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「お待たせしました、海晴 さん。
車を表に、回しておきました。
‥‥‥って、あれ?こんにちは。
なんでここに、陸斗さんが?」
振り向くとそこには、不思議そうに首を傾げる秘書の二見さんの姿。
それに救われたとでも思ったのか、ホッとしたように顔を綻ばせる西園寺さん。
だが、逃がさん!
「こんにちは、二見さん。
たまたまスイーツのバイキングに、誘われて。
これから僕は、家に帰るところなんです」
にこにこと笑って会話をしながらも、しっかり西園寺さんのスーツの裾を掴んだ。
すると西園寺さんはさっきまでの蒼白な面持ちが嘘みたいに、嬉しそうにデレデレと鼻の下を伸ばした。
いつも通りの事とはいえ、これはこれでやっぱり不快なワケだが。
「あぁ、そうなんですね。
‥‥‥あ、そうだ!
打ち合わせが予定よりも早く終わったので、次の仕事までかなり時間が空いてしまったから、良かったらご自宅まで送らせて頂けませんか?
海晴さん、最近陸斗さん不足だなんだとうるさ‥‥‥かなり、落ち込んでいたので」
‥‥‥今確実にこの人、うるさいって言おうとしたよな。
最近になり気付いた事だけれど、忠実なようでいて二見さんは、時々とんでもない毒を吐く。
だけどそれにも慣れているのか、西園寺さんはそこは特に気にする様子もなく僕に向かい言った。
「そうだね、陸斗くん。
ちょうど良かった、送っていくよ。
久しぶりに君を、補給させて?」
まるで呼吸をするかのごとく、ナチュラルに気持ちの悪い言葉を口にする西園寺さん。
普段であれば確実に、丁重にお断りしているであろうお誘い。
だけどさっきのやり取りがどうしても気になったから、渋々ではあったけれどその申し出を受け入れた。
ずっと会えなくて寂しかったからとか、まだもう少し彼と一緒に居たいからではない。
絶対に、違う。
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