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冷えきった夜に/寒凪⑷

「…申し訳ありません。まさかお借りした服に穴を開けてしまうとは…。新しい物買い直しますので」 絶対に寿命以上の仕事をしているスウェット一枚がダメになったところで、別に怒らないのに。 しっかりしてるよな、来碧さん。 俺は火傷してないかそっちの方が心配だ。 同系色の、これまたヨレヨレのズボンに着替えてもらうと まるで新品…とまではいかないが、俺が履くよりずっとピシッと決まって見えた。 同じ物でも、俺と来碧さんが着るんじゃ全然違うんだ。 佇まいからして真逆なんだから仕方ないよな。 きっとズボンも来碧さんに履いてもらえて喜んでいるんだろう。 そんな素敵な人が、俺に鎖で繋がれる道を選ぶ……なんて、そんな事。 「……さっきの話。しょ、正気ですか? 俺が噛んだら来碧さんは…もう何処へも行けなくなる」 俺なんかと番って、この先訪れるかもしれない別の未来は諦めるしかなくて 後悔するのは…来碧さんなんだ。 俺のせいで、俺以外の誰かが苦しむなら 俺は一生番を作らなくていい。結婚もしなくていい。 誰かの人生に影響を与えないよう、静かに、黙っていた方が…ずっと良い。 「別にあなたが困る話じゃないでしょう」 「そういう事じゃ…ないんだよ……っ」 俺にまたがる彼を見た時、気付いた。 太腿に刻まれる無数の傷痕。 あれは多分人にされたものじゃない。 手首や腕では周りに見える。そんな彼の苦しい強さから選んだ場所だ。 俺の軽率な行動が、今は良くてもまたいつ彼を辛い目に遭わせるかわからない。 俺は生涯来碧さんを愛すことが出来る。 そう誓える。 けれど来碧さんは、もし俺を嫌になってしまった時、離れる事が出来ない。 自らの意思で番を解消した所で、彼は死ぬまで、永遠に誰とも番う事は出来ない。…独りだ。 それでも貴方は……俺でいいのか。 簡単に決めてしまっていいのか。 「…俺達ってその、まだ出会ってひと月も経ってなくて。 俺、貴方に変なとこばっか見られてるし、恥ずかしい所晒してばっかだし……そんな奴に噛めなんて、来碧さんは自分の人生を諦め過ぎですよ…!」 考えた末に俺が放ったのは、自らを否定する言葉。 そして、来碧さんの大きな決断すらも拒絶する、最低な言葉だった。

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