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「陸斗くん、少しだけドライブに付き合って貰ってもいいかな?」
シートベルトを締めながら、蕩けそうなほど甘い視線を僕に向け、微笑む西園寺さん。
‥‥‥やはり無駄に、顔が良い。
「良いですよ。ただし、本当に少しだけですからね?
明日も朝、早いので」
僕が頼んだワケではないが、さすがに小一時間掛けてここまで来て貰って追い返すなんていう真似は出来ないだろう。
そう考えたから、仏頂面のまま答えた。
だけど西園寺さんはやっぱりまた嬉しそうに笑い、答えた。
「うん、知ってる。早番だもんね?
ありがと、陸斗くん。
なるべく早く、家まで送るよ」
だからなんで僕のシフトを把握しているのかと、怒ってやりたいのに。
‥‥‥大きな手のひらで優しく頭を撫でられると、途端になんて答えるのが正解か分からなくなってしまう。
なので特に言葉にする事なく、ただ小さくコクリと頷いた。
***
「えっと‥‥‥西園寺さん。
一体どこに、行くつもりなんですか?」
元々家はちょっと田舎にあるとはいえ、西園寺さんの運転する車がどんどん街中から離れていくモノだから、その目的地が気になり聞いた。
でも西園寺さんはイラズラっぽく笑い、まだ内緒と答えた。
到着したのはちょっと小高い丘の上にある、幼い頃遊んだ小さな公園だった。
「懐かしい!子供の頃、父さんによく遊びに連れてきて貰ったんですよ」
車を降りて、大好きだったブランコに向かい駆け出す僕。
しかし次に彼が口にした言葉のせいで、一瞬のうちに凍り付いた。
「うん、そうだと思ったよ。
この間自宅に遊びに行った時に罰ゲームで貰った写真に、写っていたからね」
たったあれだけの情報を元に、この場所を特定したというのか。
こっわ!‥‥‥やっぱりこの人、ガチのストーカーだ。
恐怖でしかないその発言にゾッとして、思わず振り向いた。
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