110 / 111
110
***
こうして僕と西園寺さんは紆余曲折の末、正式に付き合う事になったのだが。
……恋人になろうが、身も心も繋がろうが、人というのはそう簡単には変わらないのである。
「え……店長、これなんですか?
昨日までこんなの、無かったですよね!?」
にこにこ弁当の天井に設置された、防犯カメラ。
それを目にして、思わず声を荒げた。
すると店長はバツが悪そうに目をそらし、変な汗を流しながら答えた。
「えっと……本社からの、意向でね?
ほら、最近物騒な事件が多いでしょう?」
怪しい。……怪し過ぎる。
僕としてはむしろ、これを設置するよう指示をした男の方が、よほど怖いし気持ちが悪い。
例えそれが、僕の愛しい恋人なのだとしてもだ。
しかしそれ以上追求する前に、彼は脱兎のごとく厨房へと逃げていってしまった。
「うゎ、ホントだ!
しかもこれたぶんだけど、ネットでリアルタイムで全部見れるタイプじゃね?
……お前と西園寺さん、本当に付き合ってるんだよな?」
僕同様、犯人の意図を明確に理解したらしきハラちゃんが、心底ドン引きした様子で聞いた。
ちょうどそのタイミングで、店舗駐車場に停められた一台の高級車。
言うまでもない。僕の恋人にして変態ストーカー、西園寺さんの車である。
「こんにちは、陸斗く……」
車から降りてきた彼の挨拶が終わるより早く、笑顔で告げた。
「いらっしゃいませ、西園寺さん。
490円でーす」
もはや商品名を確認する事すら無いまま、事務的に金額を告げた。
「う、うん。
えっと……何か、怒ってる?」
上目遣いに、そろりと僕を見つめる西園寺さん。
……やはり無駄に、顔が良い。
ともだちにシェアしよう!