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「はい、西園寺さん。あーん」
口の中が空になったタイミングを見計らい、にこにこと笑顔でまた新たなクッキーを差し出すと、西園寺さんは幸せそうにそれを頬張り、そして泣きそうな顔になりながらもぐもぐと咀嚼した。
彼の綺麗な顔面が僕の一挙手一投足に左右され、変化するのは見ていて楽しいし面白い。
その事をハラちゃんに以前ポロっと漏らしたら、お前はドS過ぎるとドン引きされてしまったけれど。
でも日々西園寺さんには、迷惑を掛けられているのだ。
これくらいの事をしても、何の問題もなかろう。
それに本人も、何だかんだ言いながら嬉しそうにしているし。
「はい、次で最後です。
西園寺さん、どうぞ」
満面の笑みを浮かべてクッキーを半泣きの彼の口に捩じ込むと、空になった袋をくるくると丸めて、ゴミ箱にポイと投げ入れた。
「あぁ……せめて今日の記念に、包みだけでも持ち帰ろうと思っていたのに!」
慌ててソファーを立ち、ゴミ箱を漁ろうとする西園寺さん。
そんな彼のスーツの裾を軽く引き、制止した。
「今日の記念って、何ですか?
そんなの、いつだって焼いてきてあげますよ」
指先に残っていたクッキーの屑をペロリと舌先で舐め取ると、彼は何故かごくりと喉を鳴らした。
「あれ?もしかして、食べ足りなかったですか?
でももうすぐ夕飯の時間ですし、我慢して下さいね」
クスクスと笑いながら、ソファーにさらに深く腰を沈める僕。
「まさか俺の事、誘ってる?
いや、それはないか。
なんてったって、相手はこの陸斗くんだもんな。
……天然って、恐ろしい」
何故僕が真性ド天然の西園寺さんに、『天然』などと言われなければならないのか?
それを不快に感じ、眉間に深いシワが寄る。
「お菓子は、我慢するよ。
……でも代わりに、ディナーの前に少しだけ君を食べさせて」
僕の体に西園寺さんの大きな体が乗り、重なった。
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