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 普段の僕であれば確実に、気持ちが悪いと一蹴しているはずなのに。  慣れないキスに翻弄され、頭が蕩けきったような状態だったから、簡単に彼の安っぽい挑発に乗ってしまった。 「馬鹿にしないで下さい。  ちゃんと覚えてますよ、鼻で息をしたら良いんですよね?」  彼のネクタイを引き、今度は僕の方から乱暴に口付けた。  自らの意思で唇を開き、彼の舌先を迎え入れる。  なんてはしたない行為だと頭の隅っこの方で、冷静なもう一人の僕が呆れたように嗤った気がした。    唇を軽く食まれたり、舌先で上顎の辺りを擽られたり。  ただキスをしているだけだというのに、官能的な気分を強制的に高められていくのを感じる。  ここからは言葉を発する事もなく、ただお互いの唇を貪り合った。  きっとこの人は、こういった行為にも慣れているのだろう。  ただ翻弄され続けるのは悔しかったから体勢を変えて、ソファーの上、今度は僕が彼に馬乗りになった。  だけどそこで、少しだけ冷静さを取り戻した。 「西園寺さん……ひとつだけ、答えて下さい。  僕とあなたの関係は、何?」  戸惑ったように、彼の焦げ茶色の瞳が揺れる。   「ちゃんと、答えて下さい!  ……好きだとか、愛してるなんていう甘い言葉で、誤魔化さないで」  彼に、聞きたくて。  だけどその答えを知るのが怖くて、ずっと避けてきた質問。    好意を寄せて貰っているのは、間違いないと思う。  でもこのままズルズルと、この間みたいに体だけを求められるのは嫌だ。  ちゃんと僕達のこの関係に、名前を付けて欲しい。  そんな風に求めてしまうのも、西園寺さんみたいに経験豊富な男性からしてみたら、子供じみた事なのかもしれないけれど。

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