81 / 111

81

「はい、西園寺さん。あーん」  口の中が空になったタイミングを見計らい、にこにこと笑顔でまた新たなクッキーを差し出すと、西園寺さんは幸せそうにそれを頬張り、そして泣きそうな顔になりながらもぐもぐと咀嚼した。    彼の綺麗な顔面が僕の一挙手一投足に左右され、変化するのは見ていて楽しいし面白い。  その事をハラちゃんに以前ポロっと漏らしたら、お前はドS過ぎるとドン引きされてしまったけれど。  でも日々西園寺さんには、迷惑を掛けられているのだ。  これくらいの事をしても、何の問題もなかろう。  それに本人も、何だかんだ言いながら嬉しそうにしているし。 「はい、次で最後です。  西園寺さん、どうぞ」  満面の笑みを浮かべてクッキーを半泣きの彼の口に捩じ込むと、空になった袋をくるくると丸めて、ゴミ箱にポイと投げ入れた。 「あぁ……せめて今日の記念に、包みだけでも持ち帰ろうと思っていたのに!」  慌ててソファーを立ち、ゴミ箱を漁ろうとする西園寺さん。  そんな彼のスーツの裾を軽く引き、制止した。 「今日の記念って、何ですか?  そんなの、いつだって焼いてきてあげますよ」  指先に残っていたクッキーの屑をペロリと舌先で舐め取ると、彼は何故かごくりと喉を鳴らした。 「あれ?もしかして、食べ足りなかったですか?  でももうすぐ夕飯の時間ですし、我慢して下さいね」  クスクスと笑いながら、ソファーにさらに深く腰を沈める僕。 「まさか俺の事、誘ってる?  いや、それはないか。  なんてったって、相手はこの陸斗くんだもんな。  ……天然って、恐ろしい」  何故僕が真性ド天然の西園寺さんに、『天然』などと言われなければならないのか?  それを不快に感じ、眉間に深いシワが寄る。 「お菓子は、我慢するよ。  ……でも代わりに、ディナーの前に少しだけ君を食べさせて」  僕の体に西園寺さんの大きな体が乗り、重なった。

ともだちにシェアしよう!