34 / 111

34

「可愛過ぎるんだけど、ホント。  ‥‥‥参ったな。今日はまだ、ここまでするつもりはなかったんだけど」  惚けたような状態の僕をソファーに押し倒し、強く抱き締めて言われた。  そして彼の大きな手のひらが僕の着ていたトレーナーを捲り上げ、剥き出しになった腹に口付けられそうになった瞬間。  古めかしい家の黒電話がジリリと大きな音で鳴り、我に還った。  ドン、と彼の体を押し退け、飛び起きるみたいにして立ち上がり、受話器に手を伸ばす僕。   『あ、もしもし?陸斗?  今日は留守番させちゃって、本当にごめんね!  莉央がどうしてもお兄ちゃんの声が聞きたいって言って、聞かなくて。  じゃあ代わるわね』  何の疑いもなく、楽しげに喋る母親。  本当はめちゃくちゃ心臓がバクバクしていたけれど、何事も無かったような声で答えた。 「うん、それは全然平気!  あ、莉央?いい子にしてるか?  ちゃんと二人の言うこと、聞くんだよ?」  わざと明るい口調で語りながら、横目で西園寺さんの事を睨み付けた。  なのにそこは、さすが変態ストーカーの西園寺さん。  怯むどころか、電話中なのを知りながら、ここぞとばかりに抵抗の出来ない僕の体を後ろから抱き締めた。 「......!!」  声にならない、声。  背後でクスリと笑う気配を感じ、羞恥と怒りに震える僕。  彼の舌先が突然僕の首筋をペロリと舐めたものだから、さっきまでの余韻の残った体は敏感に反応し、ちょっと変な声が出そうになった。  そんなのは絶対妹になんて聞かれたく無かったから、慌てて自分で自分の口を押さえ、それはもちろん無理矢理我慢したけれど。

ともだちにシェアしよう!