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いざ車に乗るぞという段になり、ふと気付いた。
これまでは気にした事なんて無かったけれど、運転するのは当然秘書の、二見さんなワケで。
そうすると自動的に僕と西園寺さんは、後部座席に並んで座る事になる。
これまでも何度かこのパターンはあったけれど、先日のあの夜 以降は初めてで。
どうしようと少しだけ悩み掛けたタイミングで西園寺さんは、当たり前みたいな顔をして運転席に座る二見さんの、後ろの席のドアを開いた。
そして僕が車に乗り込むと、西園寺さんはこれまた当然みたいな感じで、僕の座る隣の席へ。
‥‥‥やっぱり、そうなりますよね。
ハハハ、と渇いた笑いが溢れた。
でもまぁ僕は今日、送って貰う身だ。
それにこの席並びは嫌だと言うときっと、僕が妙に意識し過ぎているとバレてしまうに違いない。
「はぁ‥‥‥本物の、陸斗くんだ」
うっとりと夢心地といった様子でそう呟き、僕の手をそっと握ろうとする西園寺さん。
だから僕はにっこりと微笑み、両方の手をダウンジャケットのポケットに仕舞った。
「本当に、気持ちが悪い人ですね。
本物以外に、僕が何処かにいるみたいに言わないで下さい」
自然と漏れ出た、ため息。
すると西園寺さんは真剣な表情で、僕の瞳をじっと覗き込み言った。
「何度か、夢とか幻覚を見たよ。
あとあまりにも寂しくて、以前撮らせて貰った君の動画を見‥‥‥」
前半部分の発言も変態じみているし、夢に勝手に見るのはやめて欲しいと先日もきちんとお伝えしたが、今回問題なのはそこではない。
「は?僕の、動画って‥‥‥。
そんなの、撮らせて無いですよね?
まさか、盗撮!?」
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