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「おめでとうございます、素敵な一年になりますように」  いつの間にか横に立っていたウェイターのお兄さんはそれだけ言うと、普通よりもちょっと小ぶりなホールケーキを僕達のテーブルに置き、笑顔のままそっと退席した。 「君が怒ると思ったから、音楽を流して貰うのと、食べ切れる大きさのケーキをお願いするだけにしたんだよ?  俺にとっても特別な日なんだから、これくらいは許して欲しいな」  誕生日は昔から、クリスマスと一緒くたにされてきた。  特に妹の莉緒が生まれてからは、うちの食卓に並ぶのは当たり前みたいにクリスマスケーキばかりになった。  可愛い妹が喜んでくれるのは、僕だってもちろん嬉しい。  だけど『Happy Birthday』と書かれたチョコレートのプレートの乗ったホールケーキに、密かに憧れてもいた。    でもうちの家庭は裕福では無かったから、クリスマスケーキとバースディケーキ、その両方を用意して欲しいだなんて、そんな贅沢なワガママは言えなかった。   「もちろん誕生日プレゼントも、用意してるよ。  クリスマスケーキとプレゼントは、明日のお楽しみね?」  テーブルの上に置かれた長方形の、クリスマスカラーではない鮮やかなブルーのボックス。  ついでなどではなく、こんな風に誰かに純粋に誕生日だけを祝われるのは本当に久しぶりだった。  ……どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい。 「ありがとうございます、西園寺さん。  ……開けても、良いですか?」  僕の問いに西園寺さんは嬉しそうに笑い、静かに頷いてくれた。  リボンをほどいて蓋を開くと、中から出てきたのはほんのりグレーがかった、碧緑色のスポーツタイプの腕時計だった。

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