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第42話

見慣れた自動車ドアを開けるとチャイルドシートに綾登がどっしりと座っていた。 いつ見ても貫禄がある。 幼児ってもっと可愛いと思っていたが、流石末っ子だ。 その足元へと学校指定の鞄を放り投げる。 「おかえり」 「りー!」 「ただいま」 「こっこ、おいでぇ」 「うぃー」 「ぃー!」 口を横に伸ばして真似をする弟の隣に乗り込むとシートベルトを嵌める。 「一樹は?」 「塾あんだって。 受験対策」 「あー、なるほど」 4月になり受験生となった訳だが、まだ自覚がない。 なったばかりだし、と言い訳したくもなる。 だって、つい2週間前までは2学年だったんだ。 けれど、受験本番まで1年を切っている。 それもまた事実だ。 目標は兄と同じ制服を着ることだ。 文化祭に遊びに行って、楽しそうな雰囲気や壁に貼り付けられた展示物から勉強に対するモチベーションの高さを知った。 こんな世情になる前だったので多少の違いこそあれ、文武両道、遊びにもしっかり取り組める学校に憧れを抱いた。 それに、あの制服を着た兄はとても大人びていて憧れだ。 そんな風になりたい。 たったそれだけの理由だが、それが理由だって良いだろ。 兄に似て毎日コツコツ勉強をしている優登の成績なら、あの進学校も合格出来るだろうと教師は言う。 だからって安心はしない。 どんな事があるか分からないから。 今はただ、目の前の事を1つひとつこなすしかない。 そうして、振り返った時に頑張ったと兄に褒められたい。

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