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第73話

トイレから出てくると、ポスターを読んでいた三条が駆けてきた。 犬みてぇ かわい 「お待たせ」 「下着はどうですか?」 「サイズはぴったり。 でも、洗ってねぇとなんか腰回りがあれだな。 このウエストゴムんとこ」 「固いですか」 「んー、まぁ濡れてるのよりはマシだ。 遥登もこの前そうだったしな」 駅のトイレで下着を履き替え、そのまま三条の暮らす町を眺める。 2階建ての駅舎。 その上階からは、高速道路を走る車のランプが時々見える。 すっかり早い時間に閉店する事に慣れた飲食店。 ショッピングモール。 灯りの点いた窓が1つだけのホテル。 このご時世になる前はもう少し人がいたと分かる。 良くも悪くも田舎の人は慎重だ。 近所とのコミュニケーションが大切だから。 だから、足並みを揃えようとする。 それを三条は強制されていないか。 またあんな真っ赤な引っ掻き傷をつくったりしていないか。 視線を窓の外から隣へと移した。 「あ、雨止んできましたね」 「ぽいな。 悪い。 コンビニ行くのもう少し待てば良かったな」 「平気ですよ。 正宗さんが暖房つけてくれましたから、すぐに乾きましたし。 それに、パンツ濡れたままだと冷たいし気持ち悪いですよね」 「遥登に下の世話されるとはな」 三条はクリクリした目をパチクリさせると、すぐにふにゃっと笑った。 「本格的なのもしますよ。 任せてください」 「その前に、しこたま潮吹かせてやる」 「声がっ、大きいですっ」 遥登を守りたいのは勿論だが、この顔を自分が見ていたい。 ふにゃふにゃ笑ったり、鈴みたいに笑ったり、おかしそうに笑ったり。 そのどの顔も最高に好きだ。 腕を掴んで傍らに寄せると、この薄暗闇でも明るい自動販売機を指差す。 「お礼、ココアで良いか」 「え、そんな。 大丈夫ですよ」 「はちみつレモンが良いが?」 「でも、」 「飲み終わるまで、ゆっくりしようぜ。 帰んのはそれから。 な」 「……じゃあ、ココアが良いです」

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