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ジーンズにダウンジャケットなんていうラフな格好の僕と、制服姿の少年。
ドレスコードに引っ掛かり、追い返されたらどうしようと少し不安になったけれど、それは杞憂に終わった。
それどころかホテルの自動ドアが開くなり、いきなりフロントのお姉さんが慌てた様子で僕らの方に向かい、小走りで駆けてきて大きく礼をした。
それに驚いていると今度は総支配人なる男性がやって来て、丁寧な口調で告げた。
「いらっしゃいませ、山田 太郎様。
お待ちしておりました」
それに驚き、少年の顔を見上げた。
すると彼は顔を真っ赤にしながら、ペコッと頭を下げて言った。
「ちぃっす。てか出迎えも、フルネームプラス様付けもやめてって、いつも言ってますよね?
‥‥‥スッゲェ悪目立ちしてるじゃん、ホント勘弁してよ」
こう見えてこの子、めちゃくちゃセレブとかなんだろうか?
予想外の展開に驚き、彼のまだ幼さの残る顔をついガン見してしまった。
「でもお坊っちゃまから、山田 太郎様がご来店されたら丁重にもてなすよう、仰せつかっておりますから」
にこにこと笑いながら、媚を売る総支配人。
すると山田君は唇を尖らせ、不愉快そうに告げた。
「フルネームで呼ばれるの、もはや罰ゲームみたいになってんだけど。
絶対こんなの、嫌がらせだろ。
‥‥あの、根性悪」
そうこうしてる間に、総支配人さんに案内されて席に通された。
「えっと‥‥‥なんか、すごいね。
余ってたぬいぐるみをあげただけなのに、こんなのご馳走になって、本当に良いのかな‥‥‥」
テーブルに並ぶたくさんのケーキを前にすると、また少し申し訳ない気分になった。
「良いよ、良いよ。
俺もどうせ、貰ったヤツだもん。
だからお兄さんも、気にしないで」
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