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『俺に遠慮は、しないでね。  俺なら陸斗くんの願いを、大抵叶えてあげる事が出来ると思うから』  恐らくこれも大袈裟に言っているワケではなく、本当なんだろうなと思う。  大金持ちの西園寺さんが望めばきっと、目の前の大きなマンションすらも、すぐに消えて失くなるに違いない。  だけどそんなの僕は、全く望んでなんていないのだ。  そこに住む人達の生活を壊してまで、毎晩美しい月を見れたとしてもそれを綺麗だなんて、僕は絶対に思えない。  馬鹿みたいにでっかいタワーマンションの最上階に住めるようにしてあげる、等と言わない辺り、僕がそういった真似をされるのをヨシと思わないであろうことを理解しているからなのだろうが。  ‥‥‥やはりこの人、相当ずれている。 『遠慮なんかじゃ、ありません。  本当に、迷惑なんです。  それに月なんか見えなくても、何も困りませんし』  すぐさま既読が付いたからまたろくでもない返信が来るかと思ったけれど、予想に反してそうならなかった。  それにちょっぴり拍子抜けして、スマホを手にしたまま小さく嘆息する僕。   その理由は、そう。  あまりにも下らないこのやり取りに、うんざりしたからだ。  うん、そうに決まっている。  ‥‥‥返事が来ないのが、寂しかったからなんかじゃない。 ***  風呂を上がり、パジャマに着替えて布団を敷こうとしたタイミングで、マナーモードに切り替えていた僕のスマホが机の上で震えた。  届いたメッセージの主は、またしても西園寺さんだった。 『遅くに、ごめんね。  今から少しだけ、出てこられないかな?』  睡眠時間を削ってまで会いに来るなと僕が言ってからは、こういった事は一切無かったのに。  迷惑だと思うよりも先に嬉しいと感じてしまうのが、少し腹立たしいし悔しい。

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