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第50話
1歩先を歩く長岡は至極ご機嫌だ。
あの後、
「じゃあ、好きって言ってくれるか」
「……ここ、で…ですか?」
深夜で周りにも人がおらず、それを口にするのは簡単なのだが、問題はそこではない。
目がすごく楽しそうな事だ。
マスクから漏れている好奇心のワクワク感。
まるで悪戯をしている時の弟達のよう。
「そう。
カメラに向かって」
「カメラって…録画するつもりですかっ」
「するつもりですよ」
馬鹿ップルでも今頃しないだろ……という事を嬉々として言うんだ。
しかも、すっごく良い顔と良い声で。
この顔に弱いんだ…。
「はい、どうぞ」
スマホを構えた長岡は、どうぞとカメラに重なっていた顔をコテンと倒した。
サラサラと零れる1房の髪すら格好良い。
そんな人に改まって気持ちを伝える。
改めてだとすごく緊張する。
しかも外で、なんて。
そりゃ、外で露出プレイもしたけど……あれは俺もそういう気分だったし…………興奮してたし。
雰囲気に呑まれていたところあるし……。
とにかく、今とは状況が違うから緊張する。
「……あの…、正宗さんのこと……大好き、です」
ソワソワと目を泳がせてしまう。
違う。
言えと言われたから言うんじゃない。
「……正宗さん」
「うん?
どうした」
「俺の、1番は正宗さんです。
世界で1番……大好きです」
心からの気持ちを伝えたい。
言葉にするなら、きちんと手渡したい。
その方が嬉しいから。
長岡はとても嬉しそうな顔をして、俺も大好きだと返してくれた。
カメラを気にせず腕を掴み自分の方へと引っ張り、そっと抱き締めてくれた。
赤ちゃんを抱くみたいに大切に。
だけど、落としてしまわないようにしっかりと。
「すげぇ好き。
だから、ちゃんと愛されてろ」
「俺も愛したいです」
「ほんと。
そういうとこ…。
後でコンビニ行こうな。
桜餅買ってやる」
「一緒に食べてくださいね」
「あぁ」
そうして、コンビニへと向かっているのだ。
繋いだ手を引っ張ると止まって振り向いてくれる。
「どうした」
「んーん。
なんでもないです」
「ほんとか?
トイレとか大丈夫かよ」
「平気ですよ」
また歩みをはじめる2人の影が、駅前まで仲良く寄り添っていた。
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