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無駄な情熱③

「まったく、もう……あなたという人は! 公共の電波を、無駄遣いするんじゃありません」  まるで子供に叱るみたいに、つい口うるさくなってしまう僕。  すると西園寺さんは、いつもみたいにごめんねを連発した。  ひとしきり文句を言い終えたら気が済み、おやすみなさいと挨拶をして通話を切ろうとしたら、西園寺さんがちょっと弾んだ感じで言った。 「そういえば、陸斗くん。さっきのテレビでも話してたと思うけど、うちの会社でもテレワークを導入することになったんだ! だから今度からは、もっと君との時間を取れるようになると思う」  その言葉には、つい嬉しくて本音が溢れ出てしまった。 「そうなんですか? ……めちゃくちゃ、嬉しい」  ボソッと呟くように、小さな声で言ったはずなのに。  西園寺さんはそれをしっかり聞き取り、甘い声で囁くように告げた。 「俺も、嬉しい。それとね、陸斗くん。本社には週の半分程度顔を出せばいいから、君の家の近くにも住む場所を用意しようかと思ってるんだ」  何故か緊張したように、強張る彼の声色。  それを少しだけ疑問に思いながらも、またしても単純に嬉しいと思う感情が疑問に思う気持ちを上回り、あっさりスルーしてしまった。  しかしそこで彼は、思わぬ言葉を口にした。 「だから、陸斗くん。俺がそっちで過ごす日は、一緒にいられないかな? えっと……毎日じゃなくて良いから、まずはお試し感覚で、半同棲的な?」  その言葉に、ドキッとした。  だけどすぐに返事をすることが出来ず、考えておきますと、ちょっと曖昧に答えた。  そう。この時はまだ、僕にも選択肢があると思っていたのだ。  既に外堀はガッツリしっかり埋め立てられていて、僕には逃げ場なんて無いということに気付かずに。

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