66 / 111

66

 なのに僕のそんな心情の変化にはまるで気付かないのか、彼はテレテレと嬉そうに笑い、続けた。 「幼い頃の君も、サイッコーに可愛かったよね。  あの当時出会っていたら、間違いなく僕は犯罪者になっていたよ‥‥‥」  恍惚とした表情で言われたけれど、そんな変質者めいた告白にトゥンクするはずもない。  だから僕は笑顔で、ピシャリと言い捨てた。 「ほんっとうにあなたは、どうしようもなく気持ちが悪い変態ですね。  というか今ならセーフみたいな顔をしていますが、西園寺さんのやってる事、ほぼ犯罪ですから」 ***  何となく納得がいかないままではあったけれど、懐かしい遊具達に心を揺さぶられ、幼い頃大好きだったブランコに腰を下ろした。  すると西園寺さんは僕の後ろに立ち、ゆっくり背中を押してくれた。  ゆらゆらと、揺れるブランコ。  その心地よい揺れに身を任せていたら、西園寺さんは空を指差し、僕の耳元で囁くように言った。 「ねぇ、陸斗くん。  見て?月が、すっごく綺麗だよ」  あぁ……そうか。  この人はこれを僕に見せたくて、片道一時間も掛かるというのに車を走らせ、わざわざ会いに来たのか。  その理由に気付き、つい吹き出した。 「‥‥‥本当に、おかしな人」  クスクスと笑いながら、告げた。  しかし彼はその理由が分からなかったのか、不思議そうに首をかしげた。  器用なようでいて、不器用で。  完璧なようでいて、僕が絡むと途端にポンコツになる西園寺さん。  ‥‥‥だけど。 「月が、綺麗ですね」  にっこりと微笑んで振り向き、彼の顔を真っ直ぐに見上げ告げた。

ともだちにシェアしよう!