俺は、常に背を曲げて情けない。 様々な感情が押し寄せ、罪悪感に苛まれてボロボロと涙があふれた。 貴方が震え続けるのも、鼻を啜るのも、全部この冬の寒さのせいだ。 だって俺の声しか聞こえない。 しゃくり上げて、声を出して、泣き喚いているのは俺だから。 貴方は、強くて格好良いままだよ。 頭がおかしくなりそうな誘惑の香りは随分と抑えられている。 発情期の身体は、ちゃんと抑制されている。 それなのに、この匂いを知りもしないβに襲われる苦しみは 一体どれだけ崇高な貴方を傷つけただろう。 「…はは。どうして綾木さんが俺より泣いているんです」 「………わかり、ません」 僅かに息をこぼして笑ってくれた彼を 私ではなく、俺と言ってくれた彼を 言葉にならないほど、愛おしく感じてしまった。 「あの様子じゃ、仕事どころじゃないでしょう。 俺の家、近いので…上がっていってください」 「……そうですね」 断る気力も残っていない相手に、なんてクズだろうと思う。 彼の優しさに甘えるだなんて、下手したらさっきの奴ら以下だ。 留め具の弾けたズボンを引き摺り、柄にもなく猫背に縮まった来碧さんの腰を支え、 理不尽にも星の輝くよく晴れた夜道を弱々しい足取りで進んだ。

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