46 / 111
46
風呂に入る度、嫌でも思い出してしまう彼と過ごしたあの忌々しい夜の出来事。
「むしろ、清々するくらいだ。
‥‥‥寂しくなんて、ない」
自分自身に言い聞かせるみたいに呟き、頭を冷やすためシャワーで水を浴びた。
***
週に一度の、待ちに待った休日。
だけど特に予定もなかったし、何となくムシャクシャして電車に乗り訪れた、都内にある大きなゲームセンター。
だけどこの店を選んだ理由はここが、西園寺さんの働くビルのすぐ側にあるからとかでは無い。
断じて、違う。
ここにしかない、妹の莉奈が大好きなキャラクターの小さなぬいぐるみがゲット出来るクレーンゲーム機が、置かれているからに他ならない。
誰に聞かれたワケでもないけれど、心の中で言い訳みたいに何度もそう繰り返す。
僕は子供の頃から、UFOキャッチャー的なゲームの類いが得意だった。
今やその腕前は、百発百中と言っても過言ではないくらいだ。
だから気分が沈む時や、なんだかモヤモヤする時などは、ひとりゲーセンを訪れ、黙々とゲームに集中する。
単に他に趣味がないだけ、というのもあるけれど。
「お兄さん、スゲェな!
俺にもコツ、教えてくれないっすか?」
突然後ろから元気良く声を掛けられ、びっくりして大きくその場で飛び上がった。
振り向くとそこには、高校のモノと思われるベージュ色のお洒落な制服に身を包む、金髪の少年の姿。
「あーっと‥‥‥すみません、驚かせちゃいましたよね?
でも俺、怪しいもんじゃ無いんで!」
慌てた様子で、身振り手振りを交えて訴える少年。
「大丈夫だよ。というかこれ、欲しいなら君に一個あげる」
僕が吊り上げたぬいぐるみ達は、既に8個を越えている。
こんなに取ってどうしようと少し途方に暮れていたから、むしろありがたいくらいだ。
ともだちにシェアしよう!