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第62話
「おにーさん」
「っ!」
神社に入ろうとした背中に男の声が降ってきた。
小雨が人の気配を消していたらしい。
だけど、耳に馴染んだ声。
誰かなんて振り向かなくても分かる。
「正宗さん…」
「お兄さん、1人?
すっげぇ俺好みだから一緒にデートしようよ」
「また、そういう事を真顔で…」
「あれ?
良いにおいすんね」
「あ、アトマイザー、ありがとうございます。
すごく良いにおいです」
「マーキングな。
俺がしたかっただけだから気にすんな」
帰宅してから開けたリュックの中。
そこから出てきたのは手の平にすっぽりと収まる大きさのアトマイザーだった。
香水の小分け…?
蓋を外して空間に一吹きすると、長岡の顔が思い浮かんだ。
柑橘系のさっぱりしたにおいに、柚子の少し苦いにおいが混ざっていて、すごく爽やかなにおい。
大好きなにおい。
これ、正宗さんの使ってるやつだ!
良いにおいする……!
急いで通話を繋げると、マーキングしてぇしと笑っていた。
それでも、すごく嬉しい。
すごく、すごく。
ファブリックミストと共に使うと長岡の部屋のにおいに近くなりとってもえっちだった。
その時、部屋に撒いた物が服に触れ、ふわふわと香る。
今はラストノートの落ち着いたにおいに変化したが、それでも長岡のにおいだ。
なんだか嬉しくなってしまう。
「ほら、行こうぜ」
絡めとられる小指を繋いでデートをはじめる。
「はいっ」
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