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これはハラちゃんが使っているのと同じメーカーのモノみたいだから、そこまでエグい値段ではないはずだ。
それにちょっとホッとしたから、昨日とは異なり素直にお礼の言葉を口にする事が出来た。
「腕時計がちょうど壊れてしまって困っていたから、助かります。
ありがとうございます、大切にしますね」
「最近していないから、もしかしたらと思ってね。
ちなみにそれ、俺とお揃いだから」
ニッと笑ってスーツの袖口を捲ると、全く同じ時計が彼の手元にも。
これまでは僕でもよく知る高級ブランドの時計を身に付けていたのを知っていたから、なんだか不思議な感じがした。
「そうなんですね。……嬉しい」
自然と溢れ出た、本音。
それを聞き、彼はまた穏やかな笑みを浮かべた。
「そう言って貰えて、俺も嬉しいよ。
あまりたくさんプレゼントを贈ると君に怒られちゃうから特別な日だけにするけど、こんな風に少しずつお揃いが増えていくと良いね」
それはつまり僕と共に、たくさんの時を過ごしていきたいという彼なりの意思表示なのだろう。
僕からしてみたらハードルが高く感じられる事を当たり前みたいにさらりと言われ、心臓がドクンと跳ね上がる。
これは単に、雰囲気に酔ってしまっただけなのかも知れない。
だけど鈍いこの人に任せていたらきっと、僕達の関係は変わらない。
色々と理由をつけ、逃げ続けて来た問題に答えを出すべく僕は彼の手の甲にそっと触れ、瞳を真っ直ぐ見上げて言った。
「西園寺さん、参りました。
降参です。僕の、負け。
……好きです、僕と正式にお付き合いして下さい」
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