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 すると彼は僕の顎先を掴み、無理矢理上を向かせてから『陸斗くん、頑張ろうね』と微笑んだ。  ……でもこんなの、頑張ってどうにかなるものなのだろうか?  先程お風呂場で目にした彼の分身を思い出し、恐怖よりも先に疑問符が頭に浮かんだ。  ひとり困惑したり、動揺したりを繰り返す僕を見て、西園寺さんはまた楽しそうに笑った。 「大丈夫だよ、陸斗くん。  初めてでもちゃんと気持ち良くなれるように、コンドームと、体には害のない安全な媚薬入りのローションも用意して来たから」  コンドームは、使った事はないけれど分かる。  ローションとやらも、バラエティー番組のドッキリ企画などで目にした事はある。  ……だけど彼の言うところの、『ビヤクイリノローション』とはいったい?    脳内に浮かぶクエスチョンマークが、どんどん増殖していく。  そしてそれに気付いているらしき西園寺さんは、何故かますます興奮気味になり、純粋過ぎるだの、本当に天使だだのと一人で騒いでいる。  ……やっぱり気持ちが悪い事、この上ない。  彼の安定の奇行を目にしたお陰で逆に少しだけ冷静さを取り戻したタイミングで、一気にまた現実へと引き戻された。 「陸斗くん、大好きだよ。  君の初めてを、俺に頂戴?」  こてんと首を傾げての、おねだり。  ……やはり、顔が良い。 「……汚くないですか?」  正直あんなところに触られ、突っ込まれるのには抵抗がある。  だけど男同士で付き合っていくのであれば、ああいった事に疎い僕が知らなかっただけで、もしかしたらあれは割と普通の行為なのかもしれない。

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