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一瞬怪訝そうに眉根を寄せた後、ハッとした様子で、西園寺さんは今度は瞳を見開いた。
それから振り向き、二見さんの方をじっと見つめ、こめかみの辺りに手を当てて大きな溜め息を吐き出した。
……やはり、思い当たる節があるという事か。
言い過ぎたかもしれないと思ったけれど、ずっと感じていた不満とコンプレックスは、一度噴き出すと止める事が出来なかった。
西園寺さんが再び僕の方を向き、形の良い唇が、ゆっくりと開き掛けた。
だけど僕は彼に何か言う隙を与える事無く、笑顔のまま早口で捲し立てた。
「まぁでもまんまとあなたの思惑通り、僕の家族は旅行に行けるって、大喜びしていましたけどね」
彼の表情が、悲しそうに歪む。
それを見て、少しだけ気分が晴れた気がした。
いつも笑顔を浮かべている彼の、傷付いたような表情が心地よかった。
「だけど、約束は約束ですし。
事前に決めた通り、何か作ってご馳走させて頂きますよ。
セレブな西園寺様のお口に、僕の作る庶民食なんかが合うかは知りませんけどね。
……これで、満足ですか?」
***
「陸斗。何があったのか知らないけど、さすがにアレはちょっと言い過ぎじゃないか?」
昼休み、責めるような口調でハラちゃんが言った。
だから昨日あった出来事のあらましを語り、鬱憤を晴らそうとしたのだけれど。
僕の愚痴を聞き終わるとハラちゃんは何やら大きな呻き声を上げ、それから頭を抱えながらうつむくと、その場に踞 るようにしながらボソッと呟いた。
「陸斗。‥‥‥その件、西園寺さんは一切関係ない」
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