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「陸斗くん。ディナーまではまだ時間もあるし、これからどうしよっか?」
再び彼の運転する、車中にて。
先程のお店の料理はどれも美味しかったし、彼とのおしゃべりも楽しかった。
だけどあそこは西園寺プレシャスグループが経営していた事もあり、僕が彼にご馳走するという計画はまんまと阻止されてしまった。
だから少し不貞腐れた僕は、窓の外に目をやったままボソッと答えた。
「‥‥‥この辺りに確か、美味しいバナナジュースの専門店があるって、ハラちゃんが言ってました」
すると西園寺さんはクスクスと可笑しそうに笑い、僕の頭を優しくくしゃりと撫でながら、了解と答えてくれた。
こういう時やはりこの人は、大人だなって思う。
運転する西園寺さんの横顔をチラリと盗み見て、その滲み出る色香にドキッとさせられた。
「西園寺さん!それくらいは僕に、奢らせて下さいね?」
恨みがましい視線を向け、訴えた。
すると彼はまたクスリと笑い、言ってくれた。
「分かったよ。
ありがとう、陸斗くん」
子供扱いされている気がして少し情けないけれど、実際僕は昨年高校を卒業したばかりで、社会的にみたらまだまだ子供なのだと思う。
選挙権はもうあるし、結婚だってしようと思えば出来る年齢だけれど、厚生年金だってまだ支払ってはいないし、成人式だって迎えてはいないのだから。
悔しいけれど、これが現実なのだ。
運転席の隣でスマートフォンを操作して、目的のお店のホームページの画面を検索し、西園寺さんに向けた。
その内容を確認するために彼の顔が近付いてきたモノだから、途端に僕はどうしたら良いか分からなくなってしまう。
それに気付いているのか、いないのか。
僕の耳元で西園寺さんが、甘く囁くように言った。
「ホントだ、美味しそうだね。
俺も、楽しみだよ」
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