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「陸斗くんが、俺の事を……?  しかも君の方から、付き合って欲しいだなんて……」  うざいほどに喜ばれ、あっさり受け入れられるモノだとばかり思っていた。  先程までの格好いい西園寺さんは、どこへやら。  僕の愛の告白を聞いた途端魔法が解けて、落ち着きのない、いつもの気持ちが悪いポンコツ紳士に戻ってしまったのである。  ファンタジーの世界とは、真逆の展開だ。  ……やっぱりちょっと、早まっただろうか? 「えっと……落ち着いて、陸斗くん。  俺は君の、ストーカーだよ?  しかも隙あらばあんな事やこんな事をしたいって考えているような、どうしようもないド変態だよ!?」  蒼白の面持ちで、真剣に僕に訴える彼。  その言葉がたまたま聞こえてしまったのか、驚いたように隣のテーブルの上品なご婦人が、こちらをガン見している。  ……本当に、居たたまれない。 「西園寺さん!まずはあなたが、落ち着いて下さい。  声が、大きいです」  にっこりと微笑み、告げた。  すると西園寺さんは、今度は違った切り口で新たなボケを繰り出した。 「あぁ……なるほど、分かったぞ。  やっぱりこれは、夢だったんだな。  じゃないと陸斗くんが、俺に告白とか……」  ブツブツと、一人呟き続ける彼。  それを見て、本当にこれは悪い夢なのではないかと、こちらがちょっと不安になって来てしまった。 「あのねぇ……ホント、いい加減にして貰えます?  これは、現実です。  ……ね?痛いでしょ?」    あまりにもムカついたから、思い切り彼の頬の肉を捻り上げてやった。

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