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「あの‥‥‥西園寺さん!」
車を降りる直前、僕はリュックからスマートフォンを取り出した。
そして画面をタップして、LIMEを立ち上げると、IDの交換を自分から申し出た。
「いいの!?ヤバい、めちゃくちゃ嬉しいんだけど!」
テンションが一瞬の内に上がったらしき西園寺さんは、大きな声で聞いた。
だけど素直になれない天の邪鬼な僕は彼からプイと顔をそらし、愛想も何もない態度で答えた。
「渋々ですけどね?
だって約束したのに、何か急に予定に変更とかがあったら困りますし」
でもこんなに失礼な態度を取っているというのに、西園寺さんは楽しそうにクスクスと笑いながらそうだねとだけ言うと、僕の頭をくしゃりと撫でた。
こういう時、思うんだ。
たぶん彼にはもう、素直になれない僕の心の内なんて全部バレてしまっているんじゃないかって。
まぁでもだとしたら、なんで僕が望む事が分からないのか、そしてなんで僕が嫌がりそうな事を率先してやろうとするのかと、大変疑問ではあるけれど。
「じゃあね、陸斗くん。
また、連絡する」
僕の手の甲に、ナチュラルに寄せられた西園寺さんの唇。
彼は学生の頃、海外への留学経験もあるらしいから、こういった行為にも慣れているのかも知れない。
しかし僕は生粋の日本育ちの、日本人なのである。
そのため突然フェイントでこういう真似をされると、どうして良いか途端に分からなくなってしまう。
だから結局こんな風に、冷たく振る舞う事しか出来ない。
「西園寺さん‥‥‥キモいです。
勝手にそういう事をいきなりするの、本当に止めてください」
内心のドキドキを綺麗に包み隠して微笑み、お返しに彼の手の甲を少し強めにつねっておいた。
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