83 / 111
83
普段の僕であれば確実に、気持ちが悪いと一蹴しているはずなのに。
慣れないキスに翻弄され、頭が蕩けきったような状態だったから、簡単に彼の安っぽい挑発に乗ってしまった。
「馬鹿にしないで下さい。
ちゃんと覚えてますよ、鼻で息をしたら良いんですよね?」
彼のネクタイを引き、今度は僕の方から乱暴に口付けた。
自らの意思で唇を開き、彼の舌先を迎え入れる。
なんてはしたない行為だと頭の隅っこの方で、冷静なもう一人の僕が呆れたように嗤った気がした。
唇を軽く食まれたり、舌先で上顎の辺りを擽られたり。
ただキスをしているだけだというのに、官能的な気分を強制的に高められていくのを感じる。
ここからは言葉を発する事もなく、ただお互いの唇を貪り合った。
きっとこの人は、こういった行為にも慣れているのだろう。
ただ翻弄され続けるのは悔しかったから体勢を変えて、ソファーの上、今度は僕が彼に馬乗りになった。
だけどそこで、少しだけ冷静さを取り戻した。
「西園寺さん……ひとつだけ、答えて下さい。
僕とあなたの関係は、何?」
戸惑ったように、彼の焦げ茶色の瞳が揺れる。
「ちゃんと、答えて下さい!
……好きだとか、愛してるなんていう甘い言葉で、誤魔化さないで」
彼に、聞きたくて。
だけどその答えを知るのが怖くて、ずっと避けてきた質問。
好意を寄せて貰っているのは、間違いないと思う。
でもこのままズルズルと、この間みたいに体だけを求められるのは嫌だ。
ちゃんと僕達のこの関係に、名前を付けて欲しい。
そんな風に求めてしまうのも、西園寺さんみたいに経験豊富な男性からしてみたら、子供じみた事なのかもしれないけれど。
ともだちにシェアしよう!