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 風呂に入る度、嫌でも思い出してしまう彼と過ごしたあの忌々しい夜の出来事。 「むしろ、清々するくらいだ。  ‥‥‥寂しくなんて、ない」  自分自身に言い聞かせるみたいに呟き、頭を冷やすためシャワーで水を浴びた。 ***  週に一度の、待ちに待った休日。  だけど特に予定もなかったし、何となくムシャクシャして電車に乗り訪れた、都内にある大きなゲームセンター。  だけどこの店を選んだ理由はここが、西園寺さんの働くビルのすぐ側にあるからとかでは無い。  断じて、違う。  ここにしかない、妹の莉奈が大好きなキャラクターの小さなぬいぐるみがゲット出来るクレーンゲーム機が、置かれているからに他ならない。  誰に聞かれたワケでもないけれど、心の中で言い訳みたいに何度もそう繰り返す。  僕は子供の頃から、UFOキャッチャー的なゲームの類いが得意だった。  今やその腕前は、百発百中と言っても過言ではないくらいだ。  だから気分が沈む時や、なんだかモヤモヤする時などは、ひとりゲーセンを訪れ、黙々とゲームに集中する。  単に他に趣味がないだけ、というのもあるけれど。   「お兄さん、スゲェな!  俺にもコツ、教えてくれないっすか?」  突然後ろから元気良く声を掛けられ、びっくりして大きくその場で飛び上がった。  振り向くとそこには、高校のモノと思われるベージュ色のお洒落な制服に身を包む、金髪の少年の姿。 「あーっと‥‥‥すみません、驚かせちゃいましたよね?  でも俺、怪しいもんじゃ無いんで!」  慌てた様子で、身振り手振りを交えて訴える少年。   「大丈夫だよ。というかこれ、欲しいなら君に一個あげる」  僕が吊り上げたぬいぐるみ達は、既に8個を越えている。  こんなに取ってどうしようと少し途方に暮れていたから、むしろありがたいくらいだ。

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